Original Works AIR



 Copyright(C)2000 KEY



 AIR Short Story






 つんつん。

 「ぴこ〜」

 「ふむ、何とも面白い生き物じゃな」

 往人の足下で無いに等しい尻尾を振っているポテトを神奈は物珍しそう突っついている。

 「妖怪だ」

 「ゆ、往人さん」

 「ぴこ?」

 「俺は認めん、お前が犬だと認めたら世間の犬たちに申し訳ない」

 「ぴこぴこ〜♪」

 「なつくな!」

 「ぴっこぴこ♪」

 「踊るな!」

 ぎゅむ。

 「ぴ〜こ〜」

 「こらっ往人、小さな者を虐めるなっ」

 踏んづけた往人の足の下からポテトを取り上げると、神奈はきっと睨む。

 「ふん、いつか解剖して正体を見極めてやる」

 「解剖とは楽しそうな話しをしているな」

 「誰だ……ってなんだ聖か」

 「なんだとはご挨拶だな国崎君、挨拶の仕方も忘れてしまったのか……」

 「いえ、これは聖先生、本日はお日柄も良く良い天気ですね」

 何下にちらつかせる聖のメスに、往人は脊髄反射並に素早く卑屈な態度に変わった。

 「往人、お主……」

 「往人さん……」

 「言うな、逆らったら今晩のラーメンセットが食えなくなる」

 「賢明だな、いつも殊勝な態度なら可愛げも有るんだが」

 「可愛いと言われても嬉しくないぞ」

 「だな」

 「くっ……所でなんでここに聖がいるんだ?」

 「暑さで壊れたか? ここは私の家の前だぞ」

 「ぬうっ」

 確かにここは以前人形劇をやっていた霧島診療所の前であったが、ポテトのせいで気が付いていなかった

 往人である。

 「まあ立ち話もなんだから、お茶の一杯でも出してやろう」

 「おうっ、俺たちは客だから上等なのを頼むぞ」

 「何? 私が開発した新薬を飲みたいのか、良い心がけだな」

 「いえ、出がらしで良いです、はい」

 「往人」

 「往人さん」

 呆れた様な二人の視線から往人は逃れる様に、診療所の中に早足で入っていった。






 The 1000th Summer Story



 Re−Birth



 Presented by じろ〜






 第七話「魔法」






 外と違ってクーラーのお陰で涼しい診察室の中で、四人は熱いお茶を飲んでいた。

 「あ、美味しい」

 「うむっ、なかなかのお茶だ」

 「…………」

 「ん、どうした国崎君? 口に合わないか?」

 往人は目の前に置かれた湯気が立っている緑色のお茶を見て無言になっていた。

 「合う合わないの問題以前に、なんで俺だけビーカーなんだ?」

 「湯飲みが足りないからな」

 「しかも熱くて持てんじゃないか」

 「ふむ、ならこれを使え」

 そう言いながら引き出しの中から取り出した半透明の細い筒を、おもむろにお茶の中に入れた。

 「ビーカーにストローでお茶を飲むとは初めてだぞ」

 「そうか、それはいい経験をしたな、役に立つ事もあるだろう」

 「あるわけないだろう、ちゅー……ってあっちぃ〜」

 「あっはっはっ〜」

 「だ、大丈夫往人さん?」

 「くうっ、観鈴は優しいなぁ……それに引き替え」

 「なんじゃ?」

 喉を押さえて観鈴の横で笑っている神奈を睨むと、ふっと鼻で笑い返しぼそっと呟く。

 「そんなんだから胸が薄いんだ」

 「うが〜っ、胸になんの繋がりがある!」

 「言ってみただけだ、あほ」

 「あ、あほだと?」

 「ふ、二人とも……」

 余談だが、テレビのお陰で神奈もかなり現在の言葉を覚えていたが、裏葉の予想通り風流な言葉より

 俗っぽい物言いだけが増えていった。

 そんな三人のやりとりを見ていた聖は、お茶を一口飲んでから話す。

 「最近見ないと思ったら、漫才トリオを結成したのか?」

 「「誰が!?」」

 「にははは……はぁ」

 「まあ佳乃にも見せてやってくれ」

 「だから違うって……所で佳乃はどうした?」

 「ふっ」

 聖の自嘲気味の疲れた笑いに、往人の背中を忘れかけていた戦慄が駆け抜けた。

