Original Works 『Kanon』



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 Kanon Short Story






 「はい祐一さん、どこか痛いところはないですか〜?」

 「いや、別に………」

 「祐一、熱測るから……口開けて」

 「舞、さっき測ったばっかりだろう?」

 「ぐしゅ……祐一が心配だから……」

 「ふぇ〜、祐一さん舞の事が嫌いなんですか?」

 「佐祐理さん、そう言うわけじゃなくて……」

 「よかったね舞、祐一さん舞の事好きだって〜」

 「ぽっ」

 「だからそうじゃなくって……うぐぅ」

 「あいつ……独り占めか?」

 「新入りのくせに……」

 「あんな美人の奥さんと可愛い娘までいるのに……」

 「ゆるせん」

 「ああっ、ゆるせんな……」

 「このまま退院させていいと思うか?」

 「断じて否!」

 「うむっ」

 な、なんか周りの人たちから敵意と嫉妬と羨望のこもった視線が痛いぞ。

 しかも不気味な事言っているし……俺が何をしたんだ?

 まあ状況的に男としてはその気持ちも理解できるのだが……。

 「はぁ……」

 「なに、祐一?」

 「なんですか祐一さん?」

 ベッドの両脇で俺の言葉に顔を寄せてくる二人は、キス直前な感じで俺を見つめてくる。

 「あー、ちょっとトイレに行こうかなと?」

 「解りました〜、舞?」

 「はちみつクマさん……ぽっ」

 「えっ?」

 頬を赤く染めた舞が、ベッドの下から取り出したのは……溲瓶だった。

 ……て、ちょっと待った〜!!

 「な、何でそんな物を手にしているんだーっ!?」

 「して」

 「してじゃな〜い! 自分でトイレに行く!」

 「ぐしゅぐしゅ」

 「ふえ〜、祐一さん舞のことが嫌いなんですか?」

 「そ、そうじゃなくて〜……って、寝間着を脱がすなっ、舞!」

 「………………祐一、りっぱ」

 「は、はえ〜……素敵です〜」

 ううっ、香里、助けてくれ〜。








 かおりんの夢は止まらない♪ 第三話






 Presented by じろ〜







 「あら祐一、元気そう……には見えないわね?」

 「か、香里ぃ〜」

 病室に入ってきたあたしを見た祐一は、いきなり涙をだーって流しながら抱きついてきた。

 「ちょ、ちょっと何も泣くこと無いでしょう……で、昨日はお楽しみだった?」

 「おまえなぁ〜、それは嫌みだぞ〜」

 「はいはい」

 ふ〜ん、どうやらあたしが想像したより祐一の意志は強かったようね。

 「それじゃ聞くけど、昨日はどんなことしてたのかしら?」

 「おうっ、言ってやる……言ってやるぞ〜!」

 「そ、そう」

 ど、どうでもいいけど泣くほど事なの祐一?

 そんなわけでちょっとだけ昨日の夜に戻るけど、あたしは見てないからわからない部分は

 祐一の話を聞いてね。






 「ふぅ、参ったなぁ〜、香里の奴いきなり泣くしなぁ……」

 病室で残っていた俺はさっきの香里の事を思い出して、ちょっとだけ驚きとため息をついていた。

 「でも、結構あいつも大胆になってきたよなぁ〜……にひっ」

 なんて一人思い出し笑いしていると、病室の入り口に何かがちらちら見えていた。

 「なんだあれ……ん? どこかで見たような……」

 「祐一」

 「ま、舞!? それはもしかしてあれか?」

 「はちみつクマさん」

 おずおずと静かに病室に入ってきた舞は俺の側に来ると、頭の上に付いている物を揺らして見つめた。

 ナース姿の舞も抜群に可愛いが、何故俺が上げたウサギの耳を付けているんだ?

