Original Works 『AIR



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 AIR Short Story






 「さあ、晴子が待っているから帰ろう」

 「うん」

 「往人殿」

 「なんだ?」

 「礼を言うぞ、二人に会えて・・・夢でも嬉しかったぞ」

 がつん。

 「いっ・・・いきなり何をする!?」

 「まだ寝ているのかと思ったぞ、このばかちん二号」

 「ば、ばかちんにごうとは余のことか?」

 「そうだ、観鈴と一緒で嬉しいだろう?」

 「わたしばかちんじゃない・・・」

 「一号は黙っていろ」

 「ううっ、酷い往人さん」

 ふてくされる観鈴は無視して往人はため息を付いてから神奈を見下ろすと、面倒くさそうに話し始める。

 「あ〜つまり現実に生き返っているんだ、二人ともな」

 「それではわからぬのだ!」

 「わたしも解らない」

 余りに端的すぎる往人の説明に神奈は食い付くように抗議し、観鈴も呆れていた。

 そこに苦笑いをしていた裏葉が及ばずながらと口を挟んだ。

 「往人さま、そこから先はこの裏葉にお任せ願いますか?」

 「ああっ頼む、難しい話は苦手なんだ」

 「それでは裏葉から神奈さまにご説明いたします」

 「うむ、この者では何を言っているのか全然わからぬ」

 「もう一発欲しいのか?」

 「うっ・・・それはいらぬ!」

 拳を握りしめて神奈の頭上に振り下ろそうとしたら、裏葉の背中にしがみついてにらみ返してきた。

 「ちっ・・・」

 「まあまあ、とにかくお気をお鎮めください」

 裏葉に説得されて仕方なしに神奈の側から離れた往人は、柳也と話すことにした。

 「あいつが観鈴と同じだって今更ながら納得したよ」

 「まあな、でもあの強情なのがあいつの良い所なんだぜ?」

 「まったく、はた迷惑な性格だ」

 「そう言えば自己紹介がまだだったな、俺は柳也、神奈の随身だ」

 「随身って?」

 往人の側で話を聞いていた観鈴が柳也に尋ねる。

 「ああ、そうだな・・・今風に言うと保護者って所だ」

 「そうなんだ、にははーっ、観鈴ちん一つ賢くなりました」

 「漸く頭の良さレベル5ぐらいになったのか、観鈴?」

 「う・・・わたしそんなに低くないもん」

 「じゃあおまけで7ぐらいにしておこう」

 「あんまり変わってない・・・」

 「気にするな、いつものことだ」

 「が、がお・・・」

 こつん。

 「いたっ・・・あれ?」

 「何だ観鈴?」

 「う、ううん、何でもない、にははっ」

 全然力が入ってない拳で触るぐらいの感じだったので、それがなんだか嬉しくて

 観鈴の顔は笑顔になった。






 The 1000th Summer Story



 Re−Birth



 Presented by じろ〜






 第二話「海」






 往人たちが話しているのを楽しそうに見つめてから、裏葉は神奈に解りやすく説いた。

 「確かに裏葉も柳也さまも一度死んでいます」

 「そうであろう・・・」

 悲しそうに俯こうとした神奈の手にそっと自分の手を重ねて裏葉は話を続ける。

 「ですがこの裏葉、生前お世話になった僧侶からいろんな法術を習い覚えました」

 「法術?」

 「はい、幸いにも裏葉には素質が在ったようで様々な法術を得ましたが、その中でも特に秘術と

 呼ばれる物がございます」

 さすがは気難しい神奈に仕えているだけの裏葉の話に、神奈は一言も聞き漏らさぬと言った感じで

 真面目な表情で話に聞き入っていた。

 「秘術とはかなりの力を必要とします、その為滅多なことでは使うことはありません」

 「裏葉、その秘術とは?」

 「いろいろありますが裏葉が行ったのは『封魂』と呼ばれる術でした」

