Original Works 『Kanon』



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 Kanon Short Story






 深夜、あたしは祐一を見つめながら先日のあゆちゃんの告白を伝えてみた。

 「そっか、あゆも子供じゃないんだなぁ……」

 「そうよ、だから人前でも子供扱いしたらダメよ」

 「ああっ、気を付けるよ」

 「でもあゆちゃんて娘たちみたいな親近感有るのよね、どうしてだろう?」

 「やっぱり俺たちの天使、娘たちと同じ空気を持っているからじゃないか?」

 「そうね……娘たちの時にも力貸してくれたみたいだしね」

 「あー、俺も祈っている時に頭の中で羽を見た気がするぞ」

 「本物かもね」

 「あゆが天使か……食い逃げする天使は戴けないな」

 「そうそう、今までありがとうですって。今度から自分で払うって言ってたわよ」

 「たい焼きか? 別に良いのになぁ〜」

 「その分、祐香と祐理にして上げてって」

 「参ったな、本当に大人になったんだな、あいつ」

 「あと、今まで通り『あゆ』って呼び捨てで良いって」

 「………………」

 「どうしたの?」

 「いや、ちょっと悔しいなぁって思っただけ、あゆにやられた感じだ」

 「ふふっ、寂しいって顔に書いてあるわよ♪」

 「そ、そんな事無いぞ、小遣いが減らなくて大助かりだぞ」

 「ふ〜ん、まあそう言う事にして置いて上げましょう」

 「なんだよ、その訳知り顔は?」

 「別に」

 あたしから目を反らして天井を見上げる祐一の横顔は、言葉とは違ってやっぱり寂しそうだった。

 「……みんなも解っていると思うんだけど、あゆの様にはいかないかぁ……」

 「大丈夫よ、祐一の気持ちは伝わっていると思うわ、あゆちゃんの様にね」

 「だと良いんだけど……」

 「うん?」

 「たぶん、名雪だけはあゆの様にいかないと思う」

 「あ……そうね」

 小さい頃、思いを告げられず突然居なくなった祐一が、また自分の側に戻ってきてくれた。

 今度こそ思いを伝えられると思っていた、でも祐一が求めた相手は自分じゃなかった。

 それも親友のあたし、面識もないあたしと祐一が惹かれ合った結果、のけ者にされた名雪にしてみれば

 もの凄く悲しかった筈だわ。

 あたしが名雪に強く言えないのは、たぶんその事が負い目になって心のどこかに有るからかもしれない。

 まあ秋子さんがこっちの味方をしたのも、その負い目の中に入っているんだけどね。

 だからあゆちゃんの様に笑顔でとはいかないと肌で感じている。

 「香里」

 そんな考えに沈んでいた意識を祐一の声が引き上げてくれた、そして呼ばれたを方に向くと祐一があたしを

 見つめて微笑んでいた。

 「あれでも秋子さんの娘だ、ついでに言うと俺のいとこでもある」

 「それを言われるとどことなく納得しちゃうのよね……」

 「きっと泣くと思う、ただ名雪だって頭では解っているけど心の中はまだダメなんだろう」

 「うん……」

 祐一に抱き寄せられて頬を合わせて、あたしたちはこれから起こる事をしっかりと見つめていこうと思っていた。








 かおりんの夢は止まらない♪ 第八話






 Presented by じろ〜







 あゆちゃんの態度が、あたしたちに対する接し方がほんの少し変わった事にみんなが気が付くのは、

 それほど時間は掛からなかった。

 例えば家に遊びに来ても、一番初めに自分の家に帰る様にしている。

 「それじゃお休みなさい」

 そう言う時もいつも笑顔で去っていく、名残惜しそうにもしない。

