Original Works 『AIR』



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 AIR Short Story






 「あの、こんにちは〜」

 「よ、よろしくたのむ」

 「…………」

 「ん? なんだ遠野?」

 美凪の視線を追っていくと真ん中にいる神奈の顔をきらきらした瞳でうっとり見つめていた。

 「……二人の子供?」

 「にょほーっ、国崎往人の変態ーっ!!」

 がつん。

 「にょが!」

 「誰がだっ!!」

 「に、にははは〜っ」

 「このような男が父上だったら余は自ら命を絶つぞ!」

 叫ぶ往人、真っ赤になって照れる観鈴、そして本当に嫌そうな表情の神奈と三者三様に美凪に向かって

 抗議するが、それも美凪の言葉に無駄と終わる。

 「……息ぴったり」

 「変態、変態、国崎往人のへんたーい!」

 がつん。

 「ひょへっ」

 「やかましい、このっ」

 がすっ。

 「ぐへっ」

 「へへ〜んだ、あっかんべろべろぶー」

 「……みんな仲良し子良し」

 「ど、どこをどう見たらそう言う風に見えるんだ……」

 「大丈夫、往人さん?」

 「ふふん、間抜けな奴よな〜」

 「く、くそっ」

 「……国崎さん」

 「な、なんだ遠野?」

 「……今日は家族でお出かけ?」

 「だから違うと言っただろう!」

 「…………」

 「遠野?」

 「…………残念」

 「そんな残念そうな顔するなよ」

 「むー」

 「何だ観鈴、むくれた顔して?」

 「往人さんの浮気者……」

 「誰が浮気者だ!?」

 「おぬしじゃな、往人」

 「即答するな、ばかちん二号」

 「……浮気者?」

 「遠野、指さすんじゃない!」

 「や〜い、や〜い、国崎往人のうわきもの〜」

 「やかましい、ちるちる!」

 がつん!

