Original Works 『Kanon』



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 Kanon Short Story






 今日は新しい生活が始まる大切な日・・・そうあたしと祐一が一緒に住む事になった初めての日。






 「う〜」

 がたがた。

 「これはこっちでいいのか、香里?」

 かちゃかちゃ。

 「あ、もうちょっとこっち・・・そうそこよ」

 どさっ。

 「う〜」

 ざっざっ。

 「これで大きい荷物は終わりだぞ」

 ぱんぱん。

 「ご苦労様、今お茶でも入れるわ」

 がちゃ。

 「う〜」

 「何唸っているんだ、名雪?」

 「何唸っているのよ、名雪?」

 振り返った私と祐一が見た物は、床を雑巾で拭きながらべそをかいている名雪だった。

 「ひどいよ〜二人とも・・・」

 「「何が?」」

 「同棲なんて不潔だよ〜」






 かおりんの愛は止まらない♪ 第一話






 Presented by じろ〜






 あたしと祐一と付き合いだして一年が過ぎ暖かい春がやって来た。

 その間いろんな事が在ったけど、悲しいことは何もなかった。

 どちらかと言うと毎日が楽しく忙しかったと思い出せる。

 それはもちろん名雪たちがあたしの祐一を奪わんとして、あれやこれやと攻撃を仕掛けてきたから。

 あたしも祐一もかなり翻弄させられたけど、よりいっそうあたしたちの絆は強くなった。

 まぁ、もっとも祐一だけかなり遊ばれていたけどね、ふふっ。

 慌ただしい高校生活もあっという間に終わり、無事に卒業したあたしと祐一は揃って同じ大学に進学した。

 もちろん名雪も同じ大学だけど、まさか佐祐理さんと舞さんまで同じ大学とはちょっと驚いちゃったわ。

 二人とも卒業後はアルバイトをしながら一年間過ごして、祐一が卒業するのを待っていたらしい。

 だからこの春から同じ学年なのよね・・・しかしそこまで祐一が好きなんて関心したわ。

 そうそう、ちなみにこの街には大学は一つしかないので必然的にそうなるのよ。

 名雪も佐祐理さんも舞さんも楽しそうにしていたけど、先日の祐一の発言で名雪は愕然としてしまったの。

 それはね、引っ越し前日の水瀬家で午後のお茶をしているときだったわ。






 「あ〜明日は俺の引っ越しだから手伝い頼むな、名雪」






 祐一の言葉に秋子さんはともかく、名雪は一瞬固まって暫く動かなかった。

 それはそうよね・・・これからも側にいると思っていた祐一が、この家から居なくなっちゃうんだから。

 「どっ、どっ、どう言うことなの、祐一!?」

 我に返った名雪はテーブルに両手をついて身を乗り出すと、もの凄い迫力で祐一を問いつめる。

 「うぐぅ、ボクも聞いてないよ祐一くん!」

 「あうーっ、あたしも聞いてないわよ祐一!」

 同じように居間でTVゲームをしていたうぐぅとあう〜・・・違ったわ、あゆちゃんと真琴ちゃんが騒ぎ出た。

 「あ、あれ? 何も言ってないんですか秋子さん?」

 「すいません祐一さん、ついうっかりしていました」

 「ひ、ひどいよ〜お母さん!」

 「うぐぅ!」

 「あうーっ!」

 「ごめんなさい、名雪、あゆちゃん、真琴」

 頭を下げる秋子さんに名雪は腰を落とすと椅子に座ってから改めて祐一に尋ねた。

 「そ、それで祐一はどこに引っ越すの?」

 「ああ、それなんだけどな・・・ここから歩いて一分の所だ」

 「うにゅ?」

 「うぐぅ?」

 「あう〜?」

 「祐一、案内してあげたら?」

 「そうだな・・・その方がいいか」

