Original Works AIR



 Copyright(C)2000 KEY



 AIR Short Story






 窓から入り込む月明かりに照らされて、部屋の中の様子が夜なのにはっきりと解る。

 神奈を挟んで柳也と裏葉が両側に寄り添い、つまり川の字になって寝ていた。

 幸せそうに眠り込んでいる神奈の両手はしっかりと柳也と裏葉の手を握っていた。

 「柳也さま」

 「ん、起きてるのか裏葉?」

 「はい」

 「寝ても大丈夫だぞ、少なくても追っ手はいないからな」

 「それは解っております、ただ・・・」

 「ただ?」

 「このまま寝てしまうのがなにやら惜しいと思うのです」

 目を伏せて神奈の髪をそっと撫でる裏葉を見て柳也は思いついたことを言ってみた。

 「なるほど、そう言う事か・・・」

 「はい」

 「でも、良いのか?」

 「何がでしょうか?」

 「いや、いくらなんでも神奈がいるのにするのか?」

 「?」

 訳が解らないと言った感じで眉を寄せて自分の顔を見つめ返す裏葉に淡々と言葉を続ける。

 「まあ俺は別にかまわんが、裏葉も結構・・・」

 「柳也さま!!」

 「なんだ、違うのか?」

 「違います!!」

 「残念だな」

 漸く柳也の言っている意味を理解した裏葉は、顔中真っ赤にして神奈が寝てるのを忘れて大きな声で抗議した。

 一方の柳也はしてやったりとばかりに口元を押さえて笑いを堪えていた。

 「怒るなよ裏葉、綺麗な顔が台無しだぜ」

 「もうっ知りません!」

 「ん〜・・・」

 急にがば〜っと上半身を起こした神奈は半分開いた目でぼ〜っとしていた。

 「悪い、五月蝿かったか?」

 「神奈さま?」

 「む〜・・・ぶいなのじゃ」

 「なんだ?」

 「はい?」

 「ぶいと言ったらぶいなのじゃ!」

 言うだけ言ってそのまま後ろに倒れるとふかふかの枕に頭を埋めてむにゃむにゃとまた寝息を立て始めた。

 その様子に呆気にとられていた二人だが目があった瞬間、どちらとも無く笑い出した。

 「まったく、こいつは・・・」

 「本当に神奈さまには勝てませぬ」

 「・・・裏葉、体が解れたようだな」

 「柳也さま?」

 「安心しろ、これは夢じゃない・・・紛れもない現実だ」

 「はい」






 The 1000th Summer Story



 Re−Birth



 Presented by じろ〜






 第四話「先生」






 朝の食卓といえばほとんどの家では明るく気分が良い物である。

 しかしここ神尾家のちゃぶ台の周りでは、約一名がどよ〜んと暗い顔をして観鈴を見つめていた。

 「じ〜っ」

 「・・・」

 「じ〜っ」

 「・・・にははっ」

 「笑って済むと思うのか、観鈴?」

 「が、がお・・・」

 いつもならここで往人に頭をごつんと叩かれるのだが、今日は目玉焼きをむしゃむしゃ食っていた。

 「ラーメンセットはどうした?」

 「ごめんなさい、朝からラーメンセットはちょっと作れなかったの」

 「そっか、じゃあ死ぬ前には食いたいものだな・・・」

 「往人さん、いじわる」

 「何とでも言え、俺はあのままほったらかしだったからな」

 「まったく、男のくせにうだうだ五月蝿いのう・・・」

 「やかましい、この欠食児童がっ!」

 「ん、何を言っておるのかさっぱりわからんぞ・・・んぐんぐっ」

 「ああっ、何という不作法な・・・」

 往人の言葉を聞き流しお茶碗片手にもぐもぐとリスのようにほっぺたを膨らませて食べる神奈の姿に

 裏葉はさめざめと涙を流して肩を落としていた。

 「別に構わないだろう、この方が子供らしくて良いと思うぞ」

 「ですが・・・」

 「郷に入っては郷に従えと言うことだろう」

 「はぁ」

 たくあんをぽりぽりと囓りながら飯をかっ喰らう柳也を釈然としない表情で見つめて裏葉は

 ため息を付くしかなかった。

 「それにしてもあんたらよっぽど貧乏やったんやな〜、こんなにがっついて食べるなんて」

