Original Works 『Kanon』



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 Kanon Short Story






 やっと荷物を運び終えた部屋の中は、まだちょっとだけしっくりきていない。






 「う〜」

 朝からずっと唸りっぱなしでべそをかいている名雪は・・・なんか可愛かった。

 「ほらほら、名雪の好きなイチゴジャムが入った紅茶を煎れたからこっちに来なさいよ」

 「う〜イチゴジャム・・・そ、そんなので買収されないよ!」

 頭に埃避けに布巾をしている名雪は、部屋の隅からジト目であたしを睨んでプイッと横を向いて拗ねてしまう。

 「そう、ならいいわ・・・あゆちゃんと真琴ちゃんはどうする?」

 片づけているのか遊んでいるのか解らない子供たち・・・違ったわ、あゆちゃんと真琴ちゃんに声を掛ける。

 「ボク甘いの好きだから飲むよ」

 「あう〜真琴もちょうだい!」

 「う、うらぎりものだよ、二人とも〜」

 そんな名雪の呟きもお菓子と紅茶を味わっている二人には聞こえていないようね。

 「ああ、遠慮しないで名雪の分も食べちゃっていいわよ」

 「か、香里〜」

 「何? どうかしたの名雪?」

 その声に振り返ったあたしのすぐ目の前に涙を一杯溜めた名雪が唇を噛んでいた。

 「わ、私も・・・その、ちょっとだけ食べてみようかなっと・・・」

 「ふぅ・・・最初から素直になれば良かったのにね、残念だわ」

 「えっ?」

 あたしはクスッと笑って後ろに顔を向けてテーブルの方を見なさいと仕草で名雪に教えて上げる。

 そこには・・・。

 「うっうっ、ひどいよ二人とも〜全部食べちゃうなんて!」

 「うぐぅ!? の、のどに・・・うぐぅ」

 「あうっ!? く、くるしい〜・・・あうっ」

 その叫びに驚いてお菓子を咽に詰まらせている彼女たちに、名雪は入れ立ての紅茶を差し出した。

 「うぐぅ!! あ、あついよー!」

 「あうっ!! あ、あっついよう!」

 慌てていた二人は思いっきりのカップの中身を飲み干してしまい、熱さの所為で床の上で転がっている。

 名雪にしては意外に意地悪ね・・・あたしも気を付けないと明日は我が身になりかねないわね。






 かおりんの愛は止まらない♪ 第二話






 Presented by じろ〜






 「何やってたんだ、おまえら?」

 自分の部屋から細かい物を運んできた祐一が部屋の中で転がっているあゆちゃんと真琴ちゃん、それとテーブルで

 ご機嫌な様子でロシアン紅茶を飲んでいる名雪を見てため息混じりに呟いた。

 「名雪が二人にあっつい紅茶を飲ませたのよ」

 「そうなのか?」

 あゆちゃんと真琴ちゃんの側にしゃがんで、祐一は二人の顔を覗き込んだ。

 「うぐぅ・・・」

 「あう〜・・・」

 二人は喋ることが出来ないようで頭をぶんぶんと振って祐一にアピールをしていた。

 「ちょっとした間違いだよ」

 「ちょっとした?」

 「そうだよ♪」

 美味しそうにイチゴジャムがたっぷり入った紅茶を味わって飲んでいる名雪の姿からは、とても済まなさそうに

 感じることはできなかった。

 「そんなことより祐一、昨日の約束忘れていないよね?」

 「約束って・・・なんだっけ?」

 「う〜もう忘れるなんて極悪だよ、祐一!」

 「冗談だ、覚えているぞ名雪」

 「ああ、あれね・・・まぁいいけどね」

 「悪いな香里、秋子さんからもお願いされたし・・・」

 昨日の夜、名雪が子供みたいに駄々を捏ねたらしくて週末には一緒に食事をすると言う条件で名雪を何とか

 納得させたと祐一から朝聞かされたわ。

 まあ、祐一の両親が日本にいないから秋子さんが保護者になっているのでまだまだ未成年のあたしたちとしては

 秋子さんの意見を尊重する事で了承したのよ。

 あたしとしてもそれぐらいは構わないと思ったのも事実だけどね。

 だって・・・これからは毎日、祐一と二人っきりで暮らしていくんだから・・・ね?






