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出会いの数はドラマの数
キミに会えてホントによかった

あずさと潤のラブラブデート?
それを追いかける10の瞳

そこにあるのは素敵なひととき
ハートフルファミリーレストラン
Piaキャロットへようこそ!!
 
 
 

Piaキャロットへようこそ!!2SS
written by FUE Ikoma
Muchos Encuentros
第7話『ラヴ・アンド・ラーフ』
Guest:IRIE Masumi








 日曜日、すなわちあずさと潤のデートの日。
 真純は公園の時計台にもたれかかっていた。
 彼女がデートするわけではないのだが、2人の待ち合わせ予定の時刻よりも30分前に来てしまっていた。
(あずささんに恋人だなんて、嘘だよね。うん、嘘々。嘘に決まってるんだから)
 待っている間、彼女はそんなことばかり考えていた。

 予定時刻10分前。
 真純を茂みから覗いている耕治がいた。
(日野森達もそろそろ来るころだよな……)
「おに〜いさん♪」
「え? ともみちゃん?」
「やっほー♪」
「おはようございます、耕治さん」
 耕治が呼ばれて振り向くとそこには、ともみ、ユキ、紀子がいた。
「3人とも、今日はどうしたの?」
「ともみ達は、篠原先生に頼まれて、あずささんたちのデートの様子を見に、もがっ」
「ともみ、言うんじゃないわよ」
 ユキがともみの口をふさぐが、一歩遅かった。
「ぷはぁ。ごめんユキ」
「ミキの差し金? 何考えてんだあいつ? そもそもそんな情報どっから仕入れたんだ?」
 耕治の美樹子への疑問が膨らんだ。
「でも、耕治さんもここにいるってことは、目的は同じみたいですね?」
「あ、いや、俺は………」
 紀子の指摘に、耕治は否定しようにも、うまい嘘が浮かばない。
「ほらほら、さっさと白状しちゃいなさいよ」
 さらにユキが追求してくる。
「……………はい、その通りです」
 耕治は観念した。
「ねえ、あずささん達が来たよ」
 一人真純の方を見ていたともみのその声に、他の3人もそちらのほうを見ると、あずさと潤が連れ立って真純の元に歩いてくるのが目に入った。