 「おかあさん、そんなこと言ったらだめだよ」

 「うむ、いつも冷えた物しか食べておらんかったからのう」

 「おまえなぁ、誰のために苦労したと思っているんだ?」

 「もちろん余のためじゃな、なにしろ柳也どのは余の随身だから当然じゃな」

 「その割には扱いが酷いと思うが?」

 「うむ、そうだったな・・・ほれ、余のおかずを一品与えるぞ」

 「おい、だからって食いかけを寄こすんじゃない!」

 「良かったですね柳也さま、自分の食事を分け与える慈悲深い神奈さまの随身になられて」

 「裏葉、それは誉め言葉なのか?」

 「もちろんでございます、この裏葉嘘は申しません」

 「その笑顔で言われるのが一番信用できん」

 「まあ酷い言われようですね、私は柳也さまの妻でございます、何で嘘などつきましょうか?」

 「ふん、粗忽者よなぁ柳也」

 「ぐっ」

 それっきり黙り込んでしまった柳也は黙々と飯を食べて裏葉が入れたお茶を飲んでむすっとしていたが、

 神奈と裏葉は楽しそうにしていた。

 「じゃあ今夜こそラーメンセットだぞ、観鈴」

 「うん、絶対にね」

 一方の恋人たちはいつの間にか仲直りして朝かららぶらぶ光線を放っていた。

 そして独り者であるこの家の主、神尾晴子は難しい顔で一人唸っていた。

 「う〜んどいつもこいつも、まあ賑やかのはええけど食費がかさむなぁ・・・」

 良くも悪くも現実は過酷でありこのままでは食料難になるので、まずはそれを何とかしようと頭を捻っていた。






 「なるほど、確かにそれはもっともだ」

 さすがに収入が無い居候の身だから肩身が狭いと言うより単にラーメンセットの危機と感じていたので

 真剣に頷いていた。

 「ふむ、いつになってもお金はいると言うことだな」

 茶を飲みながらぼーっと話を聞いていた柳也は新聞を見ることに集中してぼそっと答えるだけだった。

 なにしろ今の時代のことを知る方が柳也にとっては重要で有ったからである。

 「もう柳也さま、いつもの事とは言えあまりにも考えが浅すぎると思います」

 「そうか? その日食えれば良いと思ってたからなぁ・・・」

 「ふん、やはり柳也どのの頭の中はその程度だったのだな、納得したぞ」

 「黙れ貧乳」

 「うがーっ!!」

 両手を上げてぐるぐると回しながら柳也に襲いかかる神奈だが、その柳也に頭を押さえられているので

 人間扇風機になっていてかすりもしない。

 「あー、観鈴、この娘向こうに連れってや〜」

 「うん、行こう神奈ちゃん」

 「はぁはぁはぁ・・・むぅ、解ったのだ・・・ふん」

 納得していない態度だった神奈は可愛らしい顔をいーっと歪めて柳也を睨むと観鈴の後に付いていった。

 「兄ちゃん、まったくあんたも大人げないな〜」

 「ん、相手に合わせるのも大変だ」

 「柳也さまも子供で本当に困ります」

 「ぐっ」

 話がそれたが柳也が黙り込んだので改めて晴子は問題を提示し直した。

 「まあそれはさておき、なんとかせんとあかんなぁ〜」

 「俺に任せろ、晴子!」

 「却下や」

 「即答かい!」

 たった一言で返された往人は噛みつくように晴子に詰め寄ったが、晴子は軽くあしらう。

 「居候、あんたが人形劇で稼いできた事が一回でも有ったんか?」

 「ぐっ、確かにこの街では無いが・・・」

 「わかっとるやん」

 「だ、だがな、お米だけなら何とかしてみせるぞ!」

 「ホンマかぁ〜?」

 「おう、任せろ!」

 「いまいち不安やけどこのまま甲斐性無しじゃ観鈴が可哀想やし・・・しゃあない、信用したるわ!」

 「ああ、必ずウッハウハだぞ」

 立ち上がりうははは〜っと豪快に笑う往人を見上げる晴子の表情はやっぱりダメだ〜って思いため息をついた。

 「では、行って来るぞ晴子、戦果を期待していてくれ!」

 「ああ、玉砕せんようになぁ〜」

 胸を張って意気揚々と出かけようとする往人に、少し落ち着いた神奈を連れた美鈴が部屋の方からやって来た。

 「あれ往人さん、どこに行くの?」

 「観鈴か、なにちょっとデートにな・・・」