 「よおっ! 相沢、手伝いに来たぜ」

 「おうっ、北川じゃないか・・・ってもう遅いって」

 「そうか、それは残念」

 「おまえ・・・全然済まなさそうじゃないぞ、その笑顔は?」

 「気のせいだよ、相沢」

 相変わらずの悪友の二人を見たあたしは思わず笑ってしまった、本当に面白い人ね北川くんって。

 「う〜ん・・・美坂も嬉しそうだな?」

 「まあね♪」

 「お? 美坂も言うようになったなぁ〜」

 「それはあれよ、朱に交われば何とやらってね?」

 「交わる・・・」

 あたしの台詞に北川くんは考えるような仕草をした後、祐一に向かってぼそっと呟いた。

 「相沢・・・」

 「なんだ北川?」

 「すけべ」

 「・・・」

 がこっ。

 あ、久しぶりに見たわ祐一の幻の右・・・でも良いの? 北川くん気絶しちゃったわよ。

 「舞?」

 祐一の呼びかけに隣の部屋にいた舞さんがひょこっと顔を出した、でもなぜ頭にウサギの耳を付けているのかしら?

 「呼んだ祐一?」

 「これもゴミと一緒に捨ててきてくれ」

 「はちみつクマさん」

 片手に縛った段ボール、もう片方で鼻血を出して気絶している北川くんの足を引きずって外に出ていってしまう。

 「いいの? 北川くん鼻血出してたわよ・・・」

 「そう言う香里も全然止めなかったじゃないか?」

 「だって・・・せっかくの新居を鼻血で汚されるなんて嫌じゃない?」

 「はぁ〜」

 「何よそのため息は?」

 祐一はあたしを手で制して『泣くなよ北川』とか呟いて椅子に座ってしまった・・・ふぅ、変な祐一。

 ともあれもう一つカップを用意すると、祐一のためにコーヒーを煎れることにした。






 「ねえ香里?」

 「ん? なに名雪?」

 「あのね・・・その、つまり・・・う〜」

 「なによ、はっきりと言いなさいよ名雪?」

 名雪は耳まで赤くなった顔であたしの顔をちらちらと見ながら何回も頷いてから話し出した。

 「あのね・・・祐一を襲ったら嫌だよ!」

 「はぁ?」

 「だ、だから祐一の事襲ったら嫌だよって言ったの・・・」

 「・・・」

 「香里?」

 がこっ。

 「☆×*!♪+?ーっ!?」

 脳天を押さえた名雪があたしの足下で声も出せずにごろごろと転がり回っている。

 祐一直伝の名雪の頭を殴る為の必殺技が何の躊躇もなく流れるような動作で綺麗に決まった。

 なんかこれって癖になりそうなぐらい気持ちよかったわ、うん。

 「名雪・・・それって普通はあたしが襲われると思うのが普通じゃないのかしら?」

 「う〜・・・」

 あまりの痛さの為か唸ることが精一杯の名雪は、涙目になってあたしの事を睨み返した。

 「おい名雪、安心しろ」

 「う〜?」

 祐一が跪いて名雪の肩にぽんと手を置いて淡々と話し出した。

 「おまえが心配する事は無い・・・何と言ってもすでに俺は襲われたからな♪」

 「うーっ!?」

 「うぐぅ!?」

 「あうーっ!?」

 「ちょ、ちょっと祐一!? 変な事言わないでよ!!」

 「どこか変だったか、香里?」

 ニヤニヤしてあたしの顔を見つめる祐一が少しだけ憎らしく思ったので、ついほっぺたを抓り返した。

 「いててて・・・」

 「余計な事を言うとどうなるか知っている、祐一?」

 「ご、ごめんなひゃいあおりさま〜」

 「解れば宜しい」

 ま、これぐらいで許してあげましょう・・・で、こっちはどうしようかしら?

