Original Works 『Kanon』



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 Kanon Short Story






 ・・・何か真っ暗ね、ここ・・・あたし何処にいるのかしら? ねえ祐一・・・。






 「ここは・・・?」

 突然目が眩むほど明るくなって周りをよく見たら、どうやら名雪の家の前だった。

 「あら、確かあたしリビングにいったはずなのに・・・」

 そんなことを考えていると、家のドアが開き中から高校の制服姿の祐一と名雪が出てきた。

 何で二人とも制服来ているのよ?

 「おい名雪っ、早くしろよ!」

 「う〜、ねむいよ〜」

 「これじゃまた遅刻だろっ!」

 「祐一、いつものしてくれたら目が覚めると思うよ」

 「しょ、しょうがないなぁ・・・ほらっ」

 「んっ・・・」

 ごく自然にあたしの目の前で祐一と名雪がキスをした。

 な、何やってるのよ祐一!?

 「目が覚めたか? なら行くぞ!」

 「うん♪」

 照れながら微笑む名雪の手を引きながら走り出した祐一があたしの方に向かって来たので、

 一歩踏み出して睨み付けながら声を掛けた。

 「ちょっと祐一! 今なにやっ・・・!?」

 すっ。

 でも、目の前に迫った祐一と名雪があたしをすり抜けて走り過ぎた時言葉が詰まった。

 「えっ!?」

 あたしは呆然としながらも、走り去る二人の姿をいつまでも眺めていた。

 これってもしかして夢なのかしら?

 そう思ってよく見るとあたしも高校の制服を着てるし周りの景色も淡い感じの色になっているわ。

 ふ〜ん。

 しかし夢だからと言っても祐一がこのあたしを差し置いて他の女の子とキスしているのは

 絶対に見過ごせないわね。

 ん?

 ちょっとまってよ。

 これが夢ならいったい誰の夢なのよ?

 う〜ん・・・と、とにかくここにいても仕方がないから祐一の後を行ってみましょう。

 でもどうせならあたしが祐一とキスしたかったわ・・・はぁ。

 なんてそんなことを思いつつ学校に向かったあたしを待っていたのは・・・笑える物じゃ無かった。






 かおりんの愛は止まらない♪ 最終話






 Presented by じろ〜






 「なあ栞・・・」

 「なんですか、祐一さん?」

 「今日も弁当美味かったぞ」

 「本当ですか?」

 「おうっ」

 「それじゃ・・・ご褒美くれます?」

 「ん、いつものでいいのか?」

 「はい」

 そして頬を染めて目を閉じて顎をわずかに上に向けた栞に祐一はキスをしてあげた。

 なによこれ?

 なんなのよこれは!?

 どうして他の女の子といちゃいちゃしている所を見せつけねければならないのよ?

 そう、学校の中庭に来たあたしが見たのは仲良く昼食を食べている祐一と栞だった。

 二人っきりでいるその様子から恋人同士だと感じることが出来たけど、どうして名雪じゃないのかしら?

 まさか・・・複数の女の子と付き合っているんじゃないでしょうね?

 もしこれが祐一の夢だとしても、そんな都合がいい夢なんてこのあたしは納得しないわよ!

