Original Works 『Kanon』



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 Kanon Short Story






 「はぁ……」

 「どうした香里、朝からため息か?」

 「ちょっと自己嫌悪なだけよ」

 「「ママ、だいじょーぶ?」」

 「うん、平気よ」

 「まあそのなんだ、この間の事は忘れよう、な?」

 「忘れられるならね、はぁ……」

 「「かんごふさんのママ、かわいかったよー」」

 「あ、ありがとう、でもあんまり人前で言っちゃダメよ」

 「「うん、ないしょ♪」」

 「確かにナース姿はいかしてたが、ちょっと残念だったよな〜」

 「なにが残念なの?」

 「いや〜、先に香里が寝ちゃったからさ……ホント残念」

 「ば、ばかっ、変な事言ってないでさっさと仕事に行きなさい!」

 「おおっ、怒った顔も可愛いぞ」

 「祐一!」

 「「やっぱりねー、ママかわいー」」

 「はうっ」

 朝から祐一と娘たちにからかわれるあたしって、不幸じゃないわよね?

 「あ、香里さん、ご飯お代わり〜」

 今日は朝から家に逃げ込んできたあゆちゃんが、娘たちにまじってご飯を食べているわ。

 まあ何が出たのかは推して知るべし、それとも知らない方がいいかしら?

