Original Works 『Kanon』
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Kanon Short Story
うん? なんか熱っぽい感じがするけど気にするほどじゃないわね・・・さあ、ファイト!
もうみんなお構いなしだった。
晴れでも、雨でも、朝から晩まで、それこそ毎日祐一の前に現れては自分をアピールするのに賢明だった。
「はい、祐一♪ お母さんに教わったジャムを使った料理だお〜♪」
「名雪、謎ジャム入れるんじゃない!」
「うにゅ? どうして解ったの?」
「わからいでかっ!」
「う〜、残念だよ」
「ねえねえ祐一くん、ボクもがんばって作ったんだよ♪」
「あゆ、今度は白く焦げたクッキーを作れば囲碁が出来るぞ」
「うぐぅ、白く焦げたのなんて無理だよ!」
「秋子さんに聞け、もしかしたら知ってるかもしれないぞ?」
「うん、ボクがんばるからっ」
「祐一! あ、あのね・・・」
「・・・真琴、食べ物を粗末にするんじゃない」
「あう〜っ」
「泣いてもダメ!」
「あう〜っ」
「祐一お兄ちゃ〜ん♪」
「何を持ってきたんだ栞?」
「はい、実はこれは新製品のバニラアイスなんですけど一緒に食べませんか?」
「あ、後でな・・・」
「約束ですよ、お兄ちゃん♪」
「お、おうっ」
「あはは〜この服どうですか祐一さん?」
「に、似合っていると思いますよ佐祐理さん」
「はえ〜嬉しいです♪」
「でもどうして寝間着の上だけなんですか?」
「ふぇ、祐一さんがお好きかと思いました〜」
「祐一」
「お、舞もか・・・」
「どう?」
「もちろん良く似合っているぞ、舞」
「ぽっ」
「私は見てくれないのですか、祐一さん?」
「あ、悪い・・・うん、なかなか良いんじゃないか天野」
「美汐です」
「へっ?」
「私だけ名字なんてそんな酷な事は無いでしょう」
「そ、そうか?」
「これからは『美汐』と呼び捨てで構いません」
はぁ・・・まったくもうっ、でも凄いパワーね。
かおりんの愛は止まらない♪ 第九話
Presented by じろ〜
漸くあたしたち以外誰も居なくなったリビングで、祐一はソファーの上で死んでいた。
「勝手に殺すんじゃない・・・」
「あら、生きていたの?」
「うぐぅ」
力無いうぐぅを呟いた祐一からは起きあがる気配が微塵も感じられなかった。
「いったい俺が何をした・・・」
「もてもてで良いご身分じゃない?」
「そうなのか・・・でもなんか命が日増しに削られていくのは俺の思い違いか?」
「あたしを残して死ぬなんて許さないわよ祐一」
「香里、その棒読みなセリフにそこはかとなく寒さと怖さを感じるんだけど?」
「気のせいよ祐一、そんなこと有るわけ無いでしょ」
そう言ってあたしは祐一の側に膝をつくとにこにこして見つめてあげる。
「本当は嬉しいんでしょう?」
「・・・まあ、その嫌ではないけどなぁ・・・」
「このまま行けばハーレムなんて思ってないでしょうね?」
「それは絶対無い!」
「どうして?」
「俺が死んでしまう」
「くすくすっ」
「笑い事じゃないって・・・」
「はいはい」
と、いきなりあたしを胸の上に抱きしめるとキスをしてから耳元で囁いた。
「俺には香里だけで充分なんだ」
「そう言うことにして置いてあげるわ」
「香里〜っ」
「くすくすっ」
「このっ」
「きゃっ、ちょっと祐一・・・んんっ」
体を回転させてあたしを下にすると、祐一はキスをしながらそのまま服を脱がそうとする。
「・・・むっ、だ、だめっ・・・はんっ」
「だめだ、許してあげない」
あ、目がマジになっているわ・・・からかいすぎたかしら?