「真純ちゃん」
「ほぇ?」
 ずっと物思いにふけっていた真純が呼ばれた方に目をやると、そこには外出着のあずさがいた。
ポーッ
 真純はあずさに見とれている。彼女の隣にいる潤の姿も目に入っていない。
「真純ちゃん、どうしたの?」
 あずさがなおも呼びかける。
「あ、いや、その……ゴホン。あずささん、恋人がいるなんて、冗談ですよね?」
 我に返った真純は咳払いをひとつすると、いきなり核心に触れた。
「いや、だから、この人が」
 あずさが隣の潤を示すと、潤は1歩進み出た。
「神楽坂潤君。私の、その…恋人、なの」
「はじめまして、神楽坂潤です」
 潤が真純に対してにこやかに笑いかける。
 一方真純はあずさが潤を紹介するや否や、潤に敵意剥き出しの視線をぶつけていた。
(こ、怖いな)
 真純の視線に怯みそうになる潤だったが、何とか踏みとどまって言葉を続けた。
「まあ、そういうわけだから、あずささんとのことは諦めてくれ。ボク達これからデートだからもう行くね。それじゃ、あずささん」
「ええ。じゃあね、真純ちゃん」
 潤とあずさは真純に背を向けると公園を出ていった。
 真純は何も言わずに2人の背中を見ていたが、2人が公園から出て行くと、急に笑い出した。
「フフフ……あたしがこんなことで引き下がると思ったら大間違いです。あの潤とかいう人、あずささんか誰かに頼まれて恋人のフリしているだけに決まってます。というわけで、追跡開始ィ!」
 真純は両の拳を腰のあたりに持ってきて気合を入れるとあずさたちを追いかけていった。
 それからすぐ、茂みから4人の人物が出てきた。耕治、ともみ、ユキ、紀子であることは言うまでもない。
「やれやれ、行くか」
 耕治も真純の後を追い始めた。ともみたちもついてくる。
「何でついてくるの?」
 耕治は歩きながら3人に尋ねる。
「えぇ〜っ、ともみたちも一緒に行くんだよ」
 ともみが、さも当然であるかのように答える。
「いや、でも……」
「いいじゃない、目的は同じなんだし」
 ユキも追撃をかける。隣で紀子も頷いている。
「いや、でもな………おっと、真純ちゃんが後をつけてるってこと、日野森達に知らせとかないとな」
 耕治は話を逸らせようと、ポケットから携帯電話を取り出した。
「えぇ〜っと、こうだったかな?」
「お兄さん、携帯使えないの?」
 耕治が慣れない手つきでボタンを押しているのを見たともみが声をかける。
「俺、自分の持ってないから。これも神楽坂からの借り物だし……あれ? どうやるんだ?」
「あ〜もう、貸しなさい。あずささんの携帯にかければいいんでしょ!」
 耕治の様子を見かねたユキが、彼の手から携帯電話をひったくった。 
「よっと。はい、これでつながるわ」
 ユキは慣れた様子で親指一本で操ると、携帯電話を返した。
 耕治はそれを耳に当てる。
TRRRR……TRRRR……
“もしもし?”
 あずさの声が聞こえてきた。
「日野森? 前田だ」
“前田君ね。それで、真純ちゃんは?”
「日野森達を追っかけてったみたいだな」
“う〜ん、納得しなかったのかな?”
「ま、こうなったら彼女が諦めるまでデートするしかないだろうな」
“耕治、話が違うじゃないか”
 突然電話の向こうの声が、あずさから潤に代わった。どうやら一緒に聞いていたらしい。
「神楽坂か。ま、しょうがないだろ」
“しょうがないって…耕治、無責任だよ”
「そう言われてもなぁ……頼むよ神楽坂」
“もう……わかったよ。乗りかかった船だしね”
「はは、ありがとな」
“今度おごってよね。じゃ、あずささん”
“うん。前田君?”
 再びあずさに代わったようだった。
「日野森か。そんなわけだから、俺はあの子の後をつける」
“うん。お願いね”
「それじゃ、また何かあったら連絡――――」
「前田さん、ちょっと借りるね」
 耕治を遮り、ユキが再び携帯電話をひったくった。
「ちょ、ちょっとユキちゃん」
「もしもし、あずささん」
“え? 誰?”
 あずさは急に電話の向こうの声が女の子の声に変わったことに驚いた。
「ユキで〜す。神塚ユキ」
“ユキちゃん? 何で?”
「前田さん1人じゃ頼りないからあたし達も一緒に行きますね」
“え? え?”
 戸惑っているあずさには構わず、ユキは携帯電話をともみの目の前に突き出した。
 ともみはユキの意図を理解し、携帯電話に向かって話し掛ける。
「そういうわけだから、ともみ達にまかせてくださいね」
“ともみちゃん?”
 ユキはさらに、紀子にも突き出す。
「わたしもがんばりますね」
“もしかして、紀子ちゃんも?”
「じゃ、また直接電話なりメールなりで連絡しますので。それじゃ」
Pi…
 ユキは一方的に電話を切ってしまった。
「さぁ、みんな、行くわよ!」
「「おーっ!」」
 音頭をとるユキに、ともみと紀子がならう。
「ほら、お兄さんも」
「あ、ああ」
 ともみが先に立ち、耕治の手を引っ張る。
 主導権は完全にともみ達が握っていた。
(ま、いっか)
 耕治は苦笑しながら彼の手を引くともみ、先に立って歩くユキと紀子、さらに先を歩いている真純の姿を見やるのだった。

