Original Works 『Kanon』
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Kanon Short Story
病院の受付で支払いを済ませて祐一が座っている場所に来ると、両隣に舞さんと佐祐理さんが座っていた。
二人とも夜勤明けだから今日はお休みなので、このまま一緒に家に来るみたいだわ。
それで私服に着替えているのは解るんだけど、何故祐一の手をしっかりと握っているのか気になるわねぇ?
「何しているの祐一?」
「あー、べ、別に深い意味はないぞ」
「とてもそんな風に見えないんだけどねぇ……舞さん、佐祐理さん?」
「この手は私の物だから……」
「あはは〜、こっちの手は佐祐理の物なんです〜」
「どういう事、祐一?」
「そ、それは……」
「昨日の夜祐一が言った……『手ならいい』って」
「佐祐理にも言いました〜『手ならいい』って」
「なるほど、確かに祐一はそんなこと言ってたわね、ふーん……」
「あのー香里さん、顔が怖いんですけど?」
「何ですって!」
「す、すまん、つい本音が……ってあわわっ」
「本音……ね」
失礼ね祐一、目が怖いなら解るけど顔が怖いってのは見逃せないわよ。
「今日は祐一に愛をたっぷり込めた『スペシャル』を用意していから、一つ残さず綺麗に食べてね」
「あ、あ、か、香里……」
「あたしの事、愛しているなら当然よね?」
「は、はい……とほほ〜」
たまにはお仕置きしないとだめね、締める所はきちんと締めなさいと秋子さんも言ってたしね。
ちなみになにが『スペシャル』なのか……全部アレの試作品なのよ。
作ったあたしや娘たちも食べられない物何だけど、捨てるの勿体ないから冷蔵庫の奥にしまってあるのよ。
まあ、死ぬ事はないでしょう、それに看護婦さんもいる事だしね。
「さあ帰りましょう、娘たちも待っているわよ」
「祐一、行く」
「あはは〜、行きましょう祐一さん」
「とほほほ〜……はぁ」
二人に両手を引かれて歩く祐一の姿はなんか宇宙人みたいで可笑しかったけど、あたしも後を追うように
玄関に向かった。
ドアを出た所で少しだけ強い日差しに手を翳すと、何やら向こうの方から爆音と一緒に煙が近づいてきた。
き〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!
バタン。
「どうやら間に合ったようですね、祐一さん」
「あ、天野か?」
「美汐です、祐一さん」
「あ、うん」
玄関前に横付けされたパトカーから足を見せるように颯爽と降りてきたのは美汐さんだった。
しかも、祐一に見せつけるように足を優雅に組み替えながら、まるでモデルのように。
どうでもいいんだけどちょっと短くないかしら、そのミニスカート?
学生の頃とはかなり変わったわね……奥ゆかしい頃が懐かしいわ。
「こんにちは香里さん、今何を考えていましたか?」
「こんにちは美汐さん、別に何も考えてないわよ」
「「ふふふふふふふふふふふっ」」
「祐一、怖い」
「ふぇ、佐祐理怖いです祐一さん」
「俺も怖いって……」
「祐一、両手に華で嬉しそうね?」
「お二人とも、そう言って祐一さんにしがみ付かないでください」
「いや」
「いやです〜」
ちょっと逆効果だったわね、祐一に寄り添う口実を与えちゃったわ……まあ祐一は後でお仕置きだけど。
かおりんの夢は止まらない♪ 第四話
Presented by じろ〜
「で、結局こうなるのね……」
「私としても不本意ですが……」
「私は幸せだから問題ない」
「あはは〜、佐祐理も幸せです〜」
「ははは……はぁ」
パトカーに乗って家に向かっているんだけど、祐一から離れなかった舞と佐祐理さんはそのまま後ろの席に、
残ったあたしは助手席に乗り込むしかなかった。
あたしと美汐さんにバックミラー越しに睨まれて、祐一は汗をだらだらと流しながら渇いた笑いを浮かべた。
「そ、そう言えば名雪たちはどうしたんだ?」
「水瀬家の三人は朝食で息絶えたわ……例の物でね」
「あ、秋子さんまたパワーアップしたのか……」
「あたしもね、祐一。だから楽しみにしててね♪」
「勘弁してくれよ、はぁ……」
「大丈夫よ、祐一ならね」
「何でそう言い切れるんだ香里?」
「だって祐一の事、信じているから……」