 「なんだその笑いは……はっ、まさか!?」

 「勘がいいな国崎君」

 「帰るぞ観鈴、神奈!」

 「えっ?」

 「なんじゃいきなり?」

 「説明は後だ、このままだと……」

 「あ、往人くんだー、久しぶりー」

 「ぐはっ」

 振り返った往人の目の前には、オタマを持ってエプロンを着けた佳乃がニコニコしていた。

 「諦めろ国崎君」

 「謀ったな聖!?」

 「ふっ、呪うなら己の迂闊さを呪うんだな」

 「くそっ、逃げ道は無いのか……」

 勝手に自己完結している往人を呆然と見ていた観鈴と神奈に、佳乃が声を掛ける。

 「えっと、神尾さんだよね? それと……」

 「うん、それとわたしの姉妹で神奈ちゃん」

 「神奈と言う、よろしく」

 「うん、よろしく〜」

 「ぴこぴこ♪」

 「あはは、ポテトもよろしくだって」

 「うむ」

 「にはは〜」

 往人と聖の重い雰囲気とは違い、妙に和んでいる三人と一匹だった。






 「さあ召し上がれー」

 聖の誘いに乗った結果、佳乃が用意した昼食と言っている物を目の前にして往人と聖は固まっていた。

 もちろん主に神尾家の料理を作っている観鈴も目の前に並べられた物を見て唖然としていた。

 一人物珍しそうに見ている神奈はどれから手を着けようか迷っていた。

 「ん、どうしたの往人くん、お姉ちゃんも?」

 「あー、いや、そうだ聖、早く食べろ」

 「遠慮する事はないぞ国崎君、まずはお客様の君から食べてくれ」

 「しかし、せっかく妹が作ってくれたんだぞ、姉冥利につきて嬉しいだろう」

 「せっかくだ、君にもその嬉しさを分かち合って貰いたいものだな」

 「いやいや」

 「まーそう言わずに」

 「……二人とも、食べたくないの?」

 「「うっ」」

 二人の不自然極まりないやりとりに、佳乃の目が細くなっていた。

 「まったく、失礼な二人じゃな。よし、なら余が先に頂くとしよう」

 「「あっ」」

 神奈の言葉に声を出した二人だったが、お構いなしに神奈は佳乃の料理を口にした。

 「むぐっ!?」

 箸をくわえたまま段々と顔色が赤から青に変わっていき、神奈の顔から汗がだらだらと流れ始めた。

 ばた。

 「か、神奈ちゃん!!」

 「え、えっ?」

 佳乃は何で倒れたのか訳が解らないと言った顔で、床でのたうち回っている神奈を見ていた。

 「聖、お前の家は料理に毒を盛るのか!?」

 「失礼な事言うな、私はそんな覚えはないぞ」

 「見ろ、現実には一人犠牲になったじゃないか!」

 「知り合いになったばかりだったのに……」

 「大食らいで貧乳で口やかましい奴だったが、非常に残念だ」

 どかっ。

 「うぐぅ!?」

 「だ、誰が大食らい……だ」

 ぜえぜえと荒い息ながらも神奈の繰り出した足は、運悪く往人の股間に命中した。

 悶絶して神奈の横に転がる往人だが、痛みに耐えながら神奈と睨み合い牽制していた。

 「くっ……使い物に……ならなくなったら……どうする?」

 「ぐっ……そんな……事、しらん」

 「おのれ……もしだめなら、責任をとれっ」

 「むうっ……だめならとってやる……ぞ」

 「あれ? 何で二人とも寝ちゃったの?」

 「にはは……はぁ」

 やっぱり食べなくて正解だと思った観鈴は、二人の看病をするからと言って同じ目に遭うのを回避した。

 結局、神奈が気絶で往人が悶絶と言う落ちが付いて、恐怖の昼食は過ぎていった。

 それから二人が目覚めたのは、空が茜色に染まりだした頃だった。

 「……さん、神奈ちゃん? 往人さん?」

 「うっ……」

 「観鈴……あれ?」

 「ふぅ、よかった〜……二人ともずっと寝たまんまだし」

 「何も覚えてないぞ、余はいったい……はがが〜!?」

 「ふっ、お前が忘れても俺は忘れんぞ、いやこの痛みが忘れさせてくれん!」

 「は、はらへ〜、ゆひほ〜!!」

 「ふふふっ、どこまで伸びるか試してやる」

 「はほれ〜」

 ちょっと逝っちゃってる目つきで笑いながら、往人は神奈の口に突っ込んだ指を左右に広げていた。

