Original Works 『Kanon』



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 Kanon Short Story






 「よし、それじゃ行ってくるな〜」

 「忘れ物はない?」

 「んー・・・あ、あったぞ大事な物が♪」

 「何? あたしが取ってくるけど・・・」

 「ああ、違う違う、いつもの挨拶だよ」

 「あ・・・ばかっ」

 「さあ、遠慮なくやってくれ!」

 「朝からやれって言うなっ!」

 バキ。

 「いててて〜」

 「本当にデリカシーが足りないんだからっ」

 「たりない〜」

 「たりないぞ〜」

 「あははは〜、今度から気を付けよう・・・で?」

 赤くなったほっぺたをさすりながらニヤニヤしている祐一に、しょうがないなぁと言った感じに

 ため息をつきながらも、素早く唇にキスをしてあげる。

 ちゅっ。

 「ママ、あたしも〜!」

 「ママー、あたしもする!」

 「はいはい、祐一?」

 あたしが促すのと同時に祐一は膝を曲げて顔を下げると、二人の娘たちは両方のほっぺたにキスをする。

 ちゅっ、ちゅっ。

 「うん、元気もりもりだー!」

 「もりもり〜♪」

 「もりもりっ♪」

 祐一の声に合わせて祐香と祐理が真似をしてガッツポーズする。

 「ちょっと祐一、あまり娘に変なこと真似させないでよ」

 「香里もな?」

 「あたしは祐一と違って変なこと教えないわよ」

 「むー、残念」

 と、半ば本気なのか残念そうに肩を落とす祐一のズボンの裾を娘たちが引っ張る。

 「ねー、どうしてママだけくちびるなの?」

 「どーしてどーして?」

 「ん? それはね、ママはパパにとって特別だからだ」

 「そーなの?」

 「そうなの?」

 「ああ、しかもママにはもっと凄いこと・・・うぐぅ!」

 自分の娘に変なことを話そうとしていた祐一の頭に思わずげんこつをお見舞いした。

 「いててて〜、いきなりなぐるかぁ? しかもそれは名雪専用の技だろう?」

 「バカなこと言ってないでさっさと行きなさい!」

 「へいへい」

 「「パパ、いってらっしゃ〜い」」

 「とにかく気を付けてね」

 「おうっ、行ってくるぞ〜」

 そしていつものように祐一を見送ったあたしは娘と一緒にリビングに戻った。






 かおりんの夢は止まらない♪ 第二話






 Presented by じろ〜






 ぴろろろ〜♪

 昨夜のこともあり娘たちと一緒に布団でうとうとしていたら、電話が鳴った。

 「はい、相沢ですが?」

 「警察の者ですが相沢祐一さんと言うのはそちらの・・・」

 「はい、祐一は主人ですがそれがなにか?」

 「実は先ほど交通事故に遭いまして市立病院の方へ搬送されました、それで・・・」

 「えっ・・・」

 「ママ?」

 「ママー?」

 その言葉に一瞬あたしの思考が止まったけど、服を引っ張る娘たちにはっとして受話器をきつく握りしめながら

 電話口に話しかけた。

 「そ、それで祐一の様子は!?」

 「大きな怪我ではないようです、意識もはっきりしていました」

 「解りました、ありがとうございました」

 震える手で電話を切ると出かける用意をしようと着替えるために歩き出そうとして躓き膝をついた。

 「ママ、どうしたの?」

 「ママ、だいじょーぶ?」

 「だ、大丈夫よ・・・」

 心配そうに声をかける娘たちの顔を見て自分に気合いを入れる。

 そうよ、あたしがしっかりしないでどうするのよ!