 「あはは〜、お待たせしました祐一さん♪」

 「あ、佐祐理さ……って、はい!?」

 にこやかに笑いながら病室に来た佐祐理さんの頭にも、舞と色違いでピンク色のうさ耳がゆらゆら揺れていた。

 ちなみに佐祐理さんのうさ耳は、舞と同じ物が欲しいと言われて誕生日のプレゼントで上げた物だ。

 「あ、あの、二人とも、なんでうさ耳を?」

 もっともな疑問を投げかけると、二人の目配せをしてから俺を見つめて答えた。

 「私は祐一専用だから」

 「はぁ?」

 「あはは〜、明日の退院までわたしたちが祐一さんだけの看護婦さんの証です〜♪」

 「そ、そうなのか舞?」

 「はちみつクマさん……ぽっ」

 赤くなっているの舞の横で佐祐理さんがクルッと一回転すると、お尻の上辺りにま〜るいシッポまで付いていた。

 俺はしばし目の前のうさぎ……いや、二人に目を奪われてしまったが、そろそろ突き刺さる視線が痛くなってきた。

 二人は忘れ去っているようだが、ここは大部屋なので他の患者さんもいたりするんだな、これが。

 「あのやろう……」

 「独り占めだと?」

 「このまま無事に退院できると思うなよ」

 「…………やるか?」

 「おうっ、やらいでか!」

 ああ、そんな血走った目で睨まないで欲しいんだけど……無理か。

 そんな周囲の事はお構いなしに二人はほとんど俺の側から離れなかったが、俺はそんなに重傷だったかなぁ?

 「はい祐一さん、検温ですー」

 「あのー佐祐理さん、それは15分前にしたんですけど?」

 「ふえー、そうでしたか? 祐一さんが心配でつい……」

 ちゃき。

 「ま、、舞!? いきなりを剣だすなっ」

 「佐祐理を悲しませたら、だめ」

 「わ、解ったって……そ、それじゃお願いします、佐祐理さん」

 「はい〜、それじゃお口をあ〜んしてください」

 「あ〜ん」

 ぱくりと体温計をくわえると同時に、腕の時計を観ながら佐祐理さんはそっと俺の手を取って脈拍を計る。

 真剣な表情の佐祐理さんは看護婦さんらしいのだが、そのうさ耳姿が可愛くてつい笑ってしまう。

 ぽかっ。

 「笑うな」

 「ごめん、舞も可愛いよ」

 ぼかっ。

 「ぐはっ」

 「あはは〜、少しだけ二人とも静かにしてくださいね〜」

 「「ごめんなさい」」

 佐祐理さんの「めっ」って怒られた俺たちは、邪魔をしないようにおとなしくすることにした。

 「はい、脈はOKでした〜。体温計いいですか〜?」

 そう言って、俺に屈み込む佐祐理さんの襟元からちらりと見えた下着は……うさ耳と同じピンクだった。

 がすっ。

 「ぐはっ、何するんだ舞?」

 「どこを見てた、祐一?」

 「そ、それは……ごめん」

 「あはは〜、祐一さんなら構いませんよ〜」

 「そ、そうですか……」

 「そうなんです〜」

 体温計をもって微笑む佐祐理さんが嬉しそうに言うと、突然舞が俺に被さってきて自慢の胸を突きつけた。

 「ま、舞!?」

 「佐祐理だけ、ずるい」

 「ずるいって言われても……どうしろって言うんだ?」

 「…………佐祐理と同じに、見て」

 そ、それって俺に覗き込めと言うことなのか、舞?