「今日は寝かさないぞ、香里」
「ま、まって、祐っ・・・ん・・・はぁ・・・ばか」
結局、宣言通り祐一は明け方近くまで眠らせてくれなかったわ・・・はぁ。
「ん・・・」
眠いながらもゆっくりと体を起こすとベッドの側にある時計を見る。
「もうお昼過ぎなのね・・・ふぅ」
今日が休日で良かったわよ、平日なら完全に授業は遅刻ね。
少し自己嫌悪になりながらため息をついて、未だ夢の中にいる祐一の寝顔を見る。
「んが〜」
「ばか」
「・・・むにゃ、香里〜好きだ〜・・・ぐう〜」
「ふふっ、あたしも好きよ祐一」
幸せな寝顔でいる祐一のほっぺたにキスを一つしてから、ベッドから降りようとしてあたしは転けた。
「あ、あらっ? こ、腰に力が入らない・・・」
そしてあたしはお尻を床につけたままその原因である祐一を睨んで叫んでしまう。
「祐一の大馬鹿!」
「んが?」
その一言で祐一が目を覚まし、床に座って睨んでいるあたしを見て首を捻る。
「何やってるんだ香里?」
「何でもないわよ!」
「?」
「ばかっ!」
あたしに怒鳴られてただ首を捻る祐一をじっと睨むしか出来なかった。
その後、祐一に支えられてリビングにいったあたしを祐一はお腹を押さえて笑った。
「笑い事じゃないわよ・・・もうっ」
「くくくっ・・・すまん、俺のせいだな」
「ほんとよ」
「でも、香里の責任も重大だぞ?」
「あたし?」
「そう、香里のあの時の表情と言ったら・・・」
「ば、ばかっ!」
恥ずかしさの余りに顔を真っ赤にして立ち上がり祐一に拳を振り上げた時、急に目眩がしてあたしは
テーブルに手を付いて椅子に座り直してしまった。
「どうした香里?」
あたしの様子がおかしいのに気が付いた祐一が慌てて側に近寄って心配そうに声を掛けた。
「ん・・・ちょっと目眩がしただけよ」
「風邪でも引いたか?」
そっとあたしのおでこに当てた祐一の手がひんやりとして少し気持ちよかった。
「んー、少し熱っぽいかなぁ・・・」
「大したこと無いわよ、大丈夫」
「いや、今日はゆっくりした方がいいな、うん」
ひょいってあたしの体を抱き上げるとそのまま寝室に向かって歩き出した。
「えっ?」
「このまま運ぶぞ」
「は、恥ずかしいわよ」
「静かにしてろって」
「う、うん」
真剣な表情で睨まれながら強めに言う祐一の言葉にあたしは体を預けてベッドの上に寝かされた。
「大げさよ祐一・・・」
「いいから、おとなしくしろって」
「でも・・・んっ」
乱暴に布団をあたしの体に掛けるとそのまま押さえつけてキスをする。
「いいな、今日はこのまま寝ていろ」
「・・・解ったわ、ごめんね祐一」
「謝ること無いだろう、ひょっとしたら俺の責任かもしれないし・・・」
「くすっ、そうね・・・あんなに激しくするんだもの」
「と、とにかくそう言うわけだからっ」
「うん」
真っ赤になってあたしの手を握り優しく見つめている祐一に安心したら、いつの間にかあたしは眠りに落ちていた。
でも、そんな満ち足りた睡眠時間はリビングから聞こえるお祭りのような騒ぎに急かされて、あたしは目を
覚まさないといけないんだなぁと感じて夢から覚めることにした。
そしてリビングではしゅちにくりん・・・違ったわ、阿鼻叫喚の騒ぎを見てあたしはまた軽い目眩を覚えた。
「ね、ね、祐一、今度はジャムじゃなくてイチゴ入れてみたんだけど・・・」
「それじゃ同じ事だ!」
「う〜、いじわるだよ祐一」
「自分の好みを俺に押しつけるなっ!
「好き嫌いは良くないんだよ〜」
「ねえねえ祐一くん、見て見て! 秋子さんが教えてくれたんだよ」
「だからって白く焦げたクッキー作ってくるなっ!」
「うぐぅ、一生懸命作ったのに・・・」
「どのみち食べられないんじゃ意味がないだろっ!」
「うぐぅ」
「祐一、ゆーいち! 見て見てっ!」
びしっ!
「あう〜っ、何ででこピンなのよぅ!」
「だから食べ物はおもちゃじゃ無いって言っただろう!」
「あう〜っ」
「見てください祐一お兄ちゃん、今度はお徳用サイズを買ってきました」
「栞、まさかそれを今から全部食べるとか言うんじゃ無いだろうな?」
「凄いです、どうして解ったんですか?」
「そんなに食えるかっ、第一夕飯もまだ食べてないんだぞ」
「ちょうど良かったですね、タイミングばっちりです」
「どうですか祐一さん、この服は?」
「佐祐理さん、ワイシャツ一枚の姿をどう判断しろと?」
「はえ〜、これでもダメですか〜」
「いや、男としては嬉しいんだけど・・・ってそうじゃなくてっ!」
「じゃあ今度はエプロンにしますね〜」
「祐一、見て」
「ま、舞、シャツのボタンを留めろっ、胸見えてるぞ!」
「祐一、胸見たいの?」
「だ〜っ、脱ごうとするなっ!」
「ぐしゅぐしゅ」
「女の子を泣かすのは感心しませんね、祐一さん」
「い、いやそれは・・・って天野ぉっ!?」
「美汐です」
「あ、あのな・・・美汐そうじゃなくて・・・」
「似合いませんか?」
「似合いすぎて怖いぞ、その格好・・・」
「知り合いの神社からお借りしてきたのですが無駄で無かったようですね」
「あ、あのなぁ・・・」
あたしはいつもの様子をリビングの入り口で見ながら疲れたように肩を落とした。
「・・・・・・・・・・・・はぁ」
しょうがないなぁと言った感じでその騒ぎの中に一歩踏み出そうとしたあたしは・・・。
「香里!?」
駆け寄ってくる祐一の声がなんで遠くに聞こえるのかぼんやりと思いながら目の前が暗くなった。
「香里っ!!」
つづく。
どうも、お待たせの第九話です。
香里はどうしてしまったのでしょうか?
腰が抜けるほどに祐一のがんばりすぎで過労で倒れてしまったのでしょうか(笑)
果たして香里と祐一に訪れる転機とは何を二人にもたらすのか・・・。
そして秋子さんが密かに用意している舞台が否が応でも物語を押し進める。
シリアスな展開を引いて次回、クライマックスを迎える第二部です。
次回、かおりんの愛は止まらない♪最終話「浮気をしたら許さないからね、あなた」(大嘘)