Original Works 『Kanon』
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Kanon Short Story
ぞくぞくっ・・・なんか朝から背筋が寒いわ、風邪でも引いたのかしら?
「はやくはやくっ〜祐一〜♪」
「そんなにせかすなよ、名雪」
「だってだって今日は約束した日なんだよ〜」
「わかってるって・・・」
苦笑いしている祐一の腕を両手で掴んで引っ張る名雪は、本当に嬉しそうに喜んでいる。
ま、今日は約束した週末だから仕方がないわね。
「今日は私がんばって朝から作ったんだよ?」
「名雪が一人で?」
「うん、もちろんだよ〜♪」
「なら安心だな・・・」
名雪の自信に満ちあふれた笑顔に、うんうんと頷く祐一にはあたしも賛成だわ。
言っちゃ何だけどあの二人の作った物は・・・止めましょう、食事の前にする話じゃないわね。
「うぐぅ、それってどういう意味なの祐一くん?」
「あうーっ、それって何なのよ〜祐一っ?」
「うん、楽しみだなぁ〜名雪の料理♪」
「うぐぅ、無視しないでよ祐一くん!」
「あうーっ、無視するなぁ〜祐一っ!」
騒いでいる二人を無視して祐一は水瀬家のリビングにと名雪に引っ張られていった。
ふぅ・・・で、この子たちの面倒はあたしが見るのかしら?
「うぐぅ!」
「あうーっ!」
はいはい、残っているのはあたししかいないからそうなるのよのね。
あたしは二人の子供の頭を撫でて諭すように背中を押して、家の中に入っていった。
「ボク、子どもじゃないもん!」
「真琴も子どもじゃな〜い!」
はいはい。
かおりんの愛は止まらない♪ 第四話
Presented by じろ〜
「ど〜んと食べてね、祐一♪」
祐一に食べて貰うためにテーブルに用意された料理の数々に、あたしはちょっとだけ目眩がしたわ。
「な、名雪、この量はいくら何でも多すぎないか?」
さすがに祐一も絶句してしまう・・・だってどう見ても十人前近くは有るわよこれ?
「大丈夫だよ、祐一ならきっと全部食べられると思うよ」
「全然説得力無いんだけどね、名雪?」
「うん、問題ないよ香里〜♪」
駄目ね・・・祐一の事で頭の中のねじが無くなっているわ。
「香里、今すっごくひどいこと考えて無かった?」
「別に」
「う〜、なんか気になるよ〜」
「ほらほら、せっかくの料理が冷めちゃうから食べましょう」
「うん、そうだね〜♪」
やっぱりねじが飛んじゃっているわ、まあ幸せな気分を壊すこともないから食べることにしましょう。
もちろん祐一の隣はあたしが座るんだけど、反対側には名雪がしっかりと陣取っていた。
「うぐぅ、祐一くんの隣に座りたかったのにっ!」
「あう〜っ、名雪ずるいよ〜!」
「はい祐一、これ食べて♪」
「いいって名雪、自分で食べられるから・・・」
二人の抗議を無視して、名雪はニコニコして箸で掴んだ物を祐一に食べさせようとしている。
黙ってみてたけど、ふ〜ん・・・あたしの前で良い度胸しているわね、名雪?