「はぁ」
 あずさはため息を1つつくと、携帯電話をバッグに閉まった。
「どうしたの?」
 潤が尋ねてくる。
 潤は耕治と話してからは耳を傾けていなかったため、何があったのかわかっていないのである。
「ともみちゃんたちが一緒にいるみたい」
「え? どうしてともみちゃんたちが?」
「さあ。今日のこと、誰から聞いたのかな? 前田君、てことはないわよね」
「いくら耕治でも、そこまで無神経じゃないさ」
「そうよねえ」
 ひどい言いぐさだった。
「ところで、どこ行く?」
「え? 何のこと?」
 潤の問いに、あずさは首をかしげる。
「だから、その、デート……」
「あ、そうだったわね。どうしよっか」
「う〜ん……とりあえず映画でも行こうか」
「そうね」
 潤の無難な提案にあずさも乗った。
「でも、今何を上映しているんだっけ?」
「あ、調べてなかったなあ」
 あずさの疑問に潤がばつの悪そうな顔を浮かべる。
「まあ、とにかく行ってみようか」
「うん」
 行きがかり上のデートとはいえ、少し先行き不安だった。
「そういえば」
「何?」
 しばらくこれといった会話はなかったのだが、潤の方から話を振ってきた。
「よく考えてみれば、こうしてあずささんと2人であるくことって初めてじゃないかな」
「言われてみればそうね」
「2人で出かけることなんてなかったし、キャロットから帰るときも美奈ちゃんがいるしね」
「うんうん」
 あずさは潤の言葉に頷いている。
「でも、本当にごめんなさいね、神楽坂君。変なことに巻き込んじゃって」
 あずさが改めて潤に謝罪の言葉をかける。
「もういいよ。ま、耕治からもしつこく頼まれちゃったしね」
「……前田君と、仲いいんだ」
「ま、まあ、仲間だし、友達だし」
 潤は一瞬どきりとした仕種を見せながら応じた。
「私だって前田君とはそうだと思うけど…やっぱり男の子同士だと話しやすいことってあるのかな? 坂巻君にしても」
「う、うん。そうだね、ははは」
「ま、男の子同士仲いいのは結構だけど。神楽坂君って彼女とかいるの?」
「いないよ。あずささんは、って、聞くまでもないよね」
「も、もう!」
 あずさは少しむくれながらも潤の顔を覗き見る。
(こうしてよく見てみると、神楽坂君って綺麗な顔してるわよね。体つきもずいぶん華奢な感じで、背も低いし。まるで――――)
「どうしたの、あずささん?」
「女の子みたい」
「え? な、何?」
 あずさの呟きに、潤はまたどきりとした表情になった。
「あ、いや、神楽坂君って綺麗な顔してるなあって」
「な、何言ってるんだよ。ボクは男なんだから綺麗なんて言われても嬉しくないよ」
 焦ったような言い方になる潤。
「でも、神楽坂君が女の子の格好したら、みんなあなたは女の子だって思うんじゃないかしら」
 あずさは開き直ったのか、笑顔で言う。
「や、やめてよ、もう」
「ふふっ、ごめんなさい」
(でも、神楽坂君が女の子の格好したら………ポッ……って、私にそんな趣味はないってば!)
バシバシ!
「あずささん、痛い。痛いよ」
「あ、ごめんなさい」
 あずさは妄想の照れ隠しに、潤の背中を思い切りたたいてしまっていた。
 そんな2人の様子を見ていた真純は…………。
(何なのあの2人、仲よさそうにしちゃって。むっっきーーっ!)
 悔しがっていた。
 

 ピアキャロット本店の執務室。
 哲弥は祐介に頼まれて、本店にお使いに来ていた。
「それではオーナー、失礼します」
「あ、いや、待ちたまえ」
 出て行こうとする哲弥を泰男が呼び止めた。
「何ですか?」
 ドアの前まで来ていた哲弥が振り返る。
「君と少し話がしたくてね」
「おれはまだ仕事の途中なのですが」
「大丈夫だ。祐介には話をつけてある」
「おれをここに連れてくることが1番の目的だった、というてことですか?」
「そう思ってくれても構わないよ。私はどちらが1番でもよかったのだがね」
「ま、おれもどちらでもいいんですけど」
 哲弥は机の前まで来ると泰男を凝視する。
 それからは淡々とした会話が続いた。
「それで、何を話すんですか?」
「君について聞きたいことはいろいろある。財閥の人間がキャロットに来るなんて思わなかったのでね」
「坂巻は財閥じゃありませんよ」
「失礼。まだそうじゃなかったね。しかし、あと数年もすればそうなるだろう。提携先の企業を全て吸収することで。そして君は次期会長、か」
「おれはもう家を出た身です。何の関係もありません」
「それでも周りはそう思ってはくれないだろう。坂巻の名は君について回ることになる。私がこうして君と話をしているのだってそうだ」
「…………………」
「坂巻家の長男は経営マシンとして育てられていると聞いたことがある。君のことだろう?」
「……確かにおれはそういう育てられ方をしたし、このまま行けば、10年後には一財閥の会長になっていたでしょう」
「10年後? ずいぶん早いな」
「あの男は表舞台からは引退し、裏でおれを操ることが目的でしたからね。大方将来自分にかかる火の粉を少しでも減らすのが目的でしょうけど。そのためにおれは、企業家として、経営者としてのあらゆるノウハウを叩き込まれました。すべてはあの男自身が力を手にするために」
「そういうことか。まあ、今の君ならキャロットでもマネージャーにはなれそうだな。君の知識と能力が魅力的に映るのは確かだ。君を欲しいと思っている者も多いだろう。だが、1つ言っておこう。ピアキャロットは坂巻やそういった者達からの避難所ではない」
「おれみたいな爆弾はいらないということですか?」
「それは祐介に任せるつもりだ。でも、君が本当にそのつもりなら、私は君にいてほしくはないよ」
「話はそれで終わりですか?」
「ああ」
「それでは失礼します」
 哲弥は軽く会釈をすると、執務室を出ていった。
バタン
「嫌われたかな?」
 ドアを見つめながら泰男はつぶやいた。