 「はいはい……って、あゆちゃんよく食べるわね?」

 「うん、だってここの所名雪さんのせいでアレばっかりだったから……」

 「名雪ったら……」

 「あいつ、俺がいなくなってまともに起きた事あるのか?」

 「んぐんぐっ、ないよ」

 「自信満々に言うな、あゆ」

 「うぐぅ、だって事実だもん」

 「そろそろしっかりしないとなぁ、子供じゃないんだから。まあその点あゆはえらいぞ」

 がしがしっ。

 頷きながら祐一が娘と同じように、隣に座っているあゆちゃんの頭を撫でて笑う。

 「うぐぅ、それって誉めてるの?」

 「ああ、子供のあゆがこんなにがんばっているんだ、誉めないでどうする」

 「うぐぅ、祐一くん、ボク子供じゃないもん!」

 「自分の事『私』って言えたら大人と認めよう」

 「そ、それぐらい言えるもん! わ、わたっ……ひた噛んだ、痛ひよ〜」

 「わはははっ、まだまだだな〜あゆあゆ♪」

 「う、うぐぅ……」

 「「あゆちゃん、がんばれー」」

 娘たちに言われているようじゃ当分先になりそうね、でも応援してるわよあゆちゃん。

 それはこっちにおいといて、時計を見たあたしは笑っている祐一に一言注意する。

 「楽しい所悪いんだけど、遅刻するわよ祐一?」








 かおりんの夢は止まらない♪ 第七話






 Presented by じろ〜







 「いってきま〜す」

 「「「「いってらっしゃ〜い」」」」

 あたしたちの声に見送られて、いつもの様に祐一は仕事に行った。

 「ね、ねえ香里さん」

 「ん、な〜にあゆちゃん?」

 「その、いつもしてるの……いってらっしゃいのキス?」

 「あ、あれ、まあ……」

 習慣とは恐ろしい物ね、あゆちゃんがいるのに目の前で、祐一とキスしちゃったのよね。

 「「ママ、いつもちゅーしてるよ♪」」

 「祐香! 祐理!」

 「そっかあ……羨ましいなぁ」

 気持ちは解るんだけどこればっかりはねぇ……でもあゆちゃんには何故かさせて上げてもいい気持ちになる。

 「「あゆちゃんもいっしょにちゅーする?」」

 「うぐぅ!? そ、それは……」

 あゆちゃんはおろおろしているけど、困った様な嬉しい様な恥ずかしい様な、百面相みたいに表情を変えていた。

 「ほらほら、あゆちゃん困らせないの」

 「「はーい」」

 「でも、娘たちと一緒で頬に『ちゅー』する?」

 「か、か、香里さん!?」

 耳まで真っ赤にして口をぱくぱくしているあゆちゃんに、あたしは正直な気持ちを言ってみる。

 「あゆちゃんにはなんかこう……そう、娘たちと同じ気持ちになるのよ」

 「うぐぅ、それって子供って事?」

 「ううん、名雪や美汐さんと違って、あゆちゃんは真っ直ぐ……舞さんに近いかな?」

 「よく解らない……でも、それっていけない事じゃないよね?」

 「全然、だってこんなに可愛いんですもの♪」

 ぎゅー。

 「わ、わ、香里さん!?」

 大きな目で見上げるあゆちゃんを抱きしめて、娘たちと同じ柔らかさを持っている頬に自分の頬付ける。

 「「あゆちゃんいいなー」」

 「後でね」

 「「うん」」

 「うぐぅ、恥ずかしいよう香里さん」

 「んー、ほっぺたすべすべ、食べちゃいたいぐらいだわ」

 「ボ、ボク、香里さんの様な趣味持ってないよー」

 「なによそれ?」

 「うぐぅ、だって香里さんは両刀遣いって祐一くんが……あっ」

 「あゆちゃん、そこの所、じっくり聞かせてくれないかしら?」

 「うぐぅ」






 「まったく、あのあんぽんたんは……」

 リビングで紅茶を飲みながら、あゆちゃんに事の次第を詳しく聞いてみた。

 「ごめんなさい、香里さん」

 「あゆちゃんは良いのよ、悪いのはそんな嘘教えた祐一なんだから」

 「「ママー、りょうとうづかいってなにー?」」

 「あ、あなたたちは知らなくて良いのよ!」

 「「ぶー」」

 あたしの両脇から汚れない笑顔でそんな事聞かれて、どうしろって言うのよ?

 祐一ったら変な所は相変わらずだけど、自分の妻のことそう言う風に言ってるのは許せないわね。

 帰ってきたら徹底的に聞き出して、謎ジャムフルコースのお仕置きを味合わせて上げないと気が済まないわ。

 寄り道せずに早く帰ってきなさいよ祐一、ふふふっ。

 今頃はきっとくしゃみでもしているでしょうね♪

 「へっくしっ!」

 「あら祐一さん、風邪ですか?」

 「そう言えば急に悪寒が……」

 「そんな時はこの携帯用謎ジャムドリンク……」

 「結構です」

 「くすん、最近祐一さん冷たいですね、香里さんを手に入れたら私はもう用無しですか?」

 「ちょ、ちょっと秋子さん、人聞きの悪い事言わないでください」

 「自分の娘を無下にしてまで協力したのにこの仕打ち……あきちゃん悲しい」

 「もういい年してあきちゃんは無いでしょう……はっ!」

 「祐一さん、今何か仰いましたか?」

 「あ、あ、あ……」

 「飲んでくれますよね、これ?」

 「は、はい……しくしく」

 「ふふふっ、あきちゃんの勝ち!」

 「ぐはっ、どろり濃厚な舌触りが……」

 「「おかーさん?」」

 はっ、何かしら……今、祐一と秋子さんの会話が聞こえたんだけど、疲れているのかしら?