 「にょほっ!?」






 The 1000th Summer Story



 Re−Birth



 Presented by じろ〜






 第五話「夕暮れ」






 一通りのスキンシップと呼べる物が終わった往人たちは、まずは自己紹介と言う形で自分の名前を

 教え合うことにした。

 「それじゃ観鈴、おまえから行け」

 「にははっ、えっと神尾観鈴です、よろしく〜」

 「次、貧乳」

 「うが〜っ、いちいち言わなくてもよいわ!」

 「か、神奈ちゃん、往人さんも喧嘩しちゃだめだよ」

 「むっ……すまない観鈴、余の事はか、神奈と呼ぶがいい」

 「ぞんざいな言い方だぞ、勉強不足だな」

 「お、おのれと言う奴は……」

 「も、もうっ、往人さんも変なこと言わないで」

 「観鈴、俺は思ったこと言っただけだぞ?」

 「ラーメンセット作らないから……」

 「すまん、この通りだ観鈴、それだけはっ」

 ラーメンセットに負ける往人をジト目で見ていた観鈴だが、手を合わせて懇願する姿にほっと胸をなで下ろした。

 「それじゃ次は遠野だ」

 「……遠野美凪です、なぎーと呼ぶがいい」

 「な、なぎーってそれを考えたのは遠野か?」

 「……はい」

 「次はみちるだね、みちるはみちるって言うのー、ちるちるでもいいよー」

 「ちるちるもか?」

 「……………………ぽっ」

 「なぎー、ちるちる、ばかちん1号&2号……みんな愛称があるな」

 「わたしばかちんじゃないもん」

 「うが〜っ、余もばかちんではない!」

 抗議している二人を無視してちょっぴり疎外感のようなものを感じている往人に、美凪はぼそって呟く。

 「……あなたは、ゆっきー」

 「なんだそれ?」

 「……国崎さんの愛称」

 「ゆ、ゆっきー……」

 「……お気に入り?」

 「ただの往人でいい」

 往人は自分の心の中で『ゆっきー』と言ってみるが、似合わないので却下した。

 「……………………ちぇー」

 「良いと思うんだけどなぁ……」

 「でくのぼうでじゅうぶんじゃ」

 ごちん、にゅー。

 その言葉を聞いた往人は振り向きざまに観鈴にげんこつを頭に落として、すぐに隣の神奈の口に指を突っ込んで

 手加減無しに引っ張り出した。

 「が、がお……」

 「は、はなへ〜、はにほふる〜」

 「ふっふっふ、あの時見ていた技がこうも役立つとは……さすがご先祖さま、良い技持っているな」

 「は、は、はなへ〜、はける〜」

 「ゆ、往人さん、口が裂けちゃうよー」

 「むぅ、仕方がない、観鈴のお願いなら許してやるか」

 漸く往人から解放された神奈は、往人をジト目で睨んだまま口を賢明に両手でガードした。

 「なんだ、なにか言いたい事があるのか?」

 「…………」

 「んー、聞こえないぞ?」

 と、往人が神奈に近寄ろうとして一歩踏み出した時、神奈の目がきらりと光り一陣の風が舞った。

 どかっ。

 「おぐぅ!?」

 「ゆ、往人さん!?」

 「ふん、ぶいなのじゃ!」

 見事仕返しが決まり勝利宣言よろしくVサインをして得意げになる神奈の前で、往人は膝を地面について蹲った。

 ぽたぽたと脂汗流しながら呻く往人を観鈴は心配そうに声をかけるが、反応はほとんど無い。

 それもその筈である、みちるの場合はみぞおちに綺麗に決まるのだが、神奈の場合は初めてと間合いが近すぎたので

 振り上げた足が往人の股間にいってしまったのである。

 男にしか解らない痛みに耐えている往人に、美凪はポケットをごそごそと探るといつもの白い封筒を差し出した。

 「パチパチパチ…………痛かったで賞」

 そのセリフに往人の意識は闇の彼方に消えていき、力無く地面に横たわった。






 「ねえ往人さん、大丈夫?」

 「暫くほっといてくれ、女にはわからん痛みだ」

 「う、うん」

 気絶したお陰でこんがり日に焼けた往人を、みんなで引きずって駅舎の中に寝かせると四人で遊ぶ事にした。

 「それはなんじゃ?」

 「……シャボン玉」

 「し、しゃ、ぼん玉?」

 「……そっと吹いて」

 「う、うむ……ふ〜」

 ストローの先から言われた通りに息を送ると、その先からきらきらと透明な玉が空に浮かんでいった。

 「きれ〜い……」

 「うむ、こんな綺麗な物は見た事がないぞ」

 自分で作り出したそれは手に取ると割れて消えてしまうが、楽しくて次々とシャボン玉を作り出した。

 初めての割にシャボン玉を綺麗に作れた神奈を見て、みちるはライバル意識が芽生えたのか負けじとシャボン玉を

 作ろうとがんばってストローを口にくわえた。

 「むむ〜…………わっぷ」

 「……みちる、ふぁいとです」

 「うん、みちる負けないぞ〜」

