Original Works 『Kanon』



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 Kanon Short Story






 もう夏も終わってこれからはあれね、食欲の秋よね・・・って別に良いじゃない。






 「ずずっ・・・」

 「あう〜、肉まん美味しいよ〜」

 「そらよかったなぁ・・・」

 あたしと祐一と真琴ちゃんと天野さんの四人はここ、ものみの丘っていう所に来ていた。

 どうやら先日、舞さんと佐祐理さんと動物園に行った帰りを真琴ちゃんに見られたらしい。

 それでずるいずるいと家に着くまで言われ続けた祐一は、根負けしてここに来ることになったわ。

 もちろん天野さんは真琴ちゃんが連れてきたんだけどね。

 何でもこの丘でで祐一と真琴ちゃんは出会ったらしい・・・あ、その辺の話は祐一から詳しく聞いたわ。

 ちなみにその話を聞いたあたしは、人間だけじゃなかったのねとため息をついた。

 「香里、何かすっごく失礼なこと考えていなかったか?」

 「どうして?」

 「そんな表情で睨まれたらそう思わずにいられなかったぞ」

 「そう、気のせいよ」

 「香里・・・その一言で流すのか?」

 「うん」

 楽しそうににっこり笑って祐一にそう答えて上げる。

 がくっと頭を垂れた祐一の肩をぽんぽんと申し訳程度に叩いて慰めた。

 「まるで子供のようですね、相沢さん」

 そう呟いて、天野さんはお茶を美味しいそうに一口飲んだ。

 「くっ・・・よし真琴っ、今から鬼ごっこだ!」

 「んぐっ、え、えっ?」

 「それじゃ真琴が鬼だぞっ」

 「あう〜っ、待ちなさいよ祐一!」

 「誰が待つかっ」

 いきなり立ち上がって真琴ちゃんと走り回る祐一を、私は本当に子供みたいと思っていた。






 かおりんの愛は止まらない♪ 第七話






 Presented by じろ〜






 秋と言ってもまだまだ日差しが暖かくピクニックには絶好の日だった。

 祐一が珍しく頭を下げてお願いするから、あたしも快く引き受けてお弁当の用意をしてあげた。

 ふふっ、もちろんちゃんと後でそれなりのことをして貰う約束は取り付けたわよ。

 まあ家の中にいるよりも空気も美味しいし、そんなに気分も悪くなかったしね。

 そんな訳で目の前で真琴ちゃんと遊んでいる祐一を眺めながら、あたしは天野さんとお茶を飲んでいた。

 「あの、美坂さん・・・」

 「ん?」

 「今日の事、宜しいんですか?」

 「ああ、そうね・・・別に気にしてないわよ」

 「何故ですか?」

 「ピクニックぐらいで目くじらたてることも無いしね・・・」

 「余裕・・・って事ですか?」

 「違うわよ、あんなのでも一応あたしの恋人だからね・・・信じることにしてるのよ」

 あたしは天野さんに微笑んでみせると、彼女もすこしだけ笑った。

 「今の顔、祐一が見ていたらきっと喜ぶでしょうね?」

 「えっ!?」

 天野さんは滅多に笑わないんだって祐一から聞いていたから、その笑顔が見れたのはラッキーかな

 なんて思いつつ、赤くなった天野さんを見つめながらあたしは更に言葉を続ける。

 「だから天野さんが祐一の事を好きになっても止めはしないわよ」

 「ど、どうしてですか?」

 「だって人を好きになる気持ちを止める権利は、あたしには無いわよ」

 「美坂さん・・・」

 これも珍しく驚いた表情の天野さんは普段のクールな顔つきと違って年相応の女の子だった。

 「もっとも、祐一を譲る気は全然無いからそこの所は間違えないでね」

 あたしのセリフを聞いていた天野さんはすっと目を閉じて、それからすぐに瞼を開くと

 じっと見つめ返してきた。

 「それじゃ宜しいんですね・・・香里さん」

 「もちろん、前に言った通り受けて立つわよ・・・美汐さん」

 真琴ちゃんの保護者のような顔から一人の恋する少女の顔になった美汐さんは綺麗だった。

 そして、この日を境にあたしと美汐さんは名前で呼び合うようになった。






 「それじゃまたねっ、祐一!」

 「おうっ、ちゃんとまっすぐ帰れよ」

 「あう〜っ、真琴子供じゃな〜い! それにここ家の前よ!」

 「何ぃ!? それは気がつか無かった」

 「はいはい、いい加減止めなさいって・・・」

 「相変わらず子供っぽいですね、相沢さん」

 「そう言う天野は・・・」

 いつものようにからかおうとした祐一は美汐さんの微笑みを見て言葉を失う。

 早速来たわね・・・祐一に結構効いてるみたいよ、その笑顔?

