Original Works 『Kanon』



 Copyright(C)1999 KEY



 Kanon Short Story






 ふぁ〜・・・結局空が明るくなってから眠ることが出来たわ、まったくもうっ!






 「ふぁ〜・・・ん」

 もうお昼だって言うのに、あくびが出て困っちゃうわ・・・あふっ。

 それもこいつの所為ね?

 「どうした香里、眠そうだな?」

 あたしが朝食を兼ねたお昼を用意している側で、のんきにコーヒーを味わっている祐一を睨むが効果がなかった。

 「別に」

 「そうか? 何か睨んでいるから・・・あっ!」

 何かを納得したようにぽんと合いの手を打つ祐一は、あたしを真剣な眼差しで見つめる。

 「ごめん香里、俺が悪かった・・・」

 「祐一・・・」

 「そうだよな・・・俺、香里の事をもっと考えなきゃ駄目なんだよな?」

 「そうよ、解ってくれたの祐一?」

 「ああっ、ちゃんと理解したからな!」

 良かった、やっぱり祐一はあたしの気持ちに気が付いてくれたのね・・・これも愛なのかしら♪

 でも・・・ちょっぴり不安ね。

 「これからはもっと香里を満足させるために一生懸命勉強するって事で、毎日がんばるからな!」

 「えっ?」

 「よ〜し、まずは体力づくりからだな・・・ちょっと走ってくるから〜」

 ばたん。

 その言葉にあたしが一瞬唖然としていたら、祐一はそのまま元気良く外に行ってしまった・・・。

 心の底から何かがこみ上げ得てきてあたしの体を震わせる。

 ぎゅっと拳を握りしめて顔の横まで持ち上げて・・・あたしは消え去った祐一の背中に向かって叫んだ。

 「全然解って無いじゃないのよっー! 祐一のバカ〜!!」

 はぁ・・・。






 かおりんの愛は止まらない♪ 第三話






 Presented by じろ〜






 「いててて・・・」

 「ふん!」

 「何もいきなり殴ることはないだろう、香里〜?」

 「誰が悪いのかしら、祐一?」

 「すまん、俺が悪いです」

 あの後、ランニングから帰ってきた祐一を怒りとちょっぴり愛を込めた拳で出迎えてあげた。

 いきなり殴られた祐一はそのまま玄関でノックアウト、少しすっきりしたわ。

 「本当に解っているのかしら・・・」

 「おう、相沢祐一に三言は無いのが信条だ!」

 手を挙げて宣誓のように胸を張って答える祐一に、あたしはテーブルをだんと叩いてからその顔を見つめる。

 「・・・二言は有るのね?」

 「冗談です、はい」

 あたしの睨みにすごすごと手を下げて小さくなる祐一を見て、大きなため息をついた。

 「どうしてこんなの好きになちゃったのかしら・・・はぁ〜」

 「それはもちろん決まっているじゃないか」

 「なによ?」

 「運命だよ」

 あたしの手をそっと包み込むように握りしめ、真剣な表情であたしを見つめる。

 「そ、そうかしら・・・」

 「当たり前じゃないか、何言っているんだよ香里!」

 「祐一」

 「香里」

 祐一の手があたしの頬に添えるとそのまま引き寄せられるように顔を近づけていく。

 お互いに目を閉じて唇が触れた瞬間・・・。

 ぴんぽ〜ん。

 ごん。

 そのままおでこをぶつけちゃったわ、もうっ誰よ!?

 「いてて〜」

 「いったぁ〜」

 ぴんぽ〜ん、ぴんぽ〜ん・・・ぴぽぴぽぴぽぴんぽ〜ん。

 「もうっ、そんなに鳴らさなくても出るわよ!」

 がちゃ。

 「こんにちわ、祐一お兄ちゃん♪ 香里お姉ちゃん♪」

 「栞?」

 「お、栞じゃないか! 元気か?」

 「はい、お久しぶりです祐一お兄ちゃん♪」

 あたしをずいっと押しのけて祐一の前に立つ栞を見て、とうとう来たわねと心の中で気を引き締めた。






 「今日は何のようなの、栞?」

 冷蔵庫からバニラアイスを出して栞の前に置くと、それを美味しそうに食べ始めたのを眺めながら聞いてみた。

 「・・・えっ、あ、それはもちろん引っ越しのお祝いにです♪」

 「そっか・・・ありがとな栞、お兄ちゃんは嬉しいぞ♪」

 祐一に頭を撫でられて喜んでいる姿は普通なら微笑ましいけど・・・普通ならね。

 あたしの乙女回路・・・違ったわ、恋するハートが危険だと点滅している。

 やはり油断をしたら危ないわね、あなたの思い通りには行かせないわよ・・・栞。

 「ところで栞、いつから祐一のことお兄ちゃんって呼んでいるの?」

 「えっ、だっていつかは祐一さんとお姉ちゃんと結婚したらお兄ちゃんになるんでしょう?」

 「ま、まあね、このまま何もなければね・・・」

 「なんだよ? その何か有るみたいな言い方は?」

 「さあ、何かしらねえ?」

 「う・・・まださっきのこと根に持っているのか?」

 「デリカシーが無いのは今に始まった事じゃ無いけどね・・・」

 「あ〜ごめん、これで許してくれ!」

 ぐいっ。

 ちゅ。

 「なっ!?」

 い、いきなりキスするなんて・・・もう、仕方がないから誤魔化されてあげるわ、ちょっとは感謝してよね、祐一?