 執務室を出た哲弥は、こそこそと立ち去ろうとしているウェイトレスを捕まえた。
「また立ち聞きですか?」
「またって、常習犯みたいに言わないでくださいよ」
 ウェイトレスが口を尖らせる。
「でもこの間のお見合い騒動は、あなたの立ち聞きから始まったんですよね」
 哲弥が捕まえたのは、先日、涼子と泰男の結婚話という誤報を持ちこみお見合い騒動を引き起こす発端となった女性、歌鈴だった。
「あれはたまたまです」
「たまたま、ですか」
 哲弥は呆れた視線を送る。
「でもほら、立ち聞きってドラマとかのフィクションでは、重要な情報を得るための常套手段ですよ」
「というか、あれって作る側は他に思いつかないのか、って突っ込みたくもありますけどね」
「うわ、何か身も蓋もない言い方」
 そのまま2人は笑い合う。とそこへ――――。
「歌鈴ちゃん、何サボってるの!?」
 留美が怒った表情で入ってきた。
「あわわ、留美さん、すいませ〜ん。それじゃ、私行きますね」
「ええ、がんばってくださいね」
 歌鈴は留美に謝り哲弥に別れを告げるとフロアに戻っていった。
 

 ピアキャロットの近くの駅前には小さな映画館が1件ある。
 あずさと潤はその映画館の前に来ていた。
 前もって映画を見ると決めておけばもっと大きな街に行っていたのだが、行き当たりばったりだったので近場の映画館に落ち着いたのである。
 駅前映画館で現在公開されている映画は以下の3つだった。
 『あんぱん王国の野望』『キャノンボールストリート』『トリックとマジック』。
「ねえ、神楽坂君、これなんてどう?」
 あずさが示したポスターは、あんぱん帝国の野望、だった。
 ポスターには数人の二枚目俳優が、あんぱん片手にきりっとした表情を浮かべて写っている。
 潤はポスターに書かれている見出しにも目を通した。
「どれどれ………1970年に制作されながら公開されることなくお蔵入りになっていた幻の名作、か。あずささん、レトロ趣味?」
「そういうわけじゃないけど、何となくこれがいいかなぁ、って」
「ふーん、観てみようか。あ、その前に耕治達に連絡入れとかないとね」
「うん。私がメール送るから、神楽坂君はチケット買ってて」
「OK」
 あずさは携帯電話を取り出すと、メッセージを打ち始めた。その最中、チラッと潤の方に目が行った。
(何だか本当にデートっぽくなってきた、って、だから何考えてるのよ私は!)
 あずさは頭をぶんぶん振ると、メールを送信した。
(まずは映画。いかにも定番……ううん、あたしは認めてないんだから)
 あずさと潤が映画館に入ったのを見届けると、真純も後を追って入っていった。そして――――。
「俺達も入るわけ?」
「だって、ともみ達だけここで待ってるなんて退屈だよ」
「大丈夫よ、アンタに奢ってもらおうなんて思っちゃいないから」
「あんぱん王国の野望、観てみたいです」
 渋る耕治に対し、ともみ、ユキ、紀子は自分たちも映画館に入ることを主張する。
「でも、中に入ったら日野森達を見失っちゃうかもしれないし」
「入り口の近くの席に座ってればいいじゃない」
 耕治の懸念をユキが否定する。
「……ま、いっか」
 耕治も映画館に入ることを同意した。
「じゃ、行こう、お兄さん」
「わっ、ともみちゃん」
 ともみが耕治の腕を引っ張って中に入ろうとする。ユキと紀子もその後に続いていった。