 そして何回もチャレンジして漸く少しだけだけどシャボン玉を作る事に成功したみちるは、飛び跳ねて喜んだ。

 「できたー、できたよー、美凪!」

 「パチパチパチ…………みちる、よくできましたで賞」

 「わー、ありがとう、美凪ー」

 いつもの封筒を貰って喜ぶみちるを、側にいた観鈴と神奈も楽しそうに見つめていたが、ふと神奈は美凪に詰め寄った。

 「美凪……お手玉は得意か?」

 「……お手玉?」

 「うむ、もし出来るのなら余に教えてくれぬか?」

 「…………」

 黙ったまま側にあった鞄からお手玉を取り出すと、神奈の前でゆっくりとお手玉を投げ始めた。

   『むこうのやまで』

   『ぴかぴかするのは なにものだ』

   『かなものだ』

   『きじではないか』

   『はとではないか』

   『おてんとうさまの こがたなだ』

 歌いながら曲に合わせて三つのお手玉を器用に投げる美凪に、神奈はどこか今はいない母を重ねて見ていた。

 似ているわけでは無いのに、どうしても美凪に重なる母の姿に神奈は目が離せなかった。

 「か、神奈ちゃん?」

 「むに、どうしたのー?」

 「…………見せたかった、こんな風に上手に出来る所を母上に見せたかった」

 大きな目からぽろぽろと静かに涙を流す神奈はただ美凪のお手玉を見て立ちつくしていた。

 「神奈ちゃん……」

 後ろに回った観鈴は神奈の悲しみが心に直接伝わって来たので、優しく抱きしめてあげた。

 「あ、あの、元気だして、ね」

 みちるも神奈の頭をそっと撫でて、子供ながら慰めようと励ました。

 ベンチから立ち上がった美凪は、涙に濡れた神奈の顔をそっとハンカチで拭い、その手にお手玉を握らせた。

 「……がんばりましょう」

 「う、うむ、やってみるぞ」

 みんなの前で泣いた事が恥ずかしいのか、慌てたようにお手玉を始めようとした神奈の手を美凪は優しく押さえ、

 その中から一つ残して取り上げると微笑んだ。

 「……まず、ひとつから、ゆっくり」

 「う、うむ」

 美凪に母の姿を重ねたせいか、裏葉と違って神奈は大人しく従い一つだけ投げ始めた。

 もちろん観鈴もみちるも神奈の後ろでがんばれと声をかけて応援した。

 美凪の歌に合わせて、神奈が投げるお手玉が夕焼けに染まった空に何回も止まることなく投げ込まれた。






 「で、あんたはこんがり肌を焼いてきただけだと、居候?」

 「好きで焼いたんじゃない……男の事情だ」

 「なんやそら?」

 良い色に焼けた肌を晴子に指摘され突っ込まれたが、ポケットから白い封筒を取り出して掲げた。

 「見ろ! ちゃんと手に入れてきたぞ、このお米券を!」

 「一枚だけかいな……神奈ちゃんに負けとるな〜」

 「な、なにぃ!?」

 すると神奈が往人の前で誇らしげにささやかな胸を張って、扇子のように封筒を広げて見せた。

 「ふふん、余は五枚も手に入れたぞ? 余の勝ちだな、いそうろう!」

 「くっ、遠野のやつ……」

 「ごめん往人さん、わたしも……」

 神奈に抜かれたショックを隠せない往人の前で、すまなそーに出した観鈴の手にも封筒が三枚あった。

 「……………………裏切り者」

 「が、がお……」

 「裏切り者」

 「ゆ、往人さん」

 「裏切り者」

 「えーかげんにせんかい!」

 どかっ。

 「ぐはっ」

 一升瓶でど突かれて畳に突っ伏した往人を見下ろす晴子は、所在なさそうに立っていた柳也に親指で指示した。

 「あんちゃん、この甲斐性なしを納屋に放りこんどいてくれんか?」

 「あ、ああ、それぐらいかまわんが……」

 「ほな頼むで〜、さあ神奈ちゃんのお陰で今夜はご馳走や〜♪」

 「うむ、ぶいなのじゃ!」

 「ゆ、往人さん……」

 「観鈴、そんなあほほっときっ、ご飯やで〜♪」

 「お、おか〜さん!?」

 神奈と観鈴の手を引いて居間に行ってしまっった晴子の背中を見ながら、残された柳也と裏葉は気絶している子孫を

 見てため息をつくしかできなかった。






 「鍛え直すか、裏葉?」

 「及ばずながら私もお手伝いいたします」






 頷き合ってもう一度床に延びている往人を見て、更に深いため息をついた。






 つづく。






 次回、第六話「街並み」



 おっくれましたー、じろ〜です。

 やはり往人は甲斐性なしで決まりました、残念です。

 神奈のお手玉の上達ぶりは、次回にお話しできると思います。

 次はお待ちかねのポテト……失礼、霧島姉妹です。

 街に遊びに行った神奈たちを待ち受ける奇妙な動物は果たして吉と出るか凶とでるか?

 こうご期待ですが、往人の神尾家における地位は最下位が決まったかどうかは不明です。

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