 振り返ったあたしの前にいた名雪たちは何やらぶつぶつ呟いている。

 「祐一、私もう笑えないよ・・・」

 「もう遅かったんだね祐一くん・・・」

 「あう〜祐一のすけべー!!」

 そして三者三様にそのまま外に出ていってしまった・・・まあ帰ってくれたから良いわね。

 「なあ香里・・・」

 「ん、なに祐一?」

 「何か性格変わった気がするんだげどなぁ・・・」

 「そうね・・・きっと誰かさんの所為ね、祐一?」

 「へいへい」






 二人っきりでお茶を飲んでくつろいで、祐一と話す。

 それがとっても嬉しくってあたしは終始笑顔で祐一の顔を見つめていた。

 ふと、会話の途中で不意に言葉が途切れて祐一と見つめ合う。

 「香里」

 「あ・・・」

 祐一の顔が近づいてくるのに合わせて、あたしも瞼を閉じていく・・・。

 そして祐一の唇があたしの唇に触れようとしたその時、何故か強烈な視線を感じて思わず目を開けて

 そちらの方を見た。

 「あはは〜」

 「・・・」

 そこには・・・まだ残っていた佐祐理さんと舞さんが顔を赤くしてあたしたちを見つめていた。

 「あ、あの佐祐理たちに遠慮しないでどうぞ〜」

 「・・・」

 ごん!

 思わず目を閉じてキスを待つ間抜けな祐一の顔を思いっきりテーブルに押しつけてしまった。

 「ぐあっ!」

 「あ、あらごめんなさい祐一!?」

 「な、何でいきなりこうなるんだ香里〜?」

 「あ、あはっ、ちょっとした間違いよ祐一・・・」

 「間違い〜?」

 ちょっと涙目で睨んでくる祐一に、引きつった笑顔であたしは誤魔化そうとしたが無理だった、はぁ〜。

 「そ、それじゃ佐祐理たちは失礼しますね〜」

 「祐一、また明日・・・」

 そう言って佐祐理さんたちは足早にいなくなってしまった・・・う、空気が重いわ。

 「香里・・・」

 「な、なにかしら祐一?」

 祐一が怖いぐらいの笑顔であたしににじり寄ってくる・・・この雰囲気はなんか拙いわ。

 「みんなの前でキスしたことも在るのになんで恥ずかしがるんだよ?」

 「そ、それはその・・・そう、あれよ!」

 「あれ?」

 「こ、恋する乙女の心は複雑なのよ」

 「ふ〜んそう言う物なのか・・・」

 「そ、そうよ」

 ちょっと考え込む祐一の雰囲気が変わったのであたしは軽くため息を付いて気を抜いた。

 けど、それは間違いだったと思い知らされる事の始まりだとは気が付くのが遅かった

 「それじゃ恋する男の気持ちも解るよなぁ?」

 「へっ?」

 ニヤリと祐一が笑うけどその目が異様に輝いていた。

 「今日は俺たちの同棲記念だから・・・」

 「ゆ、祐一?」






 「今夜は朝まで付き合って貰うからな〜!」






 「あ〜ん、許してぇ〜祐一!」






 こうして祐一との同棲初日の夜は過ぎていった・・・はぁ、これからどうなる事かちょっぴり不安だわ。






 つづく。






 どうも、じろ〜です。

 遅くなりましたが何とか第二話が出来ました。

 次はKanonの中でも嫌われ度一の久瀬が登場予定です。

 北川同様やられメカと同じ扱いは確実です、もしくは下っ端の戦闘員かな?

 さて、同棲初日かららぶらぶ度が高い二人に第一部で影が薄かった栞の巻き返しが始まります。

 怒濤の「お兄ちゃん」攻撃に祐一のハートはどきどきが止まらない(笑)

 義妹を装って近づいてくる栞に、われらがかおりんはどうするのか?

 次回、かおりんの愛は止まらない♪第三話「強襲!阻止限界点」(大嘘)

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