「ねえ、神楽坂君、これっておもしろいの?」
 上映中ということもあり、あずさは小さな声で潤に話し掛ける。
「最低の映画だと思う。これじゃあお蔵入りになって当然だよ」
 潤がばっさりと言いきった。
 雑なセット、演技の下手な俳優、そして何よりストーリーのくだらなさ。
 始まってから30分。席を立つ客も出ている。
「神楽坂君、もう出ない?」
「そうだね。これ以上観てたらおかしくなりそうだし」
 あずさと潤も席を立つと、げんなりとした表情で出入り口の方に向かった。
(フフッ、映画は失敗。そろそろボロが出るころだよね)
 早々に映画に見切りをつけてあずさ達を見張っていた真純は、2人が席を立つとその後を追った。

「何なのよこの映画、こんなのに金払ったなんて、あ〜腹が立つ」
「ユキちゃん、落ち着きなよ」
 カリカリしているユキを紀子がなだめる。
「でも、ともみだってそう思うでしょ……ともみ?」
「「すぅー、すぅー……」」
 ともみからの返答がないのでユキがともみの方を見ると、彼女と耕治が寄り添うようにして眠っていた。
「…………………」
ばきぃっ
「だぁっ、な、何だっ?」
 ユキに頬を殴られて耕治が目を覚ました。
「まったく、何のんきに寝てるのよ」
「ユキちゃん、やりすぎだよ」
「フンだ」
 紀子に諭されるも、ユキはそっぽを向いてしまった。
「むにゅう……あれ、どうかしたの?」
「あ、ともみちゃん。えっとね………」
 目を覚ましたともみが何があったか尋ねるが、紀子はうまく答えられないでいる。
「ふに? あ、あずささんだ」
「「「え?」」」
 まだ寝ぼけ眼のともみが指差した方向に3人が目をやると、あずさと潤が出て行くところだった。その後ろには、真純の姿もみえる。
「よし、俺達も行こうか」
「「「おー」」」
 耕治の音頭に3人も応える。映画館の中なので大きな声は出せなかったが。
(ふぅ、何とかまとまったみたいだな)
 耕治は先ほどのどたばたがうやむやになったことにホッとしていた。

「どう?」
「うん。真純ちゃん、まだついてきてるって」
 耕治達からのメールを受け取ったあずさが報告する。
「ふぅ、もう少し続けないといけないみたいだね」
「ごめんなさいね」
「もう謝らなくていいよ。仕方ないさ」
(仕方ない、ねえ)
 ここで相手が耕治ならすぐさま『どういう意味よ!』と反論するであろうあずさだが、潤に対してはそんな気になれず、少し考え事をしていた。
「ねえ神楽坂君、私とデートしていて楽しくない?」
 少し体制を低くして、上目遣いで、真剣な顔つきで問い掛けるあずさ。
「ええっ? そ、それは……」
(ううっ、何て答えればいいんだろう?)
 潤は黙りこくってしまう。あずさから目を逸らすこともできない。
「ぷっ、ふふふ………」
 と、突然あずさが笑い出した。
「え?」
「ごめんなさい、ちょっとからかっただけ」
「……もう、たちが悪いよあずささん」
 潤がむくれる。
「だからごめんなさいってば。神楽坂君が仕方ない、ってばかり言うものだから、ちょっとね」
「あ……ごめん、無神経だったかな?」
「ううん、気にしないで。じゃあ、次はどこ行く?」
「そうだなぁ」
 2人は考え込む。
「あ、そうだ」
 あずさが何かひらめいたようだった。