 「むぅ〜っ」

 「なにふくれておるのじゃ、観鈴?」

 「じ〜っ・・・」

 「なんじゃ、余になにか用か?」

 「こうしてみるとあれだな、みちるといい勝負だな」

 「どう言う意味じゃ・・・・・・観鈴?」

 「みちるってだれ、往人さん?」

 うーっとジト目になって睨んでいる観鈴の迫力に一同声も出せずに往人の返事を待った。

 「み、みちるか・・・そうだな、神奈のライバルかな?」

 「らいばるとはなんじゃ?」

 「ん? ・・・・・・往人さんってロリコン?」

 がつん。

 「が、がお・・・何で殴るのかなぁ〜」

 「このばかちん、俺はノーマルだって・・・とにかく行って来る」

 「ああ、待ってよ往人さん!」

 「こらっ、余の質問に答えぬか!」

 「観鈴、これ持っていき〜」

 「あ、うん、神奈ちゃんはい」

 「これは?」

 「にははっ、日よけだよ」

 「ふむ、なるほど・・・軽くて良いぞ、気に入った♪」

 すたすたと玄関を出ていった往人の後を晴子から受け取った麦わら帽子を受け取り、

 神奈に被せると観鈴は神奈の手を引いて飛び出した。

 「なあ裏葉」

 「なんでしょうか?」

 「ろりこんってなんだ?」

 「さあ、もしかして神奈さまのように可愛い娘の事を指しているのではないでしょうか?」

 「おしい〜、正解はなぁ・・・」

 ニヤニヤしながら耳打ちする晴子の言葉に柳也は肩を振るわせて笑い、裏葉はよよよと目元を押さえ憂い悲しんだ。

 「まあ腐っても観鈴のあれやからそんな趣味はこの晴子さんが修正してやるがな・・・」

 朝から変なことで異様に盛り上がる神尾家の住人たちであったが、やはり幸せそうな空気がそこにはあった。

 青空の下、てくてくと鼻歌交じりで駅の方に歩いていく往人の横を観鈴と神奈は手を繋いで歩いていた。

 「ねー、往人さん」

 「なんだ?」

 「わたし、信じているからね」

 「当たり前だ、さっきのは冗談だ」

 「うん、にはは〜っ」

 「こら、余の質問にも答えぬか!」

 「答えはもうじき目の前に現れるからそれまで我慢しろ」

 「ぬぅ・・・仕方がない、余は心が広いからそれぐらい待ってやろうではないか」

 「おお、胸は貧しいけど心は豊かだな」

 「うが〜っ、胸のことを言うなーっ!」

 「あっはっはっは〜っ」

 なんて会話をしていると目的地の今は廃線になり使われていない駅舎が見えてきた。

 そしてベンチに座ってシャボン玉を飛ばして遊んでいる二人の人物がこちらに気が付いた。

 「あー、国崎往人だー!」

 「・・・・・・おっはー」

 「おう、今日も良い天気だな二人とも」

 三人の挨拶を見ていて妙に仲が良いと思えるほど親しく感じた観鈴はぷく〜っとほっぺたを膨らませた。

 「往人さんのすけべ」

 「観鈴、すけべとはどういう意味じゃ?」

 「女の人にでれでれしちゃうこと!」

 「ふむ、だらしない奴だのう」

 「そこ、勝手なこと言ってるんじゃない!」

 「すけべ〜、すけべ〜、国崎往人のすけべ〜」

 がつん。

 「にょへ!」

 「まったく・・・」

 「・・・・・・国崎さん、すけべ?」

 「真顔で聞かないでくれ、遠野・・・」






 「ふふん、なかなか楽しい者たちではないか」






 つづく。






 次回、第五話「夕暮れ」



 さて、先生とは遠野美凪ですがそれは次回に持ち越しです。

 今回は二人が出会いという意味でのお話です。

 ちるちるとなぎーの活躍は神奈を笑顔にさせるが往人はそれどころではないです。

 そうです、一番の問題は往人はお米をゲットして晴子の鼻をあかせるかどうか?

 甲斐性無しの汚名を返上しないと神尾家での地位はどん底だ。

 ふぁいと、往人ちん。

☆感想はこちらまで☆

お名前:

メールアドレス:

ホームページ:(お持ちであれば)

感想対象SS:(変更せず送信して下さい)

メッセージ:



 じろ〜さんのホームページはこちらへ

 第三話に戻る    第五話に進む

 戻る