 そんなちょっとした事を当たり前の様に、言葉じゃなくて行動で見せるあゆちゃんに、みんなも何かを感じたみたい。

 「もう遅いから帰るね、ほら真琴も帰ろう」

 「あう〜、どうしたのよあゆあゆ、なんか変!」

 「あゆあゆじゃないよ、あゆお姉ちゃんだよ」

 「お姉ちゃんって生意気ー、あゆあゆで充分よー!」

 「うぐぅ、ボク年上なのに……」

 「真琴、仮にも年上なんだから言う事ぐらい聞いてあげろよ」

 「仮じゃなくて祐一くんと同じ年だよ!」

 「あう〜、解ったわよ、帰るわよあゆあゆっ」

 「お姉ちゃんは?」

 「全然そう見えないから言わない〜」

 「うぐぅ」

 「ファイトだあゆあゆ、きっとたい焼きの神様が見守っているぞ!」

 「祐一、いい加減な嘘付くんじゃ無いわよ」

 「えっ、たい焼きの神様っていないの?」

 「見ろ香里、あゆあゆは信じているぞ?」

 「ごめんなさい、あたしの負けね」

 「うぐぅ、なんだか解らないけどたい焼き神様はいるんだよね♪」

 その笑顔はまさに天使そのもの、だからたい焼きの神様だっていると信じちゃう。

 あゆちゃんは何も言わない、でもその笑顔がみんなの心の硬く結んでいた物をゆっくりと解していく。

 中でも舞さんは勘の鋭さから、自分のやらなくてはいけない事を、向き合わなければならない自分の気持ちに

 一歩だけどしっかりと踏み出した。

 それは病院の帰りに佐祐理さんと家に寄って夕飯を食べている時、舞さんは箸を置いて静かに呟いた。

 「祐一」

 「ん、どうした舞」

 「わたし、がんばるから……」

 「うん」

 「あゆに出来てわたしにできない訳が無い」

 「そうだな、舞ならできる」

 「でも、すぐには無理だと思う……だからもう少しだけ、いい?」

 「ああ、構わないぞ」

 「ぐしゅ……ありがとう祐一」

 差し出された祐一の手をしっかりと握り返す舞さんの笑顔は、あゆちゃんに負けないぐらい綺麗だった。

 そんな舞さんを見ていた佐祐理さんも、胸元を押さえてゆっくり話し出す。

 「舞……佐祐理も、佐祐理も舞に負けたくないです」

 「わたしより佐祐理より強い、だから大丈夫。それにわたしがいるから……」

 「舞は一人じゃないです、祐一さんに香里さんがいる様に、舞には佐祐理がいます」

 「うん、佐祐理も一緒にがんばろう」

 「あはは〜、舞に負けませんよ」

 「それはこっちのセリフ、返り討ち」

 「あ〜、舞、酷いです〜、そう思いませんか祐一さん?」

 「うん、でも佐祐理さんも舞と同じぐらい信じています」

 「祐一さん……はい、ありがとうございます」

 目尻にちょっとだけ涙を浮かべた笑顔は、さっきの舞さんと同じ素敵な笑顔だった。

 もう片方の手をしっかりと握って、舞さんと頷き合っている。

 ちゃきっ。

 「祐一、佐祐理を泣かしたらダメ」

 「うおっ、いきなり剣を突きつけるな!」

 「冗談」

 「は、はえ〜、舞が冗談なんて、成長したんですね〜」

 「はちみつクマさん」

 ああ、あたしにも解る、あゆちゃんと同じ笑顔がここにある。

 あたしも負けられない、油断したら祐一は彼女たちの方に行ってしまう。

 だからあたしも微笑む……祐一の妻として、そしてなにより二人の娘の母親として。

 「「ママ、おねえちゃんたち、どうしたの?」」

 「うん、凄く良い事が有ったのよ」

 「「いいことー?」」

 「二人が大きくなったら、わかるわ。だからそれまでは我慢しなさい」

 「「はーい」」

 あゆちゃんに続いて舞さんと佐祐理さんも自分なりに、気持ちに向き合っているみたい。

 まあ舞さんの場合はちょっと態度が大げさすぎる気がしないでもないけどね。

 あゆちゃんみたいにさりげなくやっているのは佐祐理さんのほうかな?