「神楽坂君、これなんてどう?」
「う〜ん、それとの組み合わせだったらこっちかな」
 あずさの提案により、2人は服飾店に来ていた。
「あ、そうねえ、いいかもしれない」
 ファッションに関して話が弾む。
「でも、どうして服なんかを?」
「いつもは学校の友達かミーナと一緒だからね。たまには違う人達の意見も聞いてみようかなぁって。それに、学校の友達、みんな受験勉強中で誘えないし」
「あ、そうだったね」
「でも、神楽坂君に付き合ってもらって正解だったかも」
「そう?」
「うん。男の人ってこういうの退屈するものだと思ってたけど、神楽坂君、結構いい意見言ってくれるし。なかなかいいセンスしてると思うわ」
「ま、まあ、ボク、ファッションとかにも興味あるから」
「そうなんだ。でも神楽坂君、いつもだぼっとした服着てるわね」
「え? あ、うん、こういうのが好きなんだ」
 潤はなぜか、ぎくりとしたような表情を浮かべながら言った。
「そうなんだ……よし、私が1着見立ててあげる」
「え? い、いいよそんな」
「遠慮しないで。そうねぇ……あ、これなんかどう?」
 あずさは1着の黄色いブラウスを潤の前に差し出した。
「……あずささん。それ、女物の服だけど」
「え? あ、ごめんなさい」
(な、何やってんだろ私?)
 あずさは赤面しながらブラウスを戻した。
(アヤシイアヤシイアヤシイ………)
 そんなあずさたちを試着室から伺う真純がいた。

「ねえねえ、これ、可愛いと思わない?」
「相変わらずともみはお子ちゃまね。選ぶんだったらこういうのにしなさいよ」
「わたしはこっちの方がいいと思うけどな」
「お〜い3人とも、まじめにやろうね」
 ともみ、ユキ、紀子は店に入るなり自分たちも服を見ていた。
 耕治はその横で1人溜息をつきながら、あずさ達と真純の様子を見ていた。
 

 それから後も、喫茶店で昼食を取ったりウィンドウショッピングを繰り返したりと、特に変わったことをするわけでもなくデートは進んでいった。
 なおも真純の追跡は続き、耕治達もそれを追い続けている。
「いつまで続くんだろうなぁ」
「う〜ん、真純さんもしつこいよねえ。ともみも疲れてきちゃった」
 耕治がポツリと漏らした呟きにともみが相槌を打つ。
「いや、それだけじゃないんだけどね」
「どうかしたんですか?」
「いや、何でもないよ」
 更なる呟きに紀子が突っ込むが、耕治はしらばっくれた。
 耕治が疲れているのは真純の追跡以上に、ともみたち3人に振り回されていることが原因だった。
 もっとも彼はそんなことを口に出して言える性分ではない。
「よし、ここでテコ入れしようか」
 双眼鏡で、真純を隔ててその先を歩くあずさたちの様子を見ていたユキが言った。
「テコ入れって、何するの?」
 紀子が尋ねる。
「前田さん、携帯貸して」
「え? でもユキちゃん、自分の持ってるんじゃなかったっけ?」
「いいから!」
「…はい」
 ユキに強く言い切られて耕治は潤から借りた携帯電話を差し出した。
 ユキは携帯電話を受け取ると、何やらそう差し出した。
「メール打ってるの?」
「うん」
 ともみの問いかけに頷くユキ。
「それだったら、どうして自分の携帯使わないの?」
 今度は紀子が問う。
「あたしの携帯から送ったら、あたしが送ったってバレバレじゃない」
「ちょっと待ってよ、そんなにヤバイ内容なの?」
「もう遅いわ。はい、送信完了、っと」
 耕治が止めようとするよりも早く、ユキはメールを送信してしまった。
(どんな内容なんだ?)
 耕治の胸の中で不安が膨れ上がった。

 メールを受け取ったあずさは潤とともに足を止め、携帯電話の画面に目を通していたが――――。
「何よこれ?」
 メールを読んだあずさが顔をしかめた。
「どうしたの?」
 潤が尋ねてくる。
「あ、あのね、その…………手を、つなげって」
「ええっ?」
 搾り出すように言うあずさの答えに、潤も驚いた顔になる。
「真純ちゃん、まだまだ私達の後つけてるから、手をつないでラブラブなとこ見せろって、前田君が」
「耕治が?」
「う、うん」
 …………………………。
 2人とも黙りこくってしまう。
「あ、あのさ」
 再び口を開いたのは潤の方からだった。
「手、つなごっか」
「え?」
「あ、いや、その、そんなに意識することじゃないと思うし。手、つなぐくらいなら」
「あ、うん。そ、そうよね。そうそう」
 潤の言葉に、あずさは自分に言い聞かせるように、こくこくと頷きながら言った。
「じゃ、じゃあ」
「う、うん」
 あずさが潤の方に手を差し出すと、潤は軽くあずさの手を握った。
 2人とも手袋をしていなかったので、直接触れ合う形になる。
(やっぱり女の子みたいな手よね。それに……神楽坂君と一緒にいても、何かデートしてるって感じがしないのよね。むしろ、女友達同士で遊んでる、って感じの方が強いわ)
 潤と手をつなぎながら、あずさはそんなことを考えていた。そして、彼女の中に疑惑が生まれた。
(神楽坂君、本当は女の子だったりして)

