Original Works 『AIR』



 Copyright(C)2000 KEY



 AIR Short Story






 「裏葉」

 「はい」

 「うわっ、何をするのじゃ?」

 「「それっ」」

 どぼん!

 二人は微笑み合ってから握っていた手を前後に大きく振ると、神奈の体を海の中に放り込んだ。

 「がぼげぼごぼっ・・・」

 頭から突っ込んで海の水をたらふく飲んだ神奈を二人は楽しそうに見つめていた。

 「げっほげほっ・・・な、なんじゃこの水は!? し、塩辛いぞっ!」

 「それが海の水って奴だ」

 「左様でございます、神奈さま」

 「うむ、なるほどなぁ・・・って、うが〜っ!」

 「何を叫んでいるんだ?」

 「おそらく海の水が飲めて嬉しいのだと思います」

 「ちがうわっ!!」

 「どうやら怒っているようだぞ?」

 「辛すぎたのでございましょう」

 「うが〜っ!」

 「やれやれ」

 「やれやれです」

 ずぶ濡れで唸りながら上目使いで睨んでくる神奈の姿を見ながら柳也と裏葉の顔は微笑んだままだった。

 「なあ観鈴、あの騒がしい連中はなんや?」

 「え、あれはその・・・なんて言うかぁ・・・」

 「なんや説明しずらいのか?」

 「う、うん、そう言う訳じゃないんだけど・・・」

 「解った、みなまで言わんでいい・・・まあ夏だし暑いからあーゆのもおるやろ」

 「そ、そうだね・・・にははっ」

 海辺で騒いでいる三人組を見ながら誤魔化すように笑う観鈴を晴子は抱きしめたままうんうんと頷いていた。

 「なあ観鈴、今夜はお母ちゃんと一緒に寝ような♪」

 「え〜、恥ずかしいよ・・・」

 「うちは全然きにせーへんから♪ なあ観鈴ちゃ〜ん」

 「が、がお・・・」

 つい、いつもの口癖を言ってしまった観鈴を晴子は気にせず抱きしめた頬ずりを再開した。

 「観鈴ちゃ〜ん♪」

 すりすり。

 「にははっ・・・はぁ」

 「お母ちゃんもうずっと観鈴ちゃんと一緒にいるからな〜♪

 すりすり。

 「にははっ・・・はぁ」

 しかし観鈴の笑顔は心なしか少し引きつっていた。

 そしてその二人から少し離れた所にいた往人は・・・砂浜に顔を突っ込んで倒れていた。






 The 1000th Summer Story



 Re−Birth



 Presented by じろ〜






 第三話「友達」






 「往人さん!?」

 観鈴の緊迫した声に親馬鹿していた晴子と波打ち際にいた柳也と裏葉は倒れている往人の側に駆け寄った。

 「往人さん? 往人さん! 往人さん!!」

 「うっ・・・」

 「往人さん!?」

 「み、観鈴・・・」

 「往人さん?」

 「あ・・・」

 「なに、往人さん?」

 「・・・は、腹減った」

 こけこけこけこけ。

 ただ一人を除いて往人のとぼけた言葉にみんなは砂浜にひっくり返った。

 「やっぱり無理をしたのですね・・・」

 「ちがう、これはここ数日なにも食ってなかったからだ」

 寝ている往人の側に膝をついて近寄ると、裏葉はその手を往人の額に当てた。

 「それが無理でなくて何でしょう?」

 「しょうがないだろう・・・失敗するわけにはいかないしな」

 「やせ我慢も大概になさいませ」

 「ぐっ」

 「往人さん大丈夫?」

 「おうっ」

 「良かった・・・すん、もうっ、びっくりさせないでよ」

 「すまん」

 「今度びっくりさせたら自動販売機のジュース、全種類飲んで貰うからね」

 「それは勘弁してくれ・・・それより観鈴」

 「うん?」

 「ラーメンセットが食いたいぞ」

 「うん、じゃあ観鈴ちんがんばって作るね♪」

 しばし微笑み見つめ合う二人の周りに何とも言えない空気が集まっていた。

 「むっ、居候のくせにうちの可愛い観鈴とらぶらぶしくさって・・・」

 「悔しいか晴子?」

 「わわっ」

 自分の胸の上に観鈴を引き寄せて抱きしめると晴子に意味有りげににやっと笑った。