 でも、栞が居る前でこんな事したら・・・。

 「もう、お兄ちゃんって強引なんですね」

 「おう、でも香里だけだぞ♪」

 「はぅ〜惚気られちゃいました」

 あら? 栞の反応が何かおかしいような気がするけど・・・う〜ん。

 (ふふふ・・・今だけですよお姉ちゃん、せいぜいいちゃついてください♪)

 「あの、お姉ちゃんにお願いがあるんですけど聞いてくれますぅ?」

 「言っとくけど、変なことは無しだからね、栞?」

 「別に変な事じゃないですよ、その・・・今日泊まっても良いですかお姉ちゃん?」

 「何ですって?」

 「駄目、お姉ちゃん?」

 くっ・・・いきなりそう来るとは直球勝負に出たの、栞?

 「祐一に何もしない?」

 「そんなこと言うお姉ちゃんなんか嫌いです」

 ぷぅ〜とふくれて拗ねる栞の頭にぽんと手を置いて撫でながら祐一が苦笑いしながらあたしを見る。

 「良いじゃないか香里、泊めてあげたって・・・」

 「でも、予備の布団は無いわよ?」

 「俺がソファーで寝るから二人でベッド使えよ」

 「でも、それじゃあ祐一があんまりだわ・・・」

 あたしと祐一が話している側で栞は俯いていたが、顔を上げて祐一を見つめるその目尻に涙が光っていた。

 「あの・・・気を使わせちゃってごめんなさいお兄ちゃん、私お邪魔ですよね・・・」

 そう言って無理に笑った栞の頬を涙が一粒こぼれ落ちた・・・。

 「栞!」

 「あっ・・・」

 祐一は栞をぎゅっと抱きしめてその頭を何回も撫でてあげる、子供をあやすように・・・。

 「邪魔なんかじゃないぞ! 俺だってこんなに可愛い妹が欲しかったんだからな」

 「お、お兄ちゃん・・・ヒック」

 本当なら離れなさいと叫んでしまうような状況なんだけど、あたしは在る一点を見据えたまま二人を見ていた。

 上手くいったと思っているんでしょうね、栞?

 でもね、同じ事を二回もやればいくら何でも解るわよ。

 あたしは静かに二人に近づくと、栞を背中から抱きしめる振りをしてずっと見つめていた所に手を伸ばして

 逃がさないようにしっかりと掴んだ。

 「あっ!?」

 「香里?」

 あたしの行動に祐一は怪訝な表情で、栞はしまったと言う表情で下唇を噛んでいた。

 「この手の中にある物は何かしら?」

 勝ち誇ったようにニンマリと笑うあたしを恨めしそうに栞はジト目で対抗する。

 「さあ、祐一にも見て貰いましょう♪」

 「うぐぅ」

 「セリフが違うわよ、栞?」

 そして諦めたのかあたしが握っている手をゆっくりと開くとそこにある物に注目した。

 「・・・・・・」(祐一)

 「・・・・・・」(あたし)

 「・・・・・・えへっ♪」(栞)

 から〜ん。

 栞の手のひらからゆっくりと落ちた物が床に当たって乾いた音が部屋に響いた。

 芸がないわね栞、今時古いわよ・・・目薬だなんて。






 緊張した空気が一杯の部屋の中であたしたちが固まっている頃、もう一つの部屋でも何か起きているみたいだった。

 ・・・見てないから解らないわよ、まあ秋子さんなら解るかも知れないけどね?

 「いったい今日は何の用ですか〜、久瀬さん?」

 嫌いな人でもニッコリ笑ってお茶を出す佐祐理だが、よく見ると申し訳程度に色が付いている冷めたお湯だった。

 「何の用とは冷たい言い方ですね佐祐理さん、今日はあなたの目を覚まさして上げようかと思ったんですよ」

 「ふぇ〜? 佐祐理は起きていますよ?

 「佐祐理、こいつ馬鹿?」

 「し、失敬な!」

 「あはは〜、本当のことを言っては駄目ですよ舞?」

 「はちみつクマさん」

 あっさり佐祐理に肯定されてがくっと椅子から落ちそうになった久瀬は、なんとか立ち直ると改めて話し出した。

 「そ、そう言う意味ではなくてつまり・・・」

 「はえ〜もしかしてそれって祐一さんの事ですか?」

 「祐一?」

 「そ、そうです! 佐祐理さん、あなたは相沢に騙されているんです!!」

 ここぞとばかりに久瀬は祐一に対する周りの評判とか素行の事とか細かく佐祐理に向かって語りだした。

 ちなみに自分が生徒会長時代に佐祐理を仲間に引き入れるために汚いことをしたのをすっかり忘れていた。

 しかしその間、佐祐理は何をしていたかと言うと舞と話をしていて久瀬の言葉は全部聞き流していた。

 十数分後、全部話し終えたのか荒い息をしていた久瀬はすっかり冷たくなった色の付いたお湯を一気に飲むと

 佐祐理を熱い目で見つめた。

 「解って貰えましたか佐祐理さん?」

 両手を合わせて佐祐理はニッコリと微笑み、舞に向かって自分の気持ちを語った。

 「あはは〜舞、もう卒業したから遠慮しないでやっちゃっていいですよ〜」

 「はちみつクマさん」

 ちゃきん!