 祐一は大丈夫、だからあたしもそれを信じて立ち上がって娘たちにちょっとお出かけするからだけと言って

 二人の手を引いてリビングを後にした。

 病院に行く前に隣の秋子さん家によると知っていたかのように着替えてあたしを待っていた。

 タクシーの中ではしゃぐ娘たちの様子を見ながら秋子さんがあたしのそっと手を握る。

 「きっと大丈夫ですよ、祐一さんなら・・・」

 「はい、あたしも信じています」

 「強くなったわね、香里さん」

 「だって、母親ですから・・・秋子さんと同じです」

 「そう・・・」

 握っているあたしの手が少し震えているのに気が付いていてもただ微笑んでいる秋子さんに感謝した。

 この時、秋子さんが乗り越えて来たこと、あたしも見習いたいからがんばろうと心の中で思った。

 そして病院の玄関に車が着いて降りると秋子さんに付き添われて二人の娘と手を繋いで中に入った。






 受付で聞いてみると治療中だと言うので診察室の方を教えて貰い歩いていくと、そこには見知った二人がいた。

 「佐祐理さん、舞さん」

 「あ、香里さん」

 「香里・・・ぐしゅぐしゅ」

 佐祐理さんも元気がなく、舞さんも涙をこぼして佐祐理さんに肩を抱かれている。

 「それで、祐一は?」

 「はい、それですが・・・」

 佐祐理さんが言いにくそうに診察室のドアを開けると、そこにいたのは頭に包帯を巻いた大きい注射から逃げ回る

 祐一の滑稽な姿だった。

 「こらっ、いい加減にしなさい、いい大人が・・・」

 「嫌なもんは嫌なんです、特に注射と高いところは・・・」

 「ただの破傷風の予防薬なんだから・・・」

 「だから嫌だって・・・あ、香里〜助けてくれ〜!」

 「祐一・・・」

 あたしは今までの悲しみに耐えていた理不尽さに体を震わせ拳を握ると力一杯走り寄ってきた祐一の頭を殴った。

 「うぐぅ〜・・・ばたっ」

 「あ、あの、奥さんですか?」

 「はい、遠慮なく思いきっりやってください」

 あたしがニコって微笑むとお医者さまと側にいた看護婦が壊れたおもちゃのようにがくがくと首を縦に振って

 祐一のズボンを素早く卸すとお尻に注射した。

 それから一応頭を打っているので検査のため一日入院する事になり、売店で必要な物を揃えると病室に向かった。

 「はい、祐一」

 「おう、ありがとな・・・それと心配掛けて済まなかった」

 「いいわよ、元気ならそれで充分だわ」

 「そっか・・・それにしてもさっきの一撃は効いたぞ?」

 「そう、手加減抜きだからね」

 「なんでだよ?」

 「あたしを心配させたのに楽しそうに走り回っている祐一を見たらつい・・・」

 「悪かった、でもそんなに心配するなんて俺って愛されているんだな〜・・・ニヤリ」

 「ばかっ、本当に心配させないでよ」

 不意に微笑む祐一の笑顔に何かが切れたのかあたしの目から涙がこぼれた。

 「うっ・・・本当に心配・・・した・・・だからっ・・・」

 「香里」

 「ばかぁ・・・」

 久しぶりに泣いたあたしを祐一がそっと抱きしめて背中を何回もさすってくれた。

 「ごめんな・・・」

 「・・・・・・」

 祐一の胸に顔を押しつけてあたしは声を殺していたが、顔を上げるとそのまま唇を押しつける。

 「・・・もうっ、心配させないでよ」

 「ごめん香里・・・所で一言いいかな?」

 「何よ?」

 「えっとここは病室なんだけど・・・」

 「だから?」

 「いわゆる、大人数部屋だから・・・」

 「それがどうした・・・・・・・・・っ!?」

 あたしはここがどこだかすっかり忘れていた事に気がつきおそるおそる振り向くとニヤニヤしている患者さんたちと、

 ぷくーっと脹れている舞さんとはえ〜と驚いている佐祐理さん、そしてニコニコの秋子さんがいた。

 「・・・・・・」

 「はえ〜」

 「あらあら、香里さんも大胆ですね、ごちそうさま」

 「ママ、朝もキスしたのにまたしてる〜」

 「ママってキスすきだよね〜」

 さらに無邪気な娘たちの言葉が追い打ちになってあたしは恥ずかしさのあまり混乱したのかそのまま祐一の胸に