 「それでいったい何をしたのじゃ?」

 「本来この術は魑魅魍魎など悪い者の魂を物に封じますが、それを使い自らの魂を封じ込めました」

 「そのようなことをしたのか?」

 「はい、そして神奈さまと同じく呪いをその身に受けた柳也さまは先に亡くなりましたが、

 その術を使い先に柳也さまの魂だけを人形に封じ込めました」

 「柳也殿も余と同じく呪いを受けたのか!?」

 「神奈さまとお別れした日から三年後にお亡くなりになりました」

 「そうであったか・・・」

 神奈が柳也の方を見ながらその瞳を涙で潤み出したので、それを見た裏葉は袖を伸ばして溜まり出した涙を

 そっと目尻を拭って上げた。

 「すまぬ・・・そう言えば先ほど言っておったな、妻がどうとか・・・」

 「あ、そう言えばご報告していませんでしたね・・・短い間でしたが裏葉は柳也さまと夫婦になりました」

 「幸せであったか、裏葉?」

 「はい、短き時では有りましたが子供を授かることもできました」

 「そうか、できればその子の顔が見たかったぞ」

 「少し違いますが見てるではありませぬか?」

 「なんじゃとっ?」

 裏葉がニコニコしながら指さす先には、柳也と話す往人の姿があった。

 「もしやあの者がっ!?」

 「柳也さまと裏葉の子孫にあたります」

 「なるほど・・・ようやくわかったのだ、確かに無礼な所はおぬし達にうり二つじゃ」

 ぎゅむ〜っ。

 「い、いひゃ、いひゃいではらいかぁ、うりゃは〜!?」

 「その様な事を言う口はこの口でございますか?」

 ニコニコしたまま顔を近づけ神奈の口の端に指を突っ込んで、更に挟みながら左右に引っ張る裏葉は

 久しぶりに楽しそうそのまま引っ張り続けた。






 その様子を見ていた柳也はまたかと頭を押さえ、往人と観鈴は不思議そうに顔を捻っていた。

 「何をやっているんだ、あの二人は?」

 「にははっ、なんか楽しそうだね」

 「久しぶりに見たが、神奈が裏葉を怒らせるような事言ったんだろう」

 柳也の横で不意に両腕を組んで考える素振りをして唸りだした往人に観鈴は気がついた。

 「どうしたの往人さん?」

 「いやな、今度からいつもの口癖言ったら観鈴もあれにするかと思ってな・・・」

 「わ、わたしはいいよ〜」

 「いやいや、帰ったら早速試してみよう」

 引きつったにはは笑いをして口を押さえながら後退る観鈴を往人はにやにやして見ていた。

 とかなんとか往人たちも騒いでいる間に、神奈の方も漸く解放されて口に手を当てて沈黙していた。

 そしてさっきまでの悲しみとは違った涙に潤んだ瞳で裏葉を睨み返していた。

 「余の口が裂けるかと思ったぞ、裏葉」

 「まだ引き足りませぬか、神奈さま?」

 「も、もうっ、よいのじゃっ!」

 「左様ですか、では話の続きの戻りますが宜しいでしょうか?」

 「う、うむ」

 赤くなった口元を隠しながらうんと頷く神奈ににこって微笑んで裏葉は話を再開した。

 「それでは・・・柳也さまを秘術を使い魂を人形に封じ込めました様に、裏葉も死ぬ直前にその術を

 子供と友に行い自らの魂を封じ込めました」

 「その秘術とやらは危険では無かったのか?」

 「確かにこの術は外からの力でなければ解呪する事は出来ませぬ」

 「裏葉!?」

 「ですからその為に子供達に法術を教え伝えました、子々孫々まで私たちの想いと共に・・・」

 ぽた、ぽた。

 そこまで話した裏葉の目からは止めどもなく涙がこぼれ落ちて自分の胸元を濡らしていった。

 「再び神奈さまに会えて裏葉は・・・裏葉は本当に嬉しく思います」

 「余も嬉しいぞ・・・裏葉」

 しっかりと手を握りしめ改めて再会を喜び合う二人の姿は本当の親娘に様に見えた。

 「済みませぬ・・・神奈さまに会えて嬉しくて涙が勝手に目から溢れ出てしまいました」

 「よい、余が許す、それほどに思われて余は幸せ者じゃ」