 でも、焦っても仕方がないと思っているのか、二人ともお互いを支えつつゆっくりと前に歩き出した感じがした。






 意志が強い舞さんとい佐祐理さんが変わった事は、更に大きな衝撃をみんなに与えたみたい。

 あゆちゃんは自分の事のように喜んでいたけど、たぶんそれ以上に嬉しかったんだと思う。

 自分の行動が、思いが伝わった証でもある二人の態度を見て、あたしは今日も我が家で朝食を食べている

 あゆちゃんに改めて敬服した。

 「あゆちゃんは凄いわね」

 「んぐっ? そんな事無いよ、香里さんの方が凄いよ」

 「どうして?」

 「だってあの祐一くんと結婚して、子供まで作っちゃうんだからね」

 「そうね、あの祐一とまさかこうなるとは思ってもみなかったわ」

 「本人を目の前に酷い事言ってないか、二人して?」

 「「事実だもんねー」」

 「くっ、姉妹みたいに息ぴったり……栞の立場無いぞ」

 「それは大丈夫、栞はずっとあたしの妹に変わりないから」

 「う〜ん、ボク真琴のお姉ちゃんだけど、いつになったらお姉ちゃんって言ってくれるかなぁ」

 「それは難しいと断言できるぞ」

 「言い切る祐一くん、きらいだよ」

 「むうっ、それは残念、あゆの事大好きなのにな」

 「言う相手が違うでしょ? それは香里さんに言ってよね」

 「「パパ、うわきはめーなの!」」

 「ど、どこでそんな言葉覚えたんだ、うちの娘たちは?」

 「はい、祐一の負けは決まっているんだから、おとなしくしなさい」

 「祐一くんの負けだね」

 「ううっ、まさかあゆに負ける日が来ようとは……かなり悔しいぞ」

 「「まけまけ〜」」

 「なんか二人の突っ込みが香里そっくりになってきたぞ?」

 「当たり前でしょ、あたしの娘なんだから」

 「うっ、今頭の中に嫌なビジョンが……」

 「どんな?」

 「たぶんね〜、大きくなった優香ちゃんと祐理ちゃんと香里さんの三人で、祐一くんに突っ込みいれてる所かな?」

 「……あゆ、おまえ何故詳しく解る?」

 「えへへ、内緒だよ♪」

 「さすがあゆちゃん」

 そう言いながら立ち上がると、あゆちゃんを後ろから抱きしめたら、祐一が半目になってにやりと笑った。

 「うーん、まさか香里とあゆがそんな関係になるとは……あながち嘘じゃなかったんだなぁ」

 「そんな関係って……うぐぅ、誤解だよ祐一くん!」

 「あらっ、あたしは構わないけど……今晩どう?」

 「ボ、ボク、あの、その、初めは男の人が……って香里さん!」

 「まさかこれはひょっとして……ぐはっ」

 「祐一、今何を考えていたのかはっきり言ってみなさい」

 「うぐぅ、祐一くん、えっちだよ!」

 「ふーん、二人は解っているのに言う必要があるのか?」

 「「ぐっ」」

 「俺の逆転勝ちだな、正義は勝つ!」

 「「ママ、なんのおはなし?」」

 「あ、あなたたちはまだ知らなくても良いのよ」

 「そ、そうだよ、大きくなったらね」

 「「けち〜」」

 「だめ押しじゃん、香里、あゆ?」

 「「うぐぅ」」






 変わらない日常の中で、あたしたちの関係は今より前に向かって変わっていく。

 今日は縁側で美汐さんと真琴ちゃんが珍しく二人っきりで話をしている。

 「あう〜」

 「どうしました真琴?」

 「みんななんか変、あゆがおかしくなってから変わっちゃった」

 「そうですね、でもそれは悪くない、むしろ良い方に変わったんじゃないのでしょうか」

 「あう〜、もしかして美汐も?」

 「さあ、でも彼女たちは今のわたしと真琴より大人になったのでしょう」