 「良い度胸や・・・このまま砂の中に埋めたるわーっ!」

 「やめんかーっ」

 「お、お母さんわたしも埋まっちゃうよ〜」

 などと騒いでいながらもみんなの顔には笑顔が浮かんでいた・・・ただ一人を除いて。

 「うが〜っ! 余を無視するな〜っ!!」

 波打ち際でずぶ濡れになった翼人こと神奈備命が手足をばたつかせ自己主張するように叫んでいた。






 動けなくなった往人を柳也が担いで、ずぶ濡れになった神奈を裏葉が手を引いて一路神尾家に戻った。

 もちろん神奈は歩いている間、ぶつぶつ言いすねまくっていたけど誰も相手にしなかった。

 それですっかりふてくされた神奈は柳也と裏葉とは口を利かなくなっていた。

 「観鈴、あんたはその子を風呂に入れて」

 「うん、神奈ちゃん、いこっ♪」

 「か、神奈・・・ちゃん?」

 「あ、嫌だったかな?」

 「いや、それで良いぞ観鈴」

 『さん』付けからいきなり『ちゃん』付けと呼び方が変わったのに面食らった神奈だったが、なにやらこそばゆく

 満更でもなかったかさっきよりも幾分表情が和らいだ。

 「神奈さま、ちゃんと湯船では肩までつかるのですよ」

 「ふん!」

 「お風呂場ではあまり騒がないでくださいね」

 「裏葉! 余をなんだと思っておるのじゃ?」

 「はい、可愛くて聡明な神奈さまだといつも思っています」

 いけしゃあしゃあと言ってのける裏葉は普段浮かべている笑顔でジト目で睨んでいる神奈を見つめていた。

 「ぐぐっ」

 握り拳を作りながらも体を震わせていたが、観鈴がぽんぽんと肩を叩くので裏葉にそっぽを向いておとなしく

 風呂場の方にどすどすと足音を響かせて歩いていった。

 「ふふっ、もう本当の姉妹のようですね」

 いつも一人だった、正確には同年代の友人たちがいなかったあの頃に比べて今の状況は神奈に取って

 きっと良い事だと思い裏葉はその後ろ姿を暖かい目で見つめていた。

 そして裏葉が居間に来ると柳也と晴子が・・・仲睦まじくお酒を飲んでいた。

 「おおっ、あんたいける口やなぁ〜♪」

 「もちろんだ、しかしこの酒はなかなか美味いな・・・それにしても久しぶりだ、うむ」

 「あったりまえやないか? この酒はうちの秘蔵や!」

 「ん、良いのか飲んでしまっても?」

 「あたりまえだのくらっかーや! 今日は目出度い日やないか!」

 「そうだな・・・うん、確かに目出度いな」

 「そやろ、ほらっもう一杯〜」

 「うむ」

 「何をしておられるのですが、柳也さま?」

 「裏葉!?」

 あからさまに低くしかも半目になって睨んでいる裏葉の顔を見た柳也は、一瞬驚いたがすぐににやりと

 笑いコップをあおった。

 「・・・ん、どうした裏葉、おまえも飲むか?」

 「結構です」

 「ん〜、なんだね〜ちゃん居候と同じ下戸かいな?」

 「ね、ね〜ちゃん?」

 すでに出来上がっているのか晴子はただの酔っぱらいの親父と化していたが、ちらっと横目で見ただけで

 裏葉は無視することに心の中で決めた。

 「いや、俺が知っている限りだとかなりの酒豪だと・・・」

 「おかしな事を言わないでください、柳也さま」

 「んじゃ、やきもちか?」

 「柳也さま!!」

 その声の大きさ、そして真っ赤になった顔から晴子は柳也の意見がもっともだと納得した。

 「図星やないか・・・まあ居候よりかは格好ええし大人やし・・・ういっく」

 飲み干したコップをテーブルの上に置いた晴子はにやりと笑いわざとらしく柳也にもたれ掛かった。

 「うちはいつでもおっけ〜やで〜♪」

 「!!!」

 「お、おい、裏葉・・・」

 妙に強張った笑顔を浮かべながら近づいて膝をついた裏葉は、晴子の持っていた一升瓶を有無を言わさず

 取り上げるとそのままぽいっと庭に放り投げた。

 がしゃん。

 「あ〜、うちのお酒が・・・とっておきのお酒が・・・ううっ〜」

 「日も高いうちからお酒などは感心いたしません」

 「あううっ〜」

 いつの間にか泣き上戸に変わってしまった晴子が地面に染み込んでいくお酒を涙を滝のように流して