 「神奈さま・・・」

 「それで話の続きは?」

 「はい、そしてあれから千年の月日は神奈さまを呪縛から解く力と柳也さまと裏葉を復活させるには

 充分すぎるほどの力を蓄えることが出来ました」

 「千年か・・・凄いのう」

 「そしてもう一つの秘術『再現』を往人さまは行いました」

 「あの者か?」

 「左様でございます、しかしこの法術はかなりの負担を術者に負わせますが往人さまは自分を顧みず

 己の命を懸けて成し遂げてくれました」

 「ふん、無礼者ではあるがそこまでしたのなら裏葉に免じて許そう」

 「ありがとうございます、神奈さま」

 ここまで裏葉の話を聞いて自分の知りたい事を解った神奈だが、残っていたもう一つの疑問をぶつけてみた。

 「ところで裏葉、あの観鈴という者は余と同じ心を持っておったがいったい何者じゃ?」

 「はい、美鈴さまは神奈さまの魂の一部が人間として転生した姿でございます」

 「なにっ、真かっ!?」

 「はい、神奈さまも感じましたでしょう・・・心の繋がりを」

 「うむなるほどな、それで観鈴殿は余と同じ心を持っておったのか・・・」

 「そうです、姉妹と言っても差し支えないと思います」

 「姉妹か・・・なにやら不思議な感じがするのじゃ、余は一人だったからな・・・」

 「きっと仲睦まじい姉妹になれると裏葉は思います」

 「そうか、裏葉がそう言うのなら間違いなさそうだな・・・うむ」

 「はい」

 「でも、なぜ観鈴殿は死ななければならなかったのだ?」

 「それは人の器には翼人の魂は大きすぎるのです、そして成長と共に神奈さまの記憶が戻るに従って器から

 溢れるように心が壊れていくのです、そして最後には命も尽き果てます」

 「なんと、そうであったのか・・・」

 そこまで裏葉に説明をされて漸く自分と観鈴の事が理解できた神奈は、自分の分身ともいれる観鈴の方を向き

 改めて感謝の気持ちを込めて見つめた。

 「しかし今回は参りました、あろう事か観鈴さまが少々早とちりをなされまして先に来てしまいましたので

 危うい所でしたが、往人さまが奮闘したお陰で無事危機は脱しました」

 「ふふん、意外に慌て者なのだな観鈴殿も」

 「はぁ、神奈さま・・・ご自分を笑ってどうします?」

 「うっ、そうであったな・・・むぅ」

 「そのように神奈さまと観鈴さまは同じ者ですから、観鈴さまが救われた事により神奈さまに掛けられ呪も

 返されわたしたちの願いも叶いました」

 「ふん、少しは役に立つようだなあの者も?」

 「神奈さま」

 困ったような笑顔を浮かべて汗をかいている裏葉は、胸を張って往人たちの方に歩いていく神奈の後を

 追うようにゆっくりと歩き出した。






 「済まなかったな、待たせた」

 「おうっ、待たせすぎだばかちん二号」

 「なっ、おのれっ、余の名は神奈じゃ!」

 「さあ帰るぞ、観鈴」

 「なに往人さん?」

 「うがーっ、余を無視するなーっ!」

 自分を無視して観鈴と会話を続ける往人を殴ろうとして、裏葉に諫められて神奈は渋々大人しくした。

 「おまえのポケットにある人形を出してくれ」

 「えっ、ちょっと待ってて・・・あ、はい」

 「よし、それを手に持って神奈と手を合わせるんだ、人形を挟むように」

 「わかった、はい神奈さん」

 「うむ、これが法術とやらを蓄えた人形か・・・それにしても不細工じゃな」

 ごちん。

 「くうっ!?」

 「黙って言われた通りにしろっ」

 「くっ・・・後で覚えておれよ」

 「俺は忘れやすいんだ、残念だったな」

 「往人さま、そろそろ始めませんと待たせている人に悪いですよ」

 「ああ、そう言えばそうだったな・・・じゃあ始めるぞ」

 五人で輪になるように手を繋いで固まると往人は真剣な顔つきに変わり観鈴を見つめる。