 残っていたお茶を飲み干して席を立つと、みんなで引っ越し先を見に行くことにした。

 「う〜」

 「うぐぅ」

 「あう〜」

 あたしたちの後ろに着いて来ている名雪たちが悔しそうに唸っているけど、そのまま家を出ると道路を挟んで

 向かいに建っている新築のアパートに来た。

 四世帯ほどの小さな物だけどデザインは可愛くて結構気に入っている。

 ちなみに名前はメゾン・ド・ジャム・・・これって大家が誰だかすぐに解っちゃうわね。

 「三人とも、ここがそうだ」

 祐一が指さす建物を見ながら、名雪達はそれぞれ呟く。

 「いつの間にこんなの出来たの?」

 「全然気づかなかったよう」

 「あう? 名前がジャムって書いてあるよ?」

 「ああ、それはな・・・大家さんは秋子さんだからだ」

 「はい、私が大家さんです♪」

 にこっと笑う秋子さんを名雪たちは恨めしそうにジト目になって見つめていた。






 そうそう、何でここまで秋子さんがあたしたちに協力的なのか祐一に聞いてみた事が在った。

 「ねえ祐一・・・」

 「んあ? 何だ香里?」

 「どうして秋子さんはあたしたちに・・・ううん、なぜ祐一に協力してくれるの?」

 「あ〜その事か・・・まあいろいろあってなぁ〜」

 苦笑いしながらいきなり目をそらして横を向いた祐一のほっぺたを抓る。

 「いひゃいですあおりさん」

 「正直に話しなさい、でないともうキスさせてあげないわよ?」

 「実は約束をしたんだ、秋子さんと・・・」

 相変わらず欲望に忠実な祐一はあたしの質問に対して素直に話す、まったくしょうがない奴。

 「約束?」

 「ああ、香里も知っての通り誰も食べない物が水瀬家にはあるだろう・・・」

 「ま、まさか!?」

 あたしの予想を裏切らずに祐一が口にしたのは間違いなくあれだった。

 「そうっ、あの謎ジャムだ! あれを食べるという条件で秋子さんが協力してくれるんだ」

 「なんて無茶な事するの・・・でも死なないでね」

 「ああ、香里を悲しませたくないからな!」

 「祐一・・・」

 「香里・・・」

 キスをしてそのまま抱きしめ合ってベッドに押し倒され・・・ってちょっと!?

 「ちょっと祐一! 昼間っから止めてよね?」

 「そうか、俺は一向にかまわんのだが・・・」

 「あーん、放しなさいよ祐一!」

 もがくあたしを放さないで祐一は再びキスであたしの口を塞ぐ。

 「んんっ・・・や・・・んぐっ・・・ぁあ・・・」

 段々とあたしの頭の中が白く霞がかかるような感じになり体に力が入らなくなってきた。

 「愛してるぜ、香里」

 「バカ・・・」

 それで結局その日は昼間っから夜まで・・・ってそれはいいのよ!

 とにかく! 秋子さんのジャムをこれから食べ続けると言う荒技に出た祐一が生き延びられるように、

 あたしは祈りながら美味しい物を食べさせて上げようと決心した。

 それにそんなにまでしてあたしの事好きだなんて嬉しい気持ちで一杯だったわ。






 そうそう、話を戻すわよ。

 まだぶつぶつ言いながら秋子さんを恨めしそうに見ている名雪たちを引き連れて引っ越す部屋の中に入った。

 部屋の間取りは2DK、二人だけで住むなら充分な広さが確保されていた。

 キッチンは流石に秋子さんの趣味なのか豪華でそれでいて使いやすそうだった、内装とかも良いデザインだわ。

 それなのに・・・なぜここだけもの凄く違和感を感じるのかしら?

 「凄く広いよ〜ここのお風呂」

 「わあっ! 大きなお風呂♪」

 「あう〜、家と同じぐらい」

 何でこんなに広いのよ? たっぷり一部屋分有るわよ・・・これなら3DKに出来るんじゃないかしら?