 「あ、あう〜、それじゃあゆの方がわたしより大人なの!?」

 「もしかしなくてもあゆさんの方が年上ですよ」

 「そんな事無い! 美汐の方がよっぽど大人!」

 「それって単に私が老けていると見えるんですか、真琴?」

 「あうっ」

 「はぁ〜、それほど酷な事は無いでしょう……でも、真琴より大人かもしれませんね」

 「ま、真琴だって大人になるもん! 美汐に負けないんだから〜!」

 「ふふふ、返り討ちになっても同情はしないですよ?」

 「あう〜っ」

 あの二人が仲良く会話しているなんて、高校の時以来かしら?

 しかし美汐さん、あなたほど策士が似合う人は他に見た事無いわね。

 本当はあたしより年上だって言われても納得しちゃうわよ。

 「酷い事言いますね、香里さん。わたしは、絶対に確実にあなたより若いです」

 「本当かしら……って、もしかしてあたし声に出してた?」

 「ええ、それはもうはっきりと……もしかしてボケが始まりましたか?」

 「一つしか違わないのにボケは無いでしょう」

 「本当に? 実は100歳だったのと自白しても信じてあげます」

 「有るわけないでしょう、誰が信じるのよ?」

 「香里って秋子さんよりおばさんだったんだ〜」

 「真琴ちゃん、それって秋子さんもおばさんだって言ってるわよ」

 「あ、あう〜、秋子さんには黙ってて〜」

 「真琴……どうやら遅かったようですね、骨は拾ってあげますよ」

 誰がと言わなくても解る、真琴ちゃん後ろにいつの間にか怪しいドリンクを持ってニコニコしている

 秋子さんがそこに立っていた。

 「真琴、ここにあるのは私が作った特製ドリンクなんだけど、飲んでくれるわね♪」

 「あ、あ、あうっ、あう〜」

 「ね♪」

 すでに疑問系じゃない秋子さんの言葉に、真琴ちゃんの震える手が秋子さんの持っているドリンクの瓶を取った。

 「さあ、一気に飲んでね♪」

 もちろんあたしと美汐さんは傍観者、誰だって自分の命は大事だから……さようなら、真琴ちゃん。

 「わたしの親友でした、きっと天国から見守ってくれるでしょう」

 「あう〜っ! 勝手な事言って逃げないでようーっ!!」

 「もう一本いっとく?」

 秋子さんの言葉に真琴ちゃんはその場で昏倒して、舌を出して泡を吹いちゃったわ。

 お陰で緊張した雰囲気はどこかに行ってしまった、ありがとう秋子さん。






 つづく。





 香里はやっぱりあっちの気が有るのか気になる第八話でした(笑)

 それぞれ、自分なりに気持ちの整理をしようと動き出したみんなは、一歩前に進んだようです。

 好きな人に振り向いて貰えない辛さに立ち止まっては、何も掴めないです。

 傷ついてても一歩踏み出す勇気を、体の中から絞り出しています。

 しかし、みんながそう上手くいくとは限りません。

 名雪はみんなの変わり方を否定する、自分の気持ちはみんなとは違うと叫んで……。

 親友の好きな人と夫婦になった香里には、その事で名雪に負い目を感じてしまう。

 名雪の閉じた心を開くために、祐一は一人で会いに行く。

 果たして、みんなの思いと背負った祐一の行動は、名雪に伝わるのか?

 クライマックス真っ只中ホームコメディ。

 かおりんの夢は止まらない♪第九話「あなたの人生、変えて差し上げます(by美汐)」

 次回は最終兵器秋子さんが謎ジャムをサービス、サービスぅ?

 

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