Original Works 『Kanon』



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 Kanon Short Story






 さあ、いくわよ・・・誰が祐一の彼女なのか解らせて上げないと彼女たちが可哀想だしね?






 まだ寝ている祐一を起こさないようにそっとベッドから抜け出してあたしはシャワーで軽く寝汗を流す。

 少し熱めのお湯を浴びた後、最後に冷たい水で仕上げてさっぱりする。

 下着を着けて白いシャツに袖を通して、まだ少し濡れている髪の毛を結い上げる。

 素足のままキッチンで朝食の支度に取り掛かる。

 「う〜ん、今日は和食にしようかしら・・・」

 冷蔵庫の中を見てさっとメニューを決めると手早く用意しながら鼻歌を口ずさむ。

 暫くするといい匂いとことことと鍋から音が聞こえて、炊飯器のスイッチが保温に切り替わる。

 火を止めてテーブルに並べてからまだ寝ている祐一を起こしにいく。

 静かにドアを開けると、枕をあたしの代わりに抱きしめて幸せそうな寝顔を浮かべていた。

 「ふふっ、この寝顔を独占しているのはあたしなのよね・・・」

 そんな祐一の寝顔に釣られてあたしの顔にも笑顔が浮かんでくる。

 つんつん。

 「ん〜」

 「くすくすっ」

 つんつん。

 「う〜」

 意外に柔らかい祐一のほっぺたを突っついて遊んでみる。

 「全く・・・優しすぎるのも時には問題なのよ、祐一?」

 つんつん。

 「んがっ」

 あ、起きちゃったかな?

 ん、寝返りだけみたい・・・もう、本当に幸せそうなんだから。

 あんまり幸せそうだからちょっとだけ不幸にしてみたくなったあたしは、祐一の鼻を摘んでキスをする。

 「ん・・・」

 十秒経過。

 「んんっ・・・」

 二十秒経過。

 「んぐっ!?」

 三十秒経過。

 「んんーっ!」

 じたばたじたばた。

 四十五秒・・・。

 「ぷはーっ! か、香里ぃ〜!!」

 漸くあたしを押しのけてベッドの上で飛び起きる。

 「おはよう祐一、朝食の用意は出来ているわよ♪」

 にこって笑いかけて上げるあたしを、祐一は息を荒くして涙混じりの目で睨んでいる。

 「こ、こ、こ・・・」

 「ん、鶏のまね?」

 「こ、殺す気かぁーっ、香里っ!?」

 「別に」






 かおりんの愛は止まらない♪ 第八話






 Presented by じろ〜






 「・・・ったくぅ〜」

 ぶつぶつ言いながら顔を洗ってきた祐一がどかっと椅子に腰掛ける。

 「はい、祐一」

 あたしがご飯を盛った茶碗を差し出すと、ちょっと乱暴に受け取りむしゃむしゃと食べ出す。

 そんな様子をあたしはテーブルに肘をついて頬杖をして見つめる。

 「・・・」

 「・・・なんだよ?」

 「ふふっ」

 「むぅ」

 あたしが笑ったのが気に入らないのか、祐一はむすっと黙り込んで黙々と朝食を取る。

 「ごめんね祐一」

 それだけ言ってあたしも自分の分の朝食に箸をつけた。

 相変わらずむすっとしながら食後のお茶を飲んで一息ついている祐一があたしをじっと見て口を開いた。

 「何か嬉しそうだな、香里?」

 「そう見える?」

 「その笑顔を見ればな・・・」

 「そう・・・そうかもね」

 あたしは微笑み返してからゆっくりとお茶を一口飲むと、立ち上がってテーブルを回り込むと

 祐一の膝の上に乗って首に腕をまわす。

 「か、香里?」

 ふふっ、驚いているわね・・・そうね、朝からあたしはこんなに積極的な事しないしね?

 「なぁに、祐一?」

 微笑んだままじっと見つめてあたしは祐一の反応を待ってみたりする。

 「い、いや・・・その・・・」

 なにやら照れている祐一の首にキスをしたり頬を擦り寄せて更にスキンシップをする。

 「お、おい・・・うっ」

 「うふふっ、どうしたの祐一?」

 「い、いい加減にしないと俺にもなぁ・・・」

 「祐一も何かしら?」

 「くっ・・・」

 久しぶりに狼狽えている祐一も可笑しかった・・・でも、そろそろかしら?