 頭ではこれが夢だと解っていても目の前光景に我慢できなくなり、せめて何か言ってやろうと思い一歩踏み出したら

 一瞬景色が揺らめいて一変した。

 「こんどはどこよ?」

 「祐一く〜ん」

 その声に振り返るとたい焼きの袋を抱えて人混みの中をあゆちゃんが走ってきた。

 そしてあたしの前を通り過ぎて後を向いている男の人の背中に抱きつこうとした・・・けど。

 さっ。

 ずさ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ。

 「ふう・・・危なかった、もう少しで命を奪われるところだった」

 呟きながら汗を拭う仕草をしながら振り向いたのはやっぱり祐一だった。

 「うぐぅ、よけた〜・・・祐一くんがよけた〜!」

 「ようっあゆあゆ、今日も元気だな」

 「うぐぅ、どうしていつもいつも祐一くんはよけるんだよ?」

 「お前が襲ってこなければ良いと思うんだが・・・」

 「うぐぅ、ちがうよ! ただ抱きつこうとしただけだよ!」

 「なにっ、そうだったのか!?」

 「うぐぅ、ボクの事きらいなの?」

 「いや、好きだぜ」

 ちゅっ。

 「うぐぅ」

 人混みの中であゆちゃんを抱きしめていきなりキスをした祐一は、真っ赤になって俯いたあゆちゃんの

 頭を優しく撫でていた。

 あたしはさっきから他の女の子たちと祐一の仲睦まじい様子を見て胸の中で何かがざわめき始めた。

 何となく見ていたく無くなり振り返ったあたしの目の前に別の祐一がいた。

 いや、一人じゃない・・・舞さんと佐祐理さんが嬉しそうに話ながら祐一の腕を抱きしめて歩いていた。

 「二人とも、ちょっと歩き難いんですけど・・・」

 「迷惑?」

 「ふぇ、迷惑ですか?」

 「い、いや、嬉しいんだけど・・・その」

 「このままがいい」

 ぎゅっ。

 「あはは〜、佐祐理も舞と同じです」

 ぎゅっ。

 「ははは・・・はぁ」

 困ったように笑う祐一だけど、二人を見る目はとても優しい光を携えていた。

 もちろんあたしはいつもそう言う目で見つめられていた。

 でも今はあたしじゃない・・・そう、今は違う女の子を見つめている祐一の笑顔が胸の中を

 更にそして大きく波を立てる。

 だっ。

 だからあたしは走り出した、何もかも振り切るように・・・。

 「はぁはぁはぁ・・・」

 ただひたすら走ったあたしがたどり着いた場所は・・・あの丘、ものみの丘だった。

 木に手を付いて息を整えようとしたあたしの耳に、楽しそうにはしゃぐ女の子の声が聞こえた。

 「ゆーいち! こっちこっち〜!」

 「真琴、あんまりはしゃぐと転ぶぞ・・・」

 「だいじょ〜ぶ、だいじょ〜・・・ぶっ」

 べしゃ。

 「ほらっ、言わんこっちゃ無い・・・」

 「ぺっぺっ、あう〜っ」

 「草食べるのか?」

 「食べん! 食べない! 食べるか!」

 「草よりこっちの方が美味いぞ」

 「あうっ、肉まん〜♪」

 袋から取り出したほかほかの肉まんにかぶりつく真琴ちゃんの頭を撫でながら、祐一は自分も肉まんを

 手に取って大きな口でばくっと食べた。

 柔らかい風に髪を揺らめかせながらあたしはその二人を見つめていた・・・いや、そうさせられていた。

 なんで。

 どうして。

 あたしは耳を塞ぎきつく目を閉じて何も見ない。

 そして暫くそのまま立ちつくしていたあたしはそっと目を開けてみる。

 もう祐一も真琴ちゃんも目の前にはいなかった。

 少しだけほっとして振り返った所にいたのは・・・祐一に寄り添うように座っている美汐さんだった。

 あたしは胸を鷲掴みにされるほどの痛さに顔を歪ませていたけど、そんなのはお構いなしに二人の

 会話が耳に入ってきた。

 「なあ天野・・・」

 「美汐です」

 「すまん・・・なあ美汐」

 「はい」

 「静かだな」

 「はい」

 「・・・」

 「・・・」

 ぎゅ。

 「祐一さん・・・好きです」

 「俺も・・・」

 交わされたのは短い会話だったけど美汐さんの肩にさりげなく回した祐一の腕が優しく彼女を引き寄せる姿は、

 誰にも邪魔できない雰囲気を作り出していた。

 いや。

 いやよ。

 何であたしがこんな物を見せつけられなければならないのよ!

 今まで見てきて騒いでいた物が胸の中から溢れてきて、あたしの口から言葉となってこぼれる。

 「いったい何なのよ、この夢はっ!?」

 力一杯叫んだ瞬間、真っ暗になった場所であたしは一人ぼっちだった。

 そしてやっと気が付いた。

 今見た世界にあたしがいなかった・・・違う! あたしだけがいなかった事に!

 そしてやっと解った。

 これは有るべき世界、有ったかもしれない未来の姿と言う事に・・・。

 あたし以外と結ばれた祐一と女の子たちの物語。

 そして理解した。

 これはあたしが心の奥底に持っていた名雪達に対する罪悪感が見せた夢だった事に・・・。

 そして思った。

 だからこそあたしは幸せにならなければならない、無くしてしまういくつもの物語のために・・・。

 「そうよね」

 つい口に出して呟いたあたしの言葉に応えるように、頭の中で声が聞こえた。

 『そうだよ、ママ』

 無意識にあたしの手をお腹の辺りに添える、慈しむように・・・。

 「そうね」

 そして瞼を閉じた目から涙があふれ出して止まらなかった。

 「香里」

 だれ?