 「早く、見る」

 「そっ……ぐはっ!?」

 と、反論しかけた俺の目に何故か第一ボタンが外れている舞の襟元は、佐祐理さんよりはっきり見えてしまった。

 また成長したのか舞? 高校の時より更に大きくなった気がするぞ。

 「見た?」

 「み、みみ」

 「耳は見る所じゃない」

 「み、見たから早く……」

 「ぽっ」

 「良かったですね〜、舞」

 「はちみつクマさん」

 頬を赤くして頷く舞は、俺をじーっと見つめてぼそっと呟いた。

 「あ、舞こっち向いて〜」

 「ん……これは?」

 唇に付けられた体温計に舞は戸惑ったように首を傾けるが、佐祐理はニコニコして自分の唇に体温計を付けた。

 「さ、佐祐理さん、それって俺が……」

 「あはは〜、間接キスですね〜、嬉しい舞?」

 ぽかぽかぽかぽかぽかぽかっ。

 「きゃあきゃあきゃあ〜」






 ……それが天国、いや地獄の始まりだったのかどうかは定かではないが、病室の住人たちの視線は俺の睨み付けたまま

 微動だにしなかった。

 食事は病院食じゃなくて、佐祐理さんのお弁当をわざわざ俺の病室まで来て、その上「あ〜ん」攻撃で

 二人は俺に食べさせてくれた。

 「はい祐一さん、あ〜んしてください♪」

 「じ、自分で食べられますよ佐祐理さん」

 「ふぇ〜、そうですよね、佐祐理はちょっと頭の悪い女の子だからいやですよね……」

 ちゃきっ。

 「ま、舞、剣を出すんじゃない!」

 「佐祐理を泣かしたらダメ」

 「わ、解った、俺が悪かったからその剣しまってくれ」

 「はちみつクマさん」

 「はい、それでは祐一さん、あ〜んしてください♪」

 「あ、あ〜ん」

 もぐもぐ。

 「祐一、あーん」

 「ま、舞もか?」

 「こくこく……あーん」

 「あ、あーん」

 もぐもぐ。

 「美味しい?」

 「あ、ああ、美味しいかな」

 「ぽっ」

 「はえ〜、今の舞の笑顔って凄く可愛いですよ〜」

 ぽかぽかぽかっ。

 「あ、あはは〜、痛いよ〜、舞〜」

 二人に迫られ他人から睨まれ、俺は無事にこの病院から退院できるかどうか、たまらなく不安だった。

 そして夜もくれて消灯時間になった時、俺は戦慄を感じられずにはいられなかった。

 「それじゃお休み、舞、佐祐理さん」

 「お休み祐一」

 「お休みなさい、祐一さん」

 何故か二人は俺の布団を捲ると、そのまま一緒に寝ようとしたので両手でその動きを止めた。

 「なんで二人が俺のベッドに入ってくるんだ?」

 「祐一が心配だから……」

 「佐祐理も同じです」

 「それはだめだ、これ以上は……な? 舞、佐祐理さん」

 ここできっぱり言わないとなし崩しに迫られたら俺も男だから体が反応してしまう。

 そうなったら大事な家族を傷つけることになるかもしれない、そしたらそんな自分を許せなくなる。

 だからこれ以上は人の親としても受け入れられない。

 「ごめん、舞、佐祐理さん」

 「ごめんなさい、ぐしゅ」

 「ふえ、佐祐理も強引でした、ごめんなさい」

 二人は俯いてしまい、ちょっと涙目になっていたので俺は二人の前に手を差し出した。

 「祐一?」

 「祐一さん?」

 「あー、そのなんだ……手を握るぐらいなら問題ないと思うから……」

 ちょっと照れくさかったのでそっぽを向いて呟いたら、俺の手を握りしめて二人とも涙ぐんでいた。

 結局、付き添い用の簡易ベッドを出して二人は俺の手を握ったまま寝ることになった。






 「……と言うわけだ、香里?」

 「ふ〜ん、まあ気になる所はいくつか有ったけど、一つだけ許せないかしら?」

 「ど、どこが?」

 「女の子を泣かせたでしょ?」

 「そ、それは……仕方がないからな」

 「冗談よ、ありがとう祐一」

 「ところで舞さんと佐祐理さんは?」

 「着替えに行っている、それと寝顔を見られて恥ずかしいそうだ」

 「責任取るの?」

 「何の責任だ、何の……」

 「女の子の寝顔見たんだからそれなりの事をしないとだめよ」

 「してるだろう、もっとも責任感だけじゃないけどな、香里?」

 「ば、ばかっ」

 祐一に反撃されちゃったわ、まあその辺は嬉しいんだけど内緒。

 「さて、家に帰るとするか」

 「名雪たちも待っているわよ」

 「そう言えば名雪たちは一緒に来るって言わなかったのか?」

 「名雪ねぇ……」

 あたしは苦笑いしながら朝の出来事を思い出していた……凄惨な朝の風景だったわ。

 言って置くけど、謎ジャム食べさせたのはあたしじゃないわよ、解るでしょ?

 それで思いだしたあたしは、同室の入院患者の人たちにご迷惑をかけたお詫びに、お見舞いとして

 持ってきた物を渡して頭を下げた。

 「おい、あれはもしかして……」

 「行きましょう祐一、あの子たちも待っているわよ」

 「あ、ああ……」

 その後、病室の方から凄い叫び声とそれを聞いて走っていく看護婦さんとすれ違いながら、受付の方に

 祐一と歩いていった。






 つづく。


 どうも、じろ〜です。

 かなり……遅くなりましたけど第三話です(^^;

 少し他の作品に浮気していましたが、気持ちも新たにがんばります(笑)

 さて次の話は、満を持して出てくるのミニスカ婦警さん、美汐の登場です。

 退院する祐一の前にパトカーでやって来た美汐は制服を武器に事情聴取とか言って祐一に迫ります。

 宿命のライバル(笑)とも言える美汐に香里は舞と佐祐理さんから受け取ったアイテムで

 武装して、祐一の退院祝いに登場を余儀なくされた。

 コスプレは香里の心から羞恥心を取り去ってしまうのか(笑)

 どたばたホームコメディ、かおりんの夢は止まらない♪第四話「それは似合いすぎだよ〜、香里(by名雪)」

 次回もサービスサービス♪

 

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