 「ゆ、往人さん!」

 「止めるな観鈴、今こそ決着をつけるんだからな……」

 このまま神奈の口は大食いしやすい様に広がるかと、往人を止められない観鈴は自分を責めた。

 ひゅっ……とすっ。

 「のわっ!?」

 目の前に飛んできた物を間一髪避けたが、前髪数本を持っていかれた。

 「危ないじゃないか、聖!」

 「ちっ、外したか……」

 「殺す気かっ!」

 「大丈夫、神奈ちゃん?」

 「はうはう〜」

 観鈴の前で口に手を当てて何とか頷いた神奈だが、涙目のまま往人を睨んでいた。

 「小さい女の子を手込めにしようとする奴は問答無用だろう」

 「くそっ、それは誤解だが、いずれ決着をつけてやる」

 「私は今すぐでもかまわんぞ?」

 にやりと笑いながら懐から鈍く光るメスを往人の前にちらつかせる。

 「い、いずれと言ったらいずれだ」

 「ふっ、永遠に来ないな」

 「くっ……」

 一人唇を噛みしめる往人の前に、またしてもエプロン姿の佳乃がやってきた。

 「あ、起きたんだね往人くん、よかったら夕飯も食べていく?」

 「いや、家で待っているからな……帰るぞ観鈴」

 「えっ?」

 素早く返事をするとそう言って後ろも振り返らずに観鈴の手を引いて、ドアを開けて出ていこうとした。

 「こら往人、余を置いていくなっ」

 「お前は遠慮するな、腹一杯食ってこい」

 「まて往人、きさま逃げるのか?」

 「観鈴、ラーメンセット頼むぞ」

 「う、うん」

 「うがーっ、余を無視するなー!」

 「ばいばいー、またねー」

 「ぴこ〜」

 「……上手く逃げたな、国崎君」

 「沢山作ったから一杯食べてね、お姉ちゃん」

 「…………ふっ」

 キッチンに行ってしまった大事な妹の背中を見送りながら、聖は戸棚から胃薬を取り出して多めに飲み込んだ。






 からくも霧島家から脱出を成功させた往人たちであったが、暫くは食事は遠慮したいとそこだけは意見が合っていた。

 「少し思い出したぞ……あれは食べ物か?」

 「言うな、特に聖の前では命がやばいぞ」

 「うむ、それは解っておる」

 「にはは〜、あれはちょっとね……」

 「「ちょっとじゃない」」

 「にはは〜」

 「まあ、口直しに観鈴のラーメンセット期待しているぞ」

 「ふむ、余も食べてみたいぞ」

 「え、そんなにたいした物じゃないけど、でもがんばって作るね」

 「よし、それじゃあ帰るとするか……神奈」

 「なんじゃ?」

 神奈の返事を待たずにその手を取ると、観鈴と同じように握りしめた。

 「な、な、何をする!?」

 「さっきから羨ましそうに観鈴を見ているからな、手を繋ぎたいかと思ったんだが?」

 「そ、それはっ……むう」

 往人の言葉に神奈は見透かされた恥ずかしさか、何も言えずに顔を真っ赤に染めていた。

 「嫌なら離すが?」

 「……………………いい」

 小さな声で呟き上目使いで往人を見ると、微笑む往人の顔から神奈は目を離せなかった。

 それから三人は仲良く手を繋いで、晴子達が待っている家に歩いていく。






 夕日の中、往人の見せた笑顔は神奈の心を魅了していた……そう、まるで魔法の様に。

 観鈴に見せるものと同じ、優しい微笑みに。






 つづく。






 次回、第八話「恋心」


 どうも、ご無沙汰でした(汗)

 さてさて、霧島姉妹に対しては卑屈な往人でしたが、どうやらいい目を見そうな感じです。

 しかし、佳乃の料理は上達が見られないようです。

 犠牲になった聖はともかく、それを食した神奈にエールを送りたいと思っちゃうかな。

 ちなみに神奈に蹴られた往人のあそこがどうなったのかは、もう少し先の話です(笑)

 まあだいじょうぶでしょう。

 余談だけど、ポテトって本当に犬なのか?

☆感想はこちらまで☆

お名前:

メールアドレス:

ホームページ:(お持ちであれば)

感想対象SS:(変更せず送信して下さい)

メッセージ:



 じろ〜さんのホームページはこちらへ

 第六話に戻る    第八話に進む

 戻る