このあたしでさえやったことがないのに・・・。
「いい加減にしなさい、名雪」
「お、お母さん・・・」
「自分のことばかり考えちゃいけません、ね?」
「うん・・・みんな、ごめんなさい」
あたしが言おうとした時、秋子さんが先に言ってしまったけど名雪も素直に謝ったから
角が立たなくて良かったわ。
「ボク、気にしてないからね、名雪さん」
「あうっ、真琴も気にしてないよ」
「ありがとう、二人とも・・・」
「おうっ、料理が冷めちゃうから早く食べような!」
「「「うん」」」
祐一も空気が重くならないように気を遣って明るい声で話しかける。
それからはちょっと騒がしいけど楽しい夕食を味わって過ごすことが出来たわ。
「う〜苦しい〜・・・」
「大丈夫、祐一?」
「まあなんとかな・・・うぐぅ」
「祐一くん、はいお薬・・・」
「すまん、うぐぅはおまえの物だったな、あゆ・・・」
あゆちゃんから貰った薬を飲んで再びソファーの上で横になる祐一の姿はちょっと情けなかった。
せっかく名雪が一生懸命作ったから食べて上げたい気持ちは分かるけどね・・・。
「何笑っているんだよ、香里〜?」
「あら、ごめんなさい・・・だってその格好が可笑しかったからつい・・・」
「ううっ、酷い言いぐさだぁ〜」
「本当だね、香里?」
「な、名雪まで何言ってるのよ・・・」
そんなあたしを無視して名雪は祐一の側に跪くと、ニコッと笑いかけながら祐一に告げた。
「あれが香里の本性なんだよ? やっと分かったんだね、祐一♪」
ちらっと横目であたしを見てから、祐一の胸に顔を付けて甘えだしてしまった。
「ちょ、ちょっと名雪!? 何やってんのよ?」
「うぐぅ、名雪さんずるいよ!」
「あうっ、真琴だってしたいよ〜!」
そんな様子を見ていた二人が、名雪に負けじと祐一の体の上に乗っていった。
どかどかっ。
「ばっ、ばか止めろぉ〜・・・ぐえぇぇ〜っ」
その瞬間、あたしの両手は祐一の上に乗っかっていた子どもたちの首根っこを掴んでつまみ上げた。
「悪い子はどんなことされるか知っているかしら?」
「うぐぅ・・・」
「あう〜・・・」
あたしが優しく微笑んでつまみ上げた二人を交互に見ると、借りてきた猫のようにおとなしくなって
身を縮めて動かなかった。
そのままソファー上に二人をそっと下ろしてもう一度笑いかけてから、あたしは一番大きなドラ猫を掴み上げて
顔を近づけてよりいっそうに微笑んで上げる。
「か、香里・・・その、じょ、冗談だよぉ〜・・・ね?」
「何をそんなに怯えているのかしら、名雪?」
あたしは最高の微笑みで名雪を見つめて上げているのに、そんな目で見られたら傷ついちゃうわ。
「悪い子はどんな事されるか、名雪なら分かっているわよね・・・」
「か、香里・・・」
そしてあたしはソファーの上でおとなしくしている二人に見えるように、それを実行することにした。
夜の住宅街に名雪の悲鳴と小気味言い打撃音が暫く響き渡ったわ・・・。
「ふぅ・・・ちょっと手が痛いわね」
「う〜・・・お尻が痛すぎるよ〜」
赤くなった手を振りながら、うつ伏せになってソファーの上でお尻を押さえている名雪の姿を
一別してから祐一に笑顔で声をかける。
「さあ、そろそろ帰りましょうか祐一?」
「ああ、そうだなぁ・・・」
ん、何おどおどしているのよ? 変な祐一ね・・・。
「一つ聞いて良いか香里?」
「何?」
「今の技はいったいどこで憶えたんだ?」
「小さい頃よく栞にして上げたのを思い出しただけよ・・・」
「そ、そうか・・・」
ホント、栞のお尻は真っ白くて叩きがいが有ったわ・・・ってんんっ、それは昔の話よ。
別にその・・・変な趣味とか無いからね、誤解しないでちょうだい!
「それじゃ失礼します、秋子さん」
「はい、今日は大変だったけどまたいらしてね香里さん」
「う〜祐一だけで十分だお〜・・・」
「ん? もう一回して欲しいの名雪?」
「お、お、おやすみなさいだよ〜!」
だだだだだだだだだだ〜っ。
あたしが微笑みかけたら、そう言ってお尻を隠しながら名雪は自分の部屋にと逃げて行ってしまった。
これで少しは懲りてくれると良いんだけどね・・・まぁ無理でしょうね。
「あゆちゃん、真琴ちゃんもまたね」
「うぐぅ」
「あうっ」
だだだだだだだだだだ〜っ。
名雪と同じように自分たちの部屋に逃げて行ってしまった・・・何を怖がっているのかしら、ねぇ?