「その割には行動がおかしくないか?」
「それはそれ、これはこれよ。秋子さんの教えなんだけど?」
「あ、秋子さん、とほほほ〜」
「祐一、がんばって」
「祐一さん、佐祐理も応援します」
後ろの二人も秋子さんのアレは遠慮したいらしい、まあもっともなんだけど。
でも、さすが秋子さんだわ、受け継いだとはいえアレの創始者だしねぇ……まだ何か有りそうだけど。
「祐一、倒れたらまた入院にね♪」
「えーい、俺の味方は娘だけだーっ!」
あ、切れちゃったわ……ちょっといじめ過ぎちゃったわね。
途中の信号はサイレンを鳴らして一回も止まらずきたので、予定より早く家に着いてしまった。
「あの美汐さん、私用で使っても良いのかしら、これ?」
「問題ないです、署内でも文句を言う人いませんし……」
「そ、そう……」
「はい」
今の言葉で美汐さんの警察署内での本当の地位が解った気がするわ……侮れないわね。
なんて思いつつパトカーから降りると、隣の水瀬家から秋子さんと手をつないで、娘たちがやって来た。
「パパーっ」
「パパ〜っ」
「祐香、祐理、元気か?」
「「うん! お帰り〜パパ♪」」
「ただいま、おまえたちだけだよ、俺の味方は……あ、ああっ!?」
「「パパ、食べてー」」
「こ、こ、これは……はうっ」」
娘たちの手の上にある見た目は普通のクッキーなんだけど、雰囲気と秋子さんの笑顔からアレだと解った。
「祐一さん、可愛いこの子たちの為に逃げちゃダメですよ」
「あ、秋子さん、狙ってましたね?」
「さあ、それよりも二人が待っていますよ?」
「うぐぅ」
あら、どうやら先を越されちゃったよね。まあ娘たちだし許しちゃうけど。
「「パパ、あ〜ん」」
「あ、あ、あ〜ん」
ぱくっ。
「ぐふっ」
ぱたん。
「「パパ?」」
あ、口から泡吹いて痙攣している……秋子さんまた新しい味、作り出したのかしら?
今度聞いてみましょう、それにしてもさすが謎ジャムの創始者だわ、秋子さん。
「香里さん」
「あ、はい何ですか秋子さん?」
「祐一さんには優しくしてあげてください」
「そうですね、どうやらお仕置きの必要無いみたいですし……」
「「わーい、パパがカニさんのまねしてる〜」」
気絶した祐一を見て楽しそうにその周りを動いている娘たちだけど、さすがに祐一に同情したくなったわ。
おまけに舞さん、佐祐理さん、美汐さんも祐一を見ないようにして誤魔化しているし。
しかし、ここで彼女たちを見落とす娘たちや秋子さんじゃない事をあたしは知っている。
「舞おねえちゃんも食べてー!」
「佐祐理おね〜ちゃんも食べて〜!」
「じゃあ美汐さんには私からね♪」
「ぐしゅぐしゅ」
「ふ、ふえ〜」
「それを食べるなんて言うほど酷な事な無いでしょう」
三人が涙を流してそれを食べている間に、あたしは気絶した祐一を引きずりながら家の中に入っていった。
「退院したばっかりだって言うのに、危うく再入院する所だったぞ?」
意識を取り戻した祐一が寝室のベッドの上で、ぶつぶつと言ってるがあたしは何も無かったように
水の入ったコップを差し出した。
「嬉しいでしょう、なんと言っても自分の娘の手料理なんだから」
「いくら何でもそんな手料理は勘弁してくれ……」
「あら、世の中には娘の手料理食べたくても食べられない父親一杯いるんだからいいじゃない」
「秋子さんが作ったアレの試作品が入ったクッキー……香里も母親なら食べるよな?」
「あ、あたしは自分で作ったもので充分よ、これでも失敗作もちゃんと食べているんだからね」
「い〜加減、秋子さんも止めないかぁ……アレ作るの?」
「そうね、秋子さんから免許皆伝貰ったけど、楽しいから止められないそうよ」
「く、くぅ〜、約束とはいえ試作毎にパワーアップするのはたまらん、うぐぅ」
「と言うわけで、はい♪」
「これは?」
「口直しかな? まあ一口食べてみて」
「なんか気になるけど……」
「はい、あーん」
おそるそる差し出したクッキーを、祐一はそのままあたしの手から直接口でくわえ込んで食べた。
ぱくっ。
「もぐもぐ……ごっくん、うん?」
「どうかしら?」
「おおっ、食べたばかりなのに、なんか体の中が熱くなってきたぞ?」
「当然よ、あたしの思いをたっぷり込めたんだからね」
「な、なるほど……香里の思い、確かに受け取ったぞ!」
がばっ!