 「香里」

 この声・・・そう、そうよ。

 「香里」

 あの人の、祐一の声があたしの名前を呼ぶ。

 「祐一」

 恋しくて止まらない、愛しいくて止まらない気持ちが祐一を呼んだ。

 そして白く眩しい、でも温かい光に包まれてあたしの意識は浮上していった。

 「・・・祐一」

 「香里!?」

 誰かがあたしの手をぎゅっと握りしめている。

 「香里?」

 ゆっくりと目を開けるとそこにいたのは少し青ざめて心配そうに見つめている祐一だった。

 「祐一・・・」

 「香里、大丈夫か?」

 「祐一・・・」

 ぎゅっ。

 「香里?」

 あたしは手を伸ばして祐一にしがみつくように抱きつくと、その胸に顔を埋めて泣き出してしまった。

 「うっ・・・ひっく、ううっ・・・すん」

 「ど、どうした香里?」

 答える代わりに更に力を入れて抱きしめると、祐一は何も言わずにあたしの背中を優しく撫でてくれた。

 今はこのぬくもりをただ離したくなかった。

 あたしが手に入れた大切なぬくもりを・・・。






 「そろそろ宜しいでしょうか?」

 「えっ・・・あっ」

 抱きしめ合っていたあたしたちに遠慮がちに声を掛けたのは、白衣を着て苦笑いしている人だった。

 よく見るとこの部屋の中にニコニコしている秋子さんをはじめジト目で睨んでいる名雪たちの姿もあった。

 は、恥ずかしい・・・みんなの前で泣きながら祐一に抱きつくなんて!!

 もう全身が真っ赤になったような気がしたあたしは祐一の胸から顔を上げることが出来なかった.

 「先生、香里は大丈夫なんですか?」

 「まあまあ落ち着いて、君は彼女の恋人だね?」

 「はい」

 「うむ、いい返事だね・・・結論から言うと彼女は妊娠しているよ」

 「ほ、ホントですか!?」

 「ああ、だからここのところ彼女は微熱が続いたり貧血を起こして目眩がしていたんじゃないのかな?」

 「そ、そう言えば・・・」

 「これからは彼女の支えにならないといけないぞ」

 「は、はい」

 祐一のはっきりとした返事に医者の先生はニコリと満足そうに頷いて、あたしにお大事にと声をかけて

 静かに部屋を立ち去った。

 「祐一、あたし・・・」

 「待った!」

 「えっ?」

 「祐一さん、これを・・・」

 「ありがとうございます、秋子さん」

 そう言って秋子さんから受け取った紙袋の中から取り出した物を広げて、祐一はあたしの頭の上にそっと被せた。

 「こ、これは・・・」

 白くて軽いレースが何かあたしにも理解できた。

 「結婚しよう、香里」

 「祐一・・・」

 ヴェールに見とれて呆然としているあたしに祐一がはっきりと力強くそう言ってくれた。

 「返事は?」

 「あ・・・はい」

 つられるようにあたしは返事をして頷く。

 そしてはっとして我に返ったあたしは祐一に聞いてみる。

 「いいの、あたしなんかで?」

 「イヤだったら一緒に暮らさないって」

 「でも、赤ちゃんが出来たから・・・」

 「それは驚いたけど全然嫌じゃないぞ、それよりも嬉しかったぞ」

 「祐一・・・」

 あたしは嬉しくって微笑んで見つめていたけど、祐一の顔がだんだんぼやけてきた。

 「なんだぁ? 香里ってこんなに泣き虫だったか?」

 「違うわよ、これは嬉し泣きよ・・・」

 「そっか・・・」

 あの時夢で聞いたのは空耳じゃなかったのね・・・。

 あたしは俯いてそっとお腹に手を当ててから、改めて顔を上げると祐一を見つめ返した。

 「あたしたちをよろしくね、祐一」

 「おうっ、しかし俺もパパかぁ・・・うん、がんばらないとな♪」

 「くすっ・・・祐一」

 「香里」

 そしてあたしたちは顔を近づけていく、ここが何処で誰がいるのかすっかり忘れて・・・。






 「う〜」

 「うぐぅ」

 「あう〜」

 「えう〜」

 「ぐしゅぐしゅ」

 「はえ〜」

 「・・・はぁ」

 そんな彼女たちに構わず、あたしは祐一とキスを交わす。






 「了承」

 秋子さんの声もしたけど聞こえない振りをしてあたしと祐一は長い長いキスを続けた。






 そして物語は続いていく。






 あたしの愛は止まらない♪






 かおりんの愛は止まらない♪第二部終了


 どうも、じろ〜です。

 長かったかおりん第二部も漸く最終回となりました。

 そして始まる新しい物語・・・今度はホームコメディか?

 かおりん三部作第三部「かおりんの夢は止まらない♪」

 祐一パパと香里ママの子育て奮戦記(笑)

 もちろん名雪たちもよりアダルトに祐一に迫ります。

 今度は年齢指定が付くのか、それとも・・・。

 こうご期待♪


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