 「観鈴、晴子が待っている場所は解るよな?」

 「うん、解るよ・・・あの砂浜で待っているんだよね」

 「そうだ、それを心の中に浮かべるんだ」

 「うん」

 「みんなも目を閉じて静かにしてくれ」

 無言で頷き観鈴に続き目を閉じて待っていると、それぞれの心にある景色が浮かんできた。

 白い砂浜とそこにあるのは遙か彼方まで広がる青い海が見え潮騒と共に聞こえてきた。

 「これは・・・」

 「このどこまでも広がる水たまりが海でございます、神奈さま」

 「これが海か・・・きれいじゃ」

 「さあそこに意識を集中するんだ、そこに行きたいと心に強く思うんだ」

 それに合わせて神奈と観鈴の手に挟まれた人形が光り出して五人を包みだした。

 「千年の想いが詰まったこの人形の力を今ここにすべて解放する・・・いくぞ!」

 そして最後に往人が呟いた言葉が終わった瞬間、目を閉じていても眩むほどの光がこの空を満たしていった。






 ざざ〜ん。

 夕焼けに染まった砂浜で観鈴の体を抱きしめて海を見ていた晴子は往人の言葉を信じて

 座り込んだ静かにまま待っていた。

 「・・・・・・」

 ざざ〜ん。

 波の音が晴子を元気づけるように温かく包んでいた。

 「うち、待ってるで・・・あんたの言葉信じて・・・なあ居候・・・」

 そこまで呟いた時、自分の顔を撫でる温かい手に気がついた。

 「観鈴!?」

 「ただいま、お母さん・・・にははっ」

 ぶい!

 「観鈴・・・観鈴・・・観鈴ーっ!!」

 涙をぼろぼろとこぼし力一杯自分の体を抱きしめる晴子に、観鈴は悲鳴を上げる。

 「い、痛いよお母さん〜」

 「おとなしくせい、お母ちゃんは今、幸せを噛みしめているんや!」

 「が、がお・・・」

 いつもの口癖を言っても晴子は観鈴に頬ずりをして更にぎゅっと抱きしめて離さなかった。

 「お母さん」

 観鈴もそっと晴子の背中に腕を回してここに帰ってきたんだと言う実感を確かめていた。

 そして同じように砂浜に足を付けて神奈は柳也と裏葉に手を繋がれたまま沈む夕日と、どこまでも青く広がり

 さざ波が立つ海をじっと見つめていた。

 「これが海なのか!? 何とも広いものだな・・・」

 「そうだ、これが海だ」

 「良かったですね、神奈さま」

 「うむ!」

 嬉しそうに海を見つめる神奈の横顔を見て、柳也と裏葉は微笑み合い満足そうに頷いてから

 愛しい娘を見守るように再び見つめ続けた。

 そしてさらにその二組を少し離れた所で見ている往人は自分の手の中に戻っていた相棒に感謝をしていた。

 「ありがとうな、相棒・・・それと約束果たしたぜ、母さん」

 母を想い慈しむようにそっと人形を握って今まで旅してきた事が無駄では無かったと実感していた。






 千年の時を経て、再会を夢見た想いとあの日果たせなかった約束が今ここに叶った。






 そしてこれから始まる現実は彼らに取って過酷な日々かもしれないが、きっと大丈夫だろう。






 そう・・・今度は一人ではないのである、大切な人が側にいるのである。






 それならばどんなことでも力を合わせて乗り越え進んでいくことが出来る筈である。






 さあ、躊躇う事は無い・・・誰にも遠慮する事なく幸せになる時間が今目の前にある。






 次回、第三話「友達」




 どうも、じろ〜ちんです。

 シリアスな展開ですが、実はここまでだったりして(笑)

 次はほのぼのです、らぶこめは・・・少な目ですね。

 さあ現代に甦った三人ですが、これから始まる日々は有る意味過酷です。

 なぜって今と昔ではかなり風習が違います、そして神奈の性格からどたばたは必死か?

 にははっ、じろ〜ちんがんばるぞ!


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