 「どうかしました、相沢さん?」

 「い、いや・・・」

 「どうしたの祐一?」

 顔を赤くして黙り込んだから、真琴ちゃんも気になって祐一の顔を覗き込んで聞いている。

 「な、何でもないっ、じゃあな天野っ」

 「はい、それでは失礼します・・・祐一さん」

 「へっ?」

 「美汐?」

 美汐さんはさっきの微笑みを浮かべて軽く会釈をしたら、そのまま家に帰っていった。

 う〜ん、なかなかやるわね・・・ひょっとして一番の強敵かしら?

 「祐一っ! いったい今のは何なのよっ?」

 「お、俺に聞くなよ・・・しかしどうしたんだ、天野の奴?」

 「ぜったい祐一が何かしたんでしょう!」

 「真琴、お前人の話をちゃんと聞かんかっ!」

 「何よっ、祐一のスケベ、エッチ、おんなったらし〜!」

 「人聞きの悪いことを叫ぶんじゃない!」

 ごん。

 「あう〜っ、祐一がぶった〜!」

 はぁ・・・本当にしょうがないんだから・・・この子供たちは・・・。

 あたしは子供のけんかを放って置いてすたすたとアパートに向かって歩き出した。

 「おい香里、置いていくんじゃないっ」

 「何かあたしいがいても意味がないように感じたから」

 「ぐっ、俺も帰るって」

 「こら〜無視するんじゃないわよう!」

 「おまえも帰れっ」

 ごつん。

 「あう〜っ、二回もぶったぁ〜・・・秋子さんに言いつけてやるぅ!」

 「お休み真琴!」

 「あう〜っ」

 泣きながら自分の家に走って行っちゃったけど、知らないわよあたしは。

 「あ〜あ、泣かしちゃった」

 「ぐはっ」

 「秋子さんの試作品食べさせられても自業自得よ、祐一?」

 「うぐぅ」

 後日あたしの言った通り祐一は秋子さんスペシャルを食べさせられるんだけど、

 あんまりいい話じゃないから言わないことにするわ。






 それからの彼女の行動力にはさすがに関心させられちゃうほど凄かったわ。

 「おはようーっ、祐一!」

 「おはようございます、祐一さん」

 「おはよ真琴とあ、天野!?」

 「朝はおはようですよ、祐一さん」

 「お、おうっ、おはよう・・・」

 「祐一のばかーっ!」

 「何で俺がバカなんだよ、真琴?」

 「しらないわよう!」

 「それではご機嫌よう」

 「ああっ、待ってよう美汐っ」

 真琴ちゃんを置いてけぼりに、スカートを翻して美汐さんは行ってしまった。

 「祐一」

 「祐一くん」

 「な、なんだ二人とも、その目は?」

 「「すけべ」」

 「なんでやねん!」

 名雪もあゆちゃんも何か感じたらしいわね、あの美汐さんの変化に気がつかないわけないか・・・。

 朝は真琴ちゃんを迎えに来る美汐さんに会うんだけど、必ずあの時見せた笑顔で祐一に微笑でいる。

 祐一もいちいち顔を真っ赤にするから真琴ちゃんもくってかかるし・・・。

 さりげなく現れて引き際も鮮やかな見事な作戦ね、やるわね美汐さん。

 まあ、真琴ちゃんもこのまま黙っているわけにはいかなくなるでしょう。

 「ねえ美汐、何かあったの?」

 「別に何もないですよ、真琴」

 「え、で、でもでも〜何かいつもの美汐じゃないよう」

 「・・・そうかもしれません」

 「へ?」

 「ごめんなさい真琴、私あなたを応援していたかった・・・でも」

 「ど、どういう意味なの美汐!?」

 「これからは良いライバルでいてくださいね」

 「あ、あう〜っ!!」

 何か叫び声が聞こえたけど、これからが本番かしら?

 ほんと・・・どこが良いのかしらね、このあんぽんたんのケダモノの・・・。

 「また酷いこと考えているだろう、香里?」

 「うん」

 その一言で簡単に祐一をあしらうと、あたしも気合いを入れて相手をすることにした。

 まあ・・・一番そのあんぽんたんに参っているのがあたしなんだから人のこと言えないわよね。






 と朝は挨拶、夕方は商店街で偶然会ったり週末は名雪の所に遊びに来てたりと連日の攻勢に、

 さすがの祐一も疲労困憊らしく大学から帰ってくるなりソファーに寝転がった。

 「ふぅ・・・なあ香里ぃ〜」

 「何、祐一?」

 「俺が何かしたのか? 最近の天野って何かおかしいぞ?」

 「ん〜そうね・・・ま、自分に正直になったからかな・・・」

 「何だよそれ?」

 「いよ、この女ったらし」

 「その抑揚のない言い方はなんなんだよ?」

 「別に」

 「ううっ、最近のかおりんはいじめっ子だぞ〜」

 「何よ、そのかおりんって?」

 「香里のニックネーム」

 ぼすっ。

 嬉しそうに言う祐一の顔めがけて、あたしは無言で側にあったクッションを投げつけた。

 「それ人前で言ったら・・・殺しちゃうからっ♪」

 「は、はひっ」

 笑顔で話しかけたつもりなんだけど、何故か祐一はがたがた震えて身を小さくしていた。

 なによ、そんなに怯えること無いじゃない・・・そんなに怖かったのかしら、今の笑顔?

 ぴんぽ〜ん。

 「は〜い」

 がちゃ。

 「こんにちは、香里さん」

 「来たわね・・・いらっしゃい美汐さん」

 「真琴もいるわよう!」

 「はいはい、真琴ちゃんもいらっしゃい」

 鼻息も荒く美汐さんを押しのけて部屋の中に入ってきた真琴ちゃんは、祐一を見つけると

 そのまま飛びついて離れなかった。

 「こんにちは、祐一さん」

 「あ、あ、天野・・・」

 今日の天野さんの服装は・・・普段の彼女から想像できないレースがひらひらした可愛らしい

 ピンクのワンピースだった。

 さすがに祐一も圧倒されたのか、言葉が止まってしまうほどの衝撃を受けたらしい。

 「あの、どうでしょうか?」

 「あ、あ、ああ、その似合っているんじゃないかな・・・」

 「そうですか、祐一さんにそう言って貰えてとても嬉しいです」

 今度は更に頬を染めることまで追加した微笑みを惜しげもなく祐一に見せつけていた。

 むむっ、やってくれるわね美汐さん。

 もちろんそんなことを見て黙っていられるわけ無い真琴ちゃんは、祐一の腕にしがみついたまま

 美汐さんを横目に文句を言った。

 「なによう祐一っ、真琴にそんなこと言ってくれたこと無かったわよ!」

 「いつも同じ格好のお前に何を言えって言うんだ?」

 「だ、だから〜似合ってるとかぁ・・・」

 「似合っているぞ」

 「棒読みで言われても嬉しくないわよう!」

 「ダメですよ真琴、その格好では祐一さんは喜んでくれませんよ?」

 「あ、あう〜っ」

 どこか勝ち誇ったように微笑んだ美汐さんに真琴ちゃんは悔しそうに唇を噛みしめている。

 「そ、それで今日は何の用だ天野?」

 「はい、実は今日の家庭科の時間にケーキを作ったので宜しかったら召し上がってくれませんか?」

 そう言っておずおずと差し出した箱は綺麗にラッピングまでされていた。

 「ま、真琴も作ったんだからっ」

 こちらはお皿にラップが掛けてあるだけで、それがケーキと呼べるかはあたしの口からは言えないわ。

 「残念だな真琴、名雪とあゆに食べて貰え」

 「あう〜っ!!」

 祐一に肩をぽんと叩かれてそう言われたら、真琴ちゃんは泣きながら出ていってしまった。

 「ちょっと言い過ぎ何じゃない、祐一?」

 「ああ、後で謝っておくか・・・」

 「いえ、待ってください祐一さん」

 立ち上がった祐一を美汐さんはにこりと微笑みながら手で制して押し止める。

 「私が行って来ますから任せてくれませんか?」

 「でも、俺の言い方が・・・」

 「もっと真琴の事も考えるべきでした・・・すいません、祐一さん」

 「優しいな、天野は・・・」

 「そんなこと無いですよ」

 あたしはその時確かに見た・・・頬を染めて俯いた美汐さんの唇の箸がわずかに上がったのをっ。

 どうやら少し甘く見ていたようね、かなりの狡猾さを隠し持っていたわね美汐さん?

 そして玄関に向かう美汐さんがすれ違いざまにあたしの耳に囁いた。






 「まだまだこれからですよ、香里さん」






 う〜ん、久々に本気を見せる気になったわ・・・ふふふっ。






 つづく。



 ・・・ちっす、じろ〜です。

 今回は早くも続きが書けましたが・・・あれ? なんか美汐が目立っちゃっているよ。

 予告と違ってしまったけどまああんまり気にしないでおきましょう。

 だって書いていたらどんどん美汐が勝手に動くから・・・ごめんまこぴー(笑)

 次はもうちょっと良いこと有るともうからね・・・たぶん(^^;

 さあ、本気になった我らがかおりんの十八番とは?

 次回、かおりんの愛が止まらない♪第八話「祐一、私生んでもいいの?」(大嘘)

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