 「香里さん?」

 「ああ、ごめんね、ちょっと考え事してただけだから」

 それにしてもあきちゃんは無いでしょう、まあそれ以上は言わないわよ、秋子さんって耳が良いから。

 「あ、あの香里さん、この間のパーティーで来たあの人たちは?」

 「えっ、あの人たちって……ああ、あの二人組の事?」

 「うん、なんか美汐ちゃんが連れて行ったからどうなったのかなーって……」

 「それなら昨日美汐さんから電話があったわよ、『安心してください』って」

 「う、うぐぅ、なんだか怖いよう」

 「「みーちゃん、おこってたもんねー」」

 「あの朝、見せられたビデオの片隅に北川君と久瀬が映ってたけど、北川君まだ久瀬と付き合ってたのね」

 「初めて会った時はいい人だったのに、どうしてあんな風になっちゃったんだろう?」

 「久瀬って言うバカ付き合ってからおかしくなっちゃったのよ」

 「そ−なんだ、でも可哀想な人だね」

 「あゆちゃんって優しいのね、でも同情は人の為にならないからしなくても良いのよ」

 「「あゆちゃん、やさしー」」

 「え、えへへ、ありがとう」

 あたしと娘に誉められて、あゆちゃんの顔には照れた笑顔が浮かんでいた。






 そのままあゆちゃんと一緒に娘たちと遊んで、お昼を食べてから娘たちを寝かせるとあゆちゃんと出かけた。

 なんでもあたしに大事な話があるって言うんだけど、真剣に見つめるから聞いてみる事にした。

 ちなみに留守番はあの子に頼んで置いたわ、だって暇そうだったから。

 「えう〜、わたしは暇じゃないですー」

 大学生の筈なのに、朝からアイス食べてごろごろしてたから暇だと思ったのはいけない事かしら?

 「そんなこと言うお姉ちゃんなんて嫌いですー」

 お土産に特大のバニラアイス買ってきて上げるわよ。

 「わたしに任せてください、なんでしたらこのまま母親を交代しても……」

 あたしが作った特製バニラアイス食べる?