 「なっ!?」

 どこからともなく取り出して久瀬に突き付けられた剣は、磨き込まれてキラリと煌めいた。

 「あれだけ祐一さん悪口を言ったら佐祐理でも怒りますよ? しかも佐祐理よりもっともっと祐一さんが

 大好きな舞の目の前でだなんて・・・」

 「えっ?」

 しゅっ!

 舞がいきなり剣を横凪に払ったすぐ後に、久瀬の頭のてっぺんはカッパのように見事に毛が無くなっていた。

 「ほ、ほわぁっ!?」

 驚いた久瀬は仰け反ったらそのまま後ろのひっくり返って後頭部をしたたかに打ち付けて気絶してしまった。

 「はえ〜気絶しちゃいましたね〜・・・どうしましょうか舞?」

 さりげなく足で久瀬の顔面を踏んづけている佐祐理が聞くと、舞は久瀬の足を持って玄関に引きずり出した。

 「捨ててくる」

 「ありがとう舞、明日は生ゴミの日だからちょうど良かったです〜」

 そうして舞が久瀬を捨てに行っている時、佐祐理は久瀬に出した湯飲みを熱湯の中に入れて煮沸消毒をしていた。

 なんだかんだ言っても久世自身も佐祐理にとことん嫌われているとまったく気がつかないのも不幸だった。

 「あ、そうだ! お塩撒いておきましょう〜」

 ぱっぱっと玄関で味塩を振っている佐祐理を玄関を入ってきた舞が不思議そうに首を捻っていた。

 「何している、佐祐理?」

 「あ〜これはですね、お塩で清めるって意味があるんですよ〜」

 「納得」

 「舞もやってみますか?」

 「はちみつクマさん」

 暫く玄関にしゃかしゃかと楽しそうに味塩を振る音が響き渡っていた。







 あら? もう終わったみたいね・・・ってあたしに解るわけないわよ。

 結局あれからどうなったかと言うと、祐一は栞の肩を押して回れ右させると背中を押して外に連れ出して

 あたしと同じようにニッコリと栞に笑いかけた。

 「じゃあな栞、気をつけて帰れよ」

 ばたん。

 「そんなことばらすお姉ちゃんなんてだいきっらいですぅ〜!」

 たったったったったったっ。

 ドアの向こうで何やら叫んで栞は元気良く走っていってしまった・・・本当に元気になったわね栞、くすっ。

 「香里・・・何時から気がついていた?」

 「決まっているじゃない、最初からよ」

 「何で?」

 「この間同じ手を見せて貰ったからよ」

 「納得」

 はぁ〜とため息をついてがっくりと肩を落とした祐一にあたしは気遣うように軽く肩を叩いた。






 「う〜ん・・・はっ? ここは? 確か佐祐理さんの所で・・・あれ? 何で縛られているんだ?」

 「そこにいるのは元生徒会長の久瀬じゃないか?」

 「お、おまえはたしか相沢の親友の北川だな?」

 「誰が親友なもんか! こんな所に段ボールと一緒に捨てやがってーっ!!」

 「ひょっとしておまえも相沢が・・・?」

 「そう言うおまえも相沢が・・・?」

 ニヤリ。

 ニヤリ。

 「「同志!!」」

 ゴミ捨て場で出会った二人は己の野心のため、ここに相沢排除同盟を結成した。






 そしてこれから起きるこの二人のあの手この手の妨害に悩まされる事を、あたしと祐一はまだ知る由もなかった。






 つづく。






 どうも、じろ〜です。

 何かかおりん第三話にしてはらぶらぶ度低すぎましたね(笑)

 佐祐理を我が物にするため、香里を我が物にするために雑魚キャラが何やら怪しい同盟を結成しました。

 しかし哀れなことに一人はまったく相手にされていない、もう一人は全然自分の気持ちに気がついて貰えない。

 虚しい戦いと気がつかないお間抜けな久瀬くんと北川くんです。

 これで祐一を守るために戦う相手が増えた我らがかおりん!

 果たして祐一の貞操は? そして命は?

 第二部始まって早くも窮地に追い込まれたかおりんに、秋子さんからちょっと危険な救いの手が(爆)

 次回、かおりんの愛は止まらない♪ 第四話「これがあたしのスーパーモード」(大嘘)

☆感想はこちらまで☆

お名前:

メールアドレス:

ホームページ:(お持ちであれば)

感想対象SS:(変更せず送信して下さい)

メッセージ:



 じろ〜さんのホームページはこちらへ

 第二話に戻る    第四話に進む

 メニューに戻る