「香里、それ以上威嚇するんじゃないって・・・」
「失礼ね、あたしのどこが威嚇しているのよ?」
「今の笑顔、鏡で見てこいよ・・・目が笑って無いんだってばっ!」
あ、あら? そうだったの・・・う〜ん、全然気が付かなかったわ。
「と、とにかく帰りましょう、もう夜も遅いしね」
「そうだな・・・それじゃ失礼します秋子さん」
「ふふっ、お休みなさい祐一さん、香里さん」
何事も無かったような秋子さんの笑顔に見送られて、あたしたちは水瀬家を後にした。
「なあ香里・・・」
「ん?」
「さっきのは焼きもちか?」
「なっ、なによ! 別にそんなんじゃ・・・」
「くくっ、焼きもち焼いた香里も可愛いなぁって♪」
「も、もう祐一っ!」
ぎゅっ。
「んんっ!?」
祐一が道の真ん中でいきなりあたしを抱きしめて唇を奪う。
長いキスの後、あたしを抱きしめたまま祐一がニカッって笑ってあたしを見つめる。
「好きだよ、香里」
「祐一・・・」
今度は本当に微笑んで祐一の首に腕を回すと、あたしから祐一にキスをした。
「あ〜い〜ざ〜わ〜」
「うおっ!?」
「きゃあっ!?」
あたしと祐一は抱き合ったまま驚いて声のした方を見ると、そこに立っていたのは・・・。
「「北川(くん)?」」
なんかもの凄い目つきであたしたちを・・・って違うわね、なんか祐一を見つめているわね。
「相沢・・・俺の気持ちを知ってるくせにそう言う事俺の目の前でやるんだなぁ・・・」
「お、落ち着け北川!」
も、もしかしてこれって!?
あたしは頭の中に浮かんだ考えに体をぶるっと震わせて、祐一を庇うように北川くんの前に立ちふさがった。
「美坂、そこをどいてくれ・・・俺が用があるのは相沢だけだ!」
「だめよ、そんなことさせないわ!」
「どくんだ香里、これは俺と北川の問題だっ」
「いいえ、そんなこと無いわ!」
あたしは断固として祐一の前からどかなかった・・・だってそうでしょ!
「北川くん、祐一が好きなのはあたしだからあなたの気持ちには答えられないのよ!」
「「はぁ!?」」
な、なんか様子がおかしいようだけど・・・?
「ちょっと待て香里、おまえ今何考えていた?」
「な、何って北川くんが祐一の事その・・・好きなんでしょ?」
あたしの答えに、祐一は俯いて頭を押さえながら横に何回も無言のまま振っていた。
「えっ? 違うの?」
北川くんの方も見たら、こっちはなんか俯いたまま体全体を震わせているわ・・・それになんか怖い感じね。
「あ、あらっ?」
ぶちっ。
何かが切れるような音が聞こえたと思ったら、北川くんが血走った目で襲いかかってきた。
「相沢・・・」
「ま、待て話せば解る・・・」
「問答無用だ」
ど、どうしよう? このままじゃ祐一の貞操が・・・ってそうじゃなくてっ!
「あらあら、夜も遅いから騒いでいると近所迷惑になりますよ?」
「あ、秋子さん!?」
相変わらずニコニコしていきなり現れた秋子さんは手に何かを持っていた。
「ちょうど良かったわ・・・これ先ほど作った物なんですけど、どうですか北川さん?」
じ、自信作って・・・うっ、それはあれね。
マイペースで話しかける秋子さんに北川くんも気勢が削がれたのか、何となく手持ちぶたさにしていた。
「えっ?」
「私が作った自信作なんですけど・・・良かったらどうぞ♪」
秋子さんの笑顔と言葉に北川くんもそれとなくその自信作を見つめていた。
「これはカレーですか?」
「あの、お嫌でしたら別に構いませんから・・・」
「いえ! 秋子さんの作った物なら何でも頂かせて貰います!」
北川君は秋子さんの手からカレーらしき物が盛られた皿を掴むと、添えてあったスプーンで
豪快に口の中に放り込み始めた。
その隙に、あたしと祐一は自分たちの部屋に逃げ帰ることに成功したわ。
次の日から一週間ぐらい、学校でも北川くんの姿を見なかったけど・・・多分生きているわよね?
ちなみに北川くんが誰が好きなのか、祐一は口を閉ざして教えてくれなかったわ・・・どうして?
まさか秋子さんって事は無いわよね?
う〜ん・・・まっ、出来る限り応援して上げたいわね、友達としては・・・。
つづく。
どうも、じろ〜です。
遅くなりましたが、なんとか第四話です(^^)
とことん自分の気持ちに気づいて貰えない北川ですが、まあ脇役なのでこんな物でしょう♪
まさか祐一が好きだと思う勘違いなかおりんも可愛いですけどね・・・。
さて、次はもちろん久瀬がこてんこてんな目に遭うのは最早お約束です。
どうやってやられるか? それが一番考えるのが大変です(笑)
やはり必殺技と考えないと駄目ですね・・・たとえば謎ジャムアタックとか(^^;
恋するパワーで祐一との同棲生活を守るかおりんに平和が訪れるのはいつの日か?
次回、かおりんの愛は止まらない♪第五話「できちゃったみたい、祐一・・・」(大嘘)