 「え、えう〜、許してくださいお姉ちゃん!」

 がんばってね栞、二人の面倒見るのは大変だから倒れないでね。

 まあ、娘たちの方が栞を手玉に取る可能性の方が大きいからあまり心配はしてないわよ。

 栞の事は娘に……逆ね、娘の事は栞に任せて、途中でたい焼きを買ってあゆちゃんが連れて行きたい場所に

 ゆっくりと歩いていった。

 あゆちゃんが連れてきた場所、街から離れた森の中の少し開けた場所で、そこには大きな木の切り株が在った。

 「ここは?」

 「うん、ここは小さい頃ボクと祐一くんが遊んでいた秘密の場所」

 「いいの、大切な場所にあたしを連れてきて?」

 「香里さんは祐一くんが選んだ人だから、ボクにとっても大切な人だよ」

 「ありがとう、あたしもあゆちゃんの事大好きよ」

 あたしの言葉を聞いて笑顔になったあゆちゃんは、その大きな切り株に座ると空を見上げながら話し始める。

 「ボクね、ここで祐一くんに言った事があるんだ……『ボクの事忘れてください』って」

 「本当は嫌だった、このまま祐一くんとお別れするのは……でもそれが一番いいと思ってたんだ」

 「あゆちゃん……」

 あゆちゃんの告白はあたしのよく知っている、そして知らない祐一の一面を教えてくれる。

 「でもね、祐一くんって意地悪だからいきなり殴って『忘れるもんか!』言ってくれて、それから

 『会いに行くから待ってろ』って抱きしめてくれた」

 「そしたら本当に約束通り会いに来てくれたんだ、目が覚めたら『おはよう』って言ってくれたんだ」

 「ボクはそれだけで嬉しかった、出会った時から優しいままの祐一くんだった」

 「ボクの夢……それは祐一くんの幸せだから、今度は祐一くんの応援をしようって思ったの」

 「もちろん今でも祐一くんの事は大好きだよ、でもちょっとだけその意味が変わっただけ」

 「だって祐一くんだけじゃなくてみんなが大好きになったから、ボクって欲張りだね」

 そう言って切り株から小さくジャンプした時、飾りの羽とは違う大きくてふわりとした白い羽が

 あゆちゃんの背中に見えた気がした。

 それを見た時、あたしの頭の中でその白い羽は娘たちを生んだ時に意識の片隅で見た同じ物だと漠然と感じた。

 そしてあたしを見つめるあゆちゃんは、子供の顔ではなくひとりの女性の顔になっていた。

 「これでボクの話はお終い、付き合ってくれてありがとう香里さん」

 あたしより小柄なあゆちゃんだけど、その心はきっと誰よりも大きいに違わない。

 凄く強くてそして広い心を持っているあゆちゃんは本当に綺麗だった。

 男とか女とか関係なく素敵なあゆちゃんに、あたしは近づきその体を優しく抱きしめる。

 「うぐぅ、香里さん、苦しいよう〜」

 「あらっ、大切な事を話してくれてお礼に感謝の気持ちを表したんだけど、キスの方が良かったかしら?」

 「や、やっぱり香里さんって女の子もOKなの?」

 「さあ? でもあゆちゃんなら……」

 「は、は、離して香里さん、ボクは普通がいいよ〜!」

 「冗談よ、でもあたしからもありがとう」

 「?」

 「あゆちゃんでしょ? あの子たちが生まれる時、力になってくれたの?」

 「え、えへへ〜」

 「誤魔化したわね、まあ後でジャムを食べれば話してくれるでしょう♪」

 「うぐぅ、それだけは許して〜」

 涙目になってしまったあゆちゃんの顔は、娘たちの顔と重なって幼く見えちゃった。

 「じゃあぼっぺにちゅーと謎ジャム、どっちがいいかしら?」

 「うぐぅ」

 あたしが言った究極の選択に困るあゆちゃんの返事を待たずに、ぷにぷにしたほっぺたに大きな音を立てて

 激しいキスをして上げたら、真っ赤になってそのまま気絶しちゃった。

 もしかしてあたしって……ってあたしもその気は無いわよ。

 ちょっと、そこのあなた! 変な目で見ないでよ、これでも娘二人の母親なんだから。

 まああゆちゃんは可愛いけど……って違うのよ〜。






 それから暫くあゆちゃんはあたしを見ると、真っ赤になって走っていってしまう日が続いた。

 「香里、あゆに何したんだ?」

 「噂を振りまいた元凶が何を言ってるのよ!」

 「え、あ、な、何の事かな?」

 「ぜーんぶあゆちゃんに聞いたのよ、祐一があたしの事どういう風にみんなに言っているか」

 「お、落ち着け香里、話せば解る!」

 「じゃあこれ飲んだらゆっくりと話しましょうか」

 「ぐはっ、それはっ!?」

 「秋子さんと合作で作ってみたんだけど、これからは毎朝飲んで貰おうかしら♪」

 「とほほ〜、またそれを飲むのか……」

 「また? まあとにかく全部残らず話して貰いましょう、時間はたっぷりあるしね」

 しかし謎ジャムドリンクって薬局で売っても良いのかしら?

 冗談でその話をしていたけど、秋子さんノリノリだったわよね〜。






 つづく。






 怒濤の展開、香里はあっちもOKか(笑)

 なんて言うか栞より愛しちゃってる感じがしないでも無いですが。

 あゆあゆを大人にするのは祐一じゃなくて香里なのか?

 まあそれはさておき、今回はあゆの気持ちの変化を書いてみました。

 一番子供の様だけど祐一に振られた後、精神的には一番大人に成長したのはあゆだと思っています。

 でも欲張りです、祐一だけじゃ満足しなくなったようです(笑)

 そんなあゆに続いて舞と佐祐理も、自分の気持ちに正面からぶつかる決心をします。

 真琴も美汐も、そして栞も動こうとする中、名雪は頑なにそれを拒否してしまう。

 頭では解っているけど心が否定する状態は名雪に何をもたらすかの?

 クライマックスに向かうホームコメディ。

 かおりんの夢は止まらない♪第八話「祐一さんはお兄ちゃんだから甘えても良いですよね♪(by栞)」

 次回ははちみつクマさんがサービス、サービスぅ♪

 

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