 夕方、あずさと潤は、朝に待ち合わせをしていた公園まで来ていた。
 空も徐々に暗くなってきている。
「さてと。もうこんな時間だし、この辺にしようか。とりあえず、駅まで送るよ」
「う、うん、ありがと。神楽坂君、今日はありがとう」
「……あずささん」
 2人の会話に後ろから割り込んできた声に振り向くと、真純が真剣な表情で2人を凝視していた。
「今日1日、あたしは影ながらお2人のデートを見せていただきました」
((知ってる))
 あずさと潤は、敢えて口には出さなかった。
「そして……お2人が、本当に付き合ってるんだということがわかりました」
「そ、そう。じゃあ――――」
 あずさが、ようやく開放されたという安堵感に包まれたのは一瞬のことだった。
「でも、あたし、負けませんから」
「「え゛?」」
 真純の言葉に、あずさと潤の声がハモった。
「潤さん、必ずあなたから、あずささんをあたしの方に振り向かせてみせます」
 真純は潤を指差すと、そう宣言した。
(仕方ないかな。というか、最初からこうしていればよかったんだろうけど)
 あずさは溜息をつくと、はっきりということにした。
「真純ちゃん。はっきり言うけど、私は女の子と付き合う気はないの。だから――――」
「嘘をついてもだめです。潤さんだって女の子なんですから」
「ええっ?」
 真純の切り返しに、あずさは潤の方を見る。
「な、何言ってるんだよ、ボクが女だなんて、そんなわけないじゃないか」
「あたしの目は誤魔化せませんよ」
「うっ」
 何とか否定しようとする潤だが、真純の視線の鋭さに言葉が出てこない。
「今日はこれで失礼します。でも、あたし、諦めませんから。それでは」
 真純は踵を返すと去っていった。
「………………ふぅ」
 潤が大きく息をついた。
「ねえ、神楽坂君。その………真純ちゃんの言ってたこと、本当なの? 女の子って……」
「それは……」
 潤はに詰まっている。
 あずさ自身も潤が女では、という疑いは持ったが、いざとなると驚いてしまう。
 そのときだった。
「よぉ、おつかれさん、って、どうしたんだ?」
 少し離れたところから様子をうかがっていた耕治がともみ達を伴って、陽気な声で話し掛けながら近寄ってきた。
 耕治達の所までは会話の内容が聞こえてこなかったので、今この場の緊張感がわからなかったのである。
「あ、前田君」
「耕治ぃ〜」
 あずさはともかく、潤はすがるような視線を耕治に向ける。
「どうしたんだ?」
「あのね、前田君。真純ちゃんが……神楽坂君が女の子だって言うの」
「な、何ぃっ、バレちまったのか? って、あっ」
 耕治はあずさの問いに対して思わず言ってしまった言葉に、しまったとばかりに口を塞ぐ。
「ちょ、ちょっと、バレたって、それじゃあやっぱり――――」
「い、いや、違うんだ日野森」
「もういいよ、耕治」
 何とか否定しようとする耕治を潤が制した。潤はそのままあずさの方を向く。
「あずささん、真純ちゃんの言う通り、ボクは女の子だよ」
「………そうだったんだ。それで、前田君は知ってたわけね?」
「ああ、まあな」
 耕治はバツが悪そうに答えた。
「それで、どうして神楽坂君は男の子のフリをしてて、前田君はそれを知ってたの?」
 あずさが核心をついてきた。
「「それは……」」
「説明してもらえるわよね」
 あずさの口元には笑みが浮かんでいるが、目は笑っていない。
「どうしたんだよ日野森?」
 不機嫌なあずさに疑問を持った耕治が尋ねる。
「ねえ、ユキ、誤解って何だろ?」
「聞こえなかったあたし達が知るわけないじゃない」
 ともみがユキに尋ねるが、ユキの言い分ももっともである。
「あずささん、誤解って何のことなんですか?」
 紀子があずさに尋ねた。
「真純ちゃん、私が神楽坂君は女の子だってことを知ってて付き合ってると思ったのよ」
「ってことは、あの子は、日野森も、その、何だ、女の子の方が好きなんだ、って勘違いしてるってことか。ってことは、彼女を乗せちまったのか」
 耕治が言いにくそうに言葉を発する。
「ちょっと待ってよ、それじゃ、今日のは無駄骨だったってこと?」
「無駄骨って言うよりは、完全に裏目だったんじゃないの?」
 耕治に食って掛かる潤に、ユキが残酷な一言を投げつけた。
「そんなぁ」
 潤はがっくりと肩を落とした。
「ま、そんなわけだから、私には説明を受ける権利があるわ」
 話を強引に仕切り直すあずさ。
「お兄さん、ともみ達にも教えてくれるよね」
「ま、当然よね」
「わたしも知りたいです」
 ともみ達3人も、耕治に向けて期待する眼差しを向けている。
(今日は永い1日だなぁ)
「ははははは………」
 耕治は少し泣きたい気持ちになった。
 そしてこういったときに人が本能的にすることは……笑うことだった。
 