 「こうなったら・・・か、香里〜!」

 「あ、そろそろ学校に行く時間よ祐一?」

 ごん。

 すっと膝の上から居なくなったあたしを抱きしめようとした祐一は、バランスを崩して椅子からずり落ちた。

 「何寝てるのよ、祐一?」

 「うぐぅ」






 着替えたあたしと祐一が表に出るといつものメンバーが勢揃いで立っていた。

 「おはよう祐一、香里」

 「おはよう祐一くん、香里さん」

 名雪とあゆちゃんは朝から祐一に会えたのでニコニコしている。

 「おはよーっ祐一!」

 「おはようございます、祐一さん・・・!?」

 相変わらずあたしを睨むだけの真琴ちゃんはともかく、美汐さんは挨拶の途中で祐一の首を

 じっと見つめたまま固まっていた。

 だけどすぐに我に返った美汐さんは、今度はあたしの方を向いて睨んできた。

 「・・・マーキングですか?」

 「さあ・・・でもあたしだけのケダモノさんなのは確かね、誰かさんは?」

 「誰がケダモノだ!?」

 「祐一♪」

 「ぐはっ」

 「どうしたの祐一?」

 「うぐぅ、なんか泣いてるよ祐一くん」

 「祐一の事だからお財布でも落としたんでしょ?」

 あたしの素早い返答に肩を落としてがっくりと項垂れている祐一を、名雪たちが好き勝手に

 適当な事を言いながら不思議そうに見ていた。

 「おはようございます〜祐一さん」

 「おはよう、祐一」

 そんな風に戯れていると、少し遅れて佐祐理さんと舞さんが部屋から出てきた。

 しかしいつもの返事が祐一から来ないことを疑問に感じた舞さんは祐一の側に近寄った。

 「どうしたの、祐一?」

 「あ、おはよう舞、佐祐理さん」

 「はちみつクマさん」

 「ふぇ、元気がないみたいですが大丈夫ですか祐一さん?」

 「ん、ああ、そんなこと・・・!?」

 ぴた。

 「「「「「!!」」」」」

 な、な、な・・・なんて大胆なの、舞さん!?

 みんなも唖然としているし・・・ふぅ、それにしても一瞬キスするのかと思っちゃった。

 「ま、舞?」

 「佐祐理はいつもこうして熱はかるから・・・」

 「そ、そうか」

 おでことおでことくっつけて熱を計る舞さんを見ていたら純粋すぎるのも武器になるのねと今更ながら

 感心させられちゃったけど・・・侮りがたしね、舞さん。

 「な、なにやっているの〜祐一、舞さん!」

 「うぐぅ、そんな恥ずかしいことしちゃダメだよ!」

 「あうーっ、真琴も祐一にするのー!」

 「舞〜渡しちゃダメですよ〜」

 「お、落ち着けお前らっ」

 「祐一は渡さない」

 しっかりと祐一の背中に腕をまわして抱きつく舞さんは目で威嚇しながら寄せ付けないように牽制した。

 「くっ・・・」

 「あたしよりも注意する人がいるみたいよ、美汐さん?」

 「どうやらそのようですね、香里さん」

 横目で確認しながら呟き合うあたしと美汐さんは、目の前で祐一から引き剥がされている舞さんを

 新たなる驚異として微笑んで見つめていた。

 「はぁはぁ、みなさんおはようございます・・・って、どうしたんですか?」

 そこに遅れてきた栞が息を切らして胸を押さえながら聞いてきた。

 「おはよう栞、別にいつもの事よ」

 「そうです」

 「えっ?」

 わけが分からないと言った感じで可愛らしく首を捻る栞の頭を撫でて学校にいくように促した。






 高校生組と別れていつもの五人で大学に行くと掲示板に張り紙がしてありそこにはこう書いてあった。


 『以下の者、三ヶ月間の停学に処する』 

       経済学部二年 久瀬 透

       教育学部一年 北川 潤




 「何か哀れだけど自業自得だな・・・」

 「そうね、でも普通なら退学ものよ?」

 「でも、暫く静かになって良いですよね〜」

 「ゴミ掃除は大変だから・・・」

 それにしても残念だったわ、北川君でいい人だとばっかりおもっていたのに・・・。

 「どうした香里?」

 「ん、北川君っていいお友達だと思っていたのにね・・・」

 「そ、そっか・・・最後まで救われない奴だったなぁ・・・さらば北川」

 「何か言った祐一?」

 「いや、そろそろ授業が始まると思ってな・・・」

 「行きましょう祐一♪」

 「佐祐理さんも舞も行こう」

 「はい、行きましょう〜」

 「はちみつクマさん」

 教室を目指してその場を立ち去った後、暫くしてその掲示板の前に現れた帽子を被った二人組は

 その紙を見て呆然として崩れ落ちたが気にとめる者はいなかったそうだけどね。

 久瀬なんて言う友達を作ったのが北川君の失敗かしら?

 せっかく祐一って言う親友がいたのにね・・・本当に残念な事だったわ。

 祐一も北川君の事で少し元気がないみたいだからあたしが元気づけて上げないとね。

 だから・・・。

 「はい祐一、あ〜ん」

 「か、香里!?」

 「ほらっ、口開けて祐一?」

 「あ、あ〜ん」

 もぐもぐとあたしの箸から口に入れた唐揚げを食べている間、祐一の顔を見つめてあげる。

 「はえ〜香里さんいつになく大胆ですね〜」

 「気合いが違うから・・・」

 そう言いながらも舞さんは自分のお弁当箱からハンバーグをホークに刺して祐一に突き出す。

 「自信作だから・・・」

 「お、おうっ」

 こちらも食べ終わるまで祐一の顔から目を離さず見つめ続ける・・・ふふっ。

 「腕を上げたわね舞さん?」

 「まだまだ、佐祐理には叶わない」

 「あははーっ、すぐに舞も佐祐理よりも上手になりますよ〜」

 さすがに二人が組むのは強敵だけど、あたしも持てる力を出すからつもりだから負けるなんて思わない。

 「はい祐一、あ〜ん♪」

 そう思い、あたしは手を添えて祐一の口に次のおかずを運んで上げる。







 つづく。





 どうも、じろ〜ちんです。

 お待たせしました、遅くなりましたがかおりんの第八話です。

 新たなるライバルをものともせずに自ら積極的な行動にでた我らがかおりんです。

 しかし美汐よりも有る意味凄い舞に更にヒートアップしていく戦いはもう誰も止められない。

 それにしても美味しすぎる展開に、祐一の理性はどこまで彼女たちの攻撃に耐えられるのか?

 完全に出遅れている名雪、あゆあゆ、栞、そしてまこぴーに起死回生のチャンスは?

 次回、かおりんの恋は止まらない♪第九話「双子の女の子だって、早く名前を決めてね祐一♪」(大嘘)

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