 再び顔を埋めてしまった。






 「じゃああたしたち帰るから祐一は大人しくしていなさいよ」

 「ああ、心配掛けて済まなかったな」

 「それはもういいわ、それより舞さんと佐祐理さんに迷惑かけないでよね」

 「おれは子供か?」

 「そうでしょ」

 がくっと頭を下げ悄げる祐一に娘たちが手を伸ばして良い子良い子と頭を撫でてあげる。

 「パパ、あしたは帰ってきてねー」

 「パパ、元気になってねー」

 「お、おうっ、優香も祐理も良い子にしているんだぞ」

 「「うん!」」

 お返しに祐一が二人の娘の頭を両手でくしゃっとなで回すと、嬉しいのかきゃっきゃっと笑った。

 「それじゃ祐一さんお大事にしてください」

 「すいません秋子さん、仕事休んじゃって・・・」

 「大丈夫です、それよりもゆっくり休んで明日元気に帰ってきてくださいね」

 「解りました」

 相変わらず二人はピースサインとサムズアップだけで理解し合っているようだけど、いったい祐一の

 仕事って何かしら・・・まあ聞いても教えてくれないから聞かないけど危ない仕事じゃないと秋子さんは

 説明してくれたから信じるしかない。

 「舞さん、佐祐理さん、祐一の事お願いね」

 「はちみつクマさん」

 「はい、佐祐理張り切って看病します」

 ちょっぴりミニスカートの看護服に身を包んだ二人はあたしに笑顔で頷いて答えた。

 「舞おね〜ちゃん、ばいばい〜」

 「佐祐理おねえちゃん、また遊んでね〜」

 「こくこく」

 「はい、遊びに行きますからね〜」

 「それじゃ祐一さんが退院したらパーティーでもしましょう」

 「秋子さん、それはちょっと大げさすぎるような・・・」

 「いえいえ、こうでもしないとなかなか皆さん集まれないでしょうから口実ですね」

 「秋子さん、本人を目の前にそう言うのはともかく良いんですか?」

 「了承」

 一秒待たずに即答するいつもの秋子さんに祐一は肩を竦めるしかできなかった。

 そして家に帰ると秋子さんの誘いもあって、水瀬家にお邪魔して遅めの夕飯を頂くことにした。

 「うぐぅ、祐一くん大丈夫かなぁ・・・」

 「祐一だから平気だと思うけど・・・」

 「明日の朝お見舞いに行こうかなぁ・・・そうだ、たい焼き持っていってあげよう!」

 「あ〜、あたしも行くーっ! 真琴は肉まん一杯上げるんだからっ!」

 なんて二人は遊びに行くのかお見舞いに行くのか解らないほど楽しそうだった。

 「う〜」

 「どうしたの名雪、さっきから唸っているようだけど?」

 「う〜、心配だお〜」

 「何が心配なの?」

 「だって舞さんと佐祐理さんと一緒なんだよ? しかもふたりはナース姿・・・祐一が危険だよ」

 がつん。

 「う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?」

 「寝言は寝てから言いなさい、名雪」

 「う〜、香里は心配じゃないの?」

 「当たり前でしょ」

 「なんで?」






 「祐一に浮気する甲斐性が有るなら今頃名雪たちに子供が出来ているわよ」






 事実、それは次の日にお見舞いに行ったらあたしの言葉を裏付けるように気疲れしている祐一が

 ベッドの上で横たわっていた。






 つづく。



 どうも、じろ〜です。

 間が空いてしまいましたが第二話です。

 次の第三話も病院編です、まだまだ舞&佐祐理さんが活躍してませんから。

 それは入院した日の午後、祐一に起こった喜劇です・・・いや悲劇かな(笑)

 ナースでウサギな舞とお注射しま〜すの佐祐理さんに迫られる祐一はどこまで耐えられるのか?

 そして早くもミニパトに乗ってミニスカ婦警も登場か(爆)

 次回、かおりんの夢は止まらない♪第三話「香里も着る?by舞」

 今度は間を空けずに第三話を書いてますのでお待ちください。

 ではでは〜。

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