Original Works 『AIR



 Copyright(C)2000 KEY



 AIR Short Story






 「あれ? わたし・・・」

 目を開けた観鈴の前に広がる景色はどこまでも広い青空で、しかも足下は白い雲だった。

 「きれいだね・・・」

 心地良い風が観鈴の長い髪の毛をさらさらと揺らす、そして合わせるように両手を広げて風を受ける。

 そうしながら暫くその風景に見とれていた観鈴だったが、風にのって女の子の泣き声が耳に届いた。

 「わたしを・・・呼んでいる」

 迷うことなく一歩踏み出した観鈴はその声に向かって歩き出した。

 悲しみに暮れているもう一人の自分の元へ・・・。






 「うっ・・・柳也殿、起きるのじゃ・・・余の命だぞ・・・ひっく」

 幾度と無く呼びかけても、幾度と無く体を揺すっても起きない柳也の胸に顔を埋めて神奈は

 声を枯らし泣きながらそれでも止めようとはしなかった。

 「余の随身と・・・言ったではないか、だから・・・ううっ」

 大きな目は真っ赤になり大粒の涙がぼろぼろと柳也の体にこぼれ落ちる。

 しかし虚