 

「ねえねえ、耕治ちゃん」
 ピアキャロットの制服に着替えて事務所に出てきた耕治につかさが話し掛けてきた。
 側には・ずさもいる。
「どうしたの?」
「今日、新しい子が来るんだって」
「へぇ、どんな子なの?」
 ちょうど事務所に入ってきた潤も会話に加わる。
 あれから数日。潤はあずさ達には事情を説明したものの、他のピアキャロットのメンバーには黙っておいてくれるよう頼んだ。
 あずさたちもそれを受け入れ、潤はピアキャロットでは未だに男性従業員として通っている。
「男の子で、高2らしいわよ」
 あずさが説明する。
「ボクや潤ちゃんと同じだよね」
「そうだね」
 つかさの言葉に潤も相槌を打つ。
 そのとき、フロアへのドアが開いて涼子が入ってきた。後ろにウェイター姿の人物を従えている。
「あ、ちょうどよかったわ。新しい仲間を紹介するわね」
 涼子が半歩後ろに下がると、後ろに控えていた人物が進み出た。
「今日から入る入江真純君よ」
「一生懸命がんばりますので、よろしくお願いします」
 新人、入江真純が元気よく挨拶した。
「あっははー、よろしくね。あれ、3人ともどうしたの?」
 負けじと元気に挨拶を返したつかさが、倒れこんでいる耕治、あずさ、潤に尋ねる。
「「「ちょっとね」」」
 3人は曖昧な返事を返した。真純の方を見ると………彼女はあずさに向かってウインクをした。 
 
 
 
 

次回予告
涼 子:私が予告をするなんて。何を言えばいいのかしら?
    私なんて、地味で面白みがないし、誰も聞いてくれないわよね。
 葵 :な〜にやってんのよ。ほら、これでも飲んで。
涼 子:あ、葵、どうしてあなたがいるの?
 葵 :アンタが頼りないんで来てあげたんでしょうが。ほら、これ飲めば元気出るから。
涼 子:あ、ありがとう。ごくごくごく……ひっく、これ、お酒?
 葵 :どう? 元気出るでしょぉ。………涼子?
涼 子:そう。地味な私を使うことで他のみんなを引き立たせようって言うことよね。
    私はピエロなのね。そうよ。そうなんだわ。ぶつぶつ………。
 葵 :どうして今回に限ってマイナス志向?
涼 子:次回、Muchos Encuentros 第8話『ラヴ・スクランブル』。ひっく。
    面白くない予告でしょう? だからせめて……脱ぐわね。
 葵 :結局それかい!
 
 

あとがき
 こんにちは、笛射駒です。
 潤×あずさ派の方々(っていないですよね)、お楽しみいただけたでしょうか?
 もう少し書きこみたい気もしましたが、さすがに長くなってしまったので。
 今までこのシリーズでは、潤が女だとは一言も書いてませんでした(それらしい描写は入れましたが)。
 そんなわけで、この回でネタばらしです。
 潤にはライバル登場(?)ということで次回は完結編です。
 それでは、お付き合いいただきありがとうございました。

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