 「どうですか、祐一さん?」

 「ベリーグッド! ワンダフル! OKです!」

 秋子さんと祐一はニコッと笑い合いながらいつもの様にピースサインと親指を立てたOKのサインで確認していた。

 「祐一?」

 「ん、なんだ香里?」

 「ほかに何をしたか言うなら今の内よ?」

 あたしはニコニコとしながらも指が白くなるほど拳に力を込めて祐一を見つめた。

 「あ、あと一つ・・・だけです、はい」

 「何?」

 「各部屋の壁を防音壁にしました、はい」

 「そう・・・解ったわ」

 あたしが力を抜いて拳を解くと祐一の顔が安心した表情に変わった・・・しょうがないわね。

 まあ、確かにそれだけは良かったかもしれないわ・・・だってねえ、その解るでしょ?

 色々あるのよ、同棲するってね。

 ぴんぽ〜ん。

 「は〜い」

 突然チャイムがなったのであたしは玄関に行ってドアを開けるとそこには笑顔の女の子が二人いた。

 「あはは〜引っ越しの挨拶に来ました♪」

 「祐一、お蕎麦食べる」

 佐祐理さんと舞さんだった、しかも舞さんの手には引っ越しそばが山盛りになって載っかっていた。

 「おおっ、佐祐理さんと舞は今日が引っ越しだったのか?」

 「はい、それでお蕎麦を作っていたのですが嬉しくってつい沢山作ってしまいました〜」

 「佐祐理のお蕎麦、美味しい」

 「いきなり食うなっ!」

 「けち」

 相変わらず漫才コンビの様なボケと突っ込みをしている祐一と舞さんをあはは〜と横目で見ながら、

 佐祐理さんはあたし達に話しかけた。

 「せっかくですから皆さんで頂きませんか?」

 「そうですね、ちょっと早いですが夕食にしましょう♪」

 結局、秋子さんの一言でその日の夕食はざる蕎麦になったわ。






 明日の引っ越しのために早めに家に帰ってきたあたしは、自分の部屋で持っていく物を確認していた。

 「これでよし、あと足りない物は買うしかないわね」

 まあほとんどが服ばっかりだけど、女の子だからこれぐらい当たり前よね?

 こんこん。

 「はい?」

 「お姉ちゃん、いい?」

 「いいわよ、準備は終わったから」

 部屋に入ってきた栞はベッドに座ると黙ったまま俯いている。

 「何か話があるんでしょう、栞?」

 声を掛けると栞は顔を上げてあたしの事を見つめた。

 「寂しいです、せっかく元気になったのにお姉ちゃんがいなくなるなんて・・・」

 「栞・・・」

 「でも、それって私の我が侭ですね・・・ごめんなさい」

 また俯いてしまった栞の膝の上に涙の滴がこぼれ落ちた。

 「ごめんね、悪いお姉ちゃんで・・・」

 大事な妹を泣かしてしまったあたしは、栞の横に座るとそっとその小さい肩を支えた。

 その時、栞の手から何かが床に転がり落ちた。

 「あっ、それは・・・」

 あたしは栞よりも早くそれを拾い上げると・・・。

 「ふふっ」

 「あはは・・・」

 しっかりと肩を掴んで立ち上がらせると、そのまま部屋の外に連れ出してからさっき拾った物を

 栞に手渡してニッコリと微笑んだ。

 「お休みなさい栞、お姉ちゃん必ず祐一と幸せになるから♪」

 そう言ってドアを閉めた。






 「失敗です、はぅ〜」






 つづく。





 お待たせしました、第二部「かおりんの愛は止まらない♪」同棲編スタートです。

 今回は引っ越し前日の部分からです。

 さあ大学生になった香里と祐一はよりアダルトな関係(笑)になるのですが、

 18禁な表現は極力避けるように努力する次第であります・・・多分(爆)

 さて、べそかきながらも引っ越しの手伝いをする名雪がいい味だしている所に邪魔者が来ます。

 香里を奪おうとする北川、佐祐理さんを狙う久瀬と今度は香里もピンチになりそうな予感?

 果たして二人の愛は彼らを退けることができるか?

 ラブストーリーのはずがラブコメディに変わりつつあるこのシリーズ♪ 明日はどっちだ(笑)

 追伸:香里の一人称で「私」を「あたし」に変更しました、これはゲーム中だとこう言ってました。

 じろ〜のミスです、あとは栞が香里の事を「お姉さん」から「お姉ちゃん」にこれも修正しました。

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