「えっ?」
「香里ーっ!」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って祐一!?」
なんでいきなり押し倒してくるのよ、しかもリビングにはみんながいるのよ?
「はぁはぁはぁ……がるるる〜っ」
「な、なんで野獣化しているのよ!?」
もしかして失敗しちゃったのかしら?
「ゆ、祐一、あ、後にしましょう……ね?」
「……………………」
「祐一?」
「香里ーっ!!」
「あーん、あたしのばかばか〜っ」
それからどのくらい経ったのか忘れたけど、正気に戻った祐一と着替えてからリビングに行くと、
娘たち以外はみんなジト目であたしと祐一を睨んでいた。
「な、なにかしら?」
「何をしていらしたんでしょうか、お二人で?」
「み、美汐さん」
一人立ち上がった美汐さんは静かに近づいてくると、何故か腰に付いていた警棒を抜いてぽんぽんと
手の平の上で遊ばせた。
「包み隠さず話して頂けますか?」
「あ、あのな、天野……」
「美汐です、祐一さん」
「は、はい」
「素直に話して頂ければ情状の余地は有ります、さあ……」
「じ、実は……」
「祐一! 何素直に言おうとしているのよ!」
「ちっ」
悔しそうに舌打ちしたけど、あたしが横にいるの忘れたのかしら……まだまだ甘いわよ?
「美汐さん、これは夫婦の問題ですから警察は介入出来ないわよ」
「くっ……」
後ろのみんなもものすごく残念そうだけど、どこに夫婦生活をしかもあのこと公開する人がいますか!
まあ何にしろ、これでこの話は終わるとその時は思ったわ。
しかし、あたしも一つ忘れていたわ……そこに天使たちがいたことに。
「「ママ〜、パパとなにしてたの?」」
「ゆ、祐香、祐理?」
「「ねー?」」
「まさか自分の娘に嘘は付かないでしょうね、香里さん?」
「うっ」
くっ、痛い所突いてくるわね、美汐さん。
「「ママー(ニコッ)」」
ああっ、止めてーっ、あたしはその笑顔に弱いのよ〜。
「し、しっかりしろ香里!」
「「教えてパパー!」」
「ぐはっ」
祐一もやられたわね……我が娘ながらなんて言う笑顔、可愛い過ぎよ、はぁ〜。
はうっ、どうすればいいのよ?
しかも秋子さんもくすくす笑っていて助けてくれる気配がないわ。
祐一はすでに娘の笑顔で役立たず……残っているのはあたしだけ。
相沢香里、人生最大のピンチかしら?
「「教えてー、ママ!」」
「「「「「「「「教えて〜♪」」」」」」」」
「秋子さんもみんなに交じって言わないでください!」
ああ〜、誰か助けて〜。
つづく。
どうも〜、じろ〜です。
子供たちに押され気味の香里ママ&祐一パパは如何だったでしょう?
無敵に近い香里ママも自分の娘には形無しなようです。
さて、次は漸く祐一退院お祝いパーティーです、香里のコスプレはそれまでお預けです(泣)
さらに、例のコンビが復活して幸せ一杯の相沢家に乱入の気配あり。
香里の看護婦さん姿に切れて、襲いかかるのは頭にアンテナ生やしたあの男か?
同じく看護婦姿に興奮して佐祐理を襲うのは元生徒会長か?
そんな乱入者に立ち向かう舞と祐香&祐理の必殺技が、今炸裂する……。
どたばたホームコメディ、かおりんの夢は止まらない♪第五話「あはは〜、今晩はお楽しみですね〜(by佐祐理)」
次回もかおりんがサービス、サービスぅ♪