 口惜しそうに見つめていた。

 その晴子の姿を見ながらサラッと言ってのける裏葉に、いつの間にか晴子から離れた所に座っている柳也だった。

 「やっぱり裏葉は怒らすと怖い」

 「何か言いましたか柳也さま?」

 「いや、裏葉はいつも綺麗だなと・・・」

 「そんなことは柳也さまに言われないでも解っております」

 「はははっ・・・はぁ」






 一方、居間で起きている喧噪には気が付かない観鈴と神奈はお風呂の中で泡だらけだった。

 「むう〜、泡だらけでなかなか面白いぞ♪」

 「石鹸の使いすぎちゃった〜、にははっ」

 「良いのだ、余が許す、ぶぃなのじゃ!」

 「うん、ぶいっ!」

 観鈴がやっていたブイサインを気に入ったのかにか〜って笑いながら神奈は自分もブイサインで

 元気づけるとお返しに観鈴もブイサインで応えた。

 しかし、顔以外は泡の中と言った感じでお風呂場の中はほとんど泡に占拠されて文字通り泡風呂になっていた。

 でも、年相応の神奈の喜んだ顔を見ていると観鈴も楽しくなってきて二人で泡の中で遊んでしまった。

 ひとしきり遊んで疲れたのか静かに湯船に肩を寄せて浸かっていると、神奈がのぼせ気味の顔で呟く。

 「こんなに楽しかったのは本当に久しぶりじゃ・・・本当に」

 「神奈ちゃん・・・うん、わたしも久しぶりだよ、こんなに仲良くなれた女の子って」

 「済まない、余のせいじゃな・・・」

 「ううん、そんなことないよ、だってもう平気だから・・・ね」

 「そうか、そう言って貰えると余も嬉しいぞ」

 「にははっ」

 「うむ」

 「じゃあ今日から神奈ちゃんは姉妹でわたしの一番大切な・・・友達だね」

 「うむ、余も姉妹ができて嬉しく思うぞ、そして観鈴が初めてのともだちだ」

 「ぶいっ!」

 「ぶいっ! なのじゃ」

 「一杯一杯幸せになろうね、神奈ちゃん」

 「うむ、皆で幸せになるのじゃ」

 頷いて向かい合いそっと差し出したお互いの手をぎゅっと握りしめて今言ったことが嘘じゃないと確かめた。

 見つめ合う瞳と瞳にお互いの姿を映して暫しそのままでいたが、不意に神奈が顔を下に向けた瞬間それは始まった。

 「・・・むぅ」

 「ん、どうしたの神奈ちゃん?」

 今まで笑顔だった神奈の顔が急にしかめっ面になり湯船の中にある観鈴の胸に視線が注がれていた。

 「不公平じゃ」

 「へっ?」

 「ずるいと申しておるのじゃ!」

 「な、なにが?」

 「どうして観鈴だけ胸が大きいのじゃ〜!」

 「わ、わわっ、そんな大きな声で恥ずかしいよ〜!?」

 「もうひとりの自分がこんなに大きいのにどうして余の胸は小さいのじゃ〜!!」

 「そ、そんなのわたし解らないよ〜」

 「うが〜っ!!」

 すっかりいつもの調子に戻ったのか今度は威嚇するように観鈴の胸を凝視し始めた。

 「にははっ・・・はぁ」

 同一人物とはいえあまりにも違う容姿に・・・しかも胸の大きさで神奈が切れたがこればかりはどうしようも

 出来ないと観鈴は胸を隠しながらにははっと笑うしかなかった。

 そしてその頃、布団に転がされている往人は身動き取れずにひたすら食事が来るのを切望していたが、

 すっかり忘れ去られていたと気づくのは翌朝になってからである。






 「観鈴〜、食い物の恨みは恐ろしいからなぁ〜、ふっふっふっ」







 次回、第四話「先生」







 にははっ、じろ〜ちんです。

 新年あけおめです、そしてことよろです。

 さてようやく更新しました第三話です。

 次はあの子が登場します、そう新たなるともだち(ライバル)が(笑)

 早くも現実問題に直視した神尾家の次なるターゲット・・・それは?

 ほのぼのとした日常が始まります。


☆感想はこちらまで☆

お名前:

メールアドレス:

ホームページ:(お持ちであれば)

感想対象SS:(変更せず送信して下さい)

メッセージ:



 じろ〜さんのホームページはこちらへ

 第二話に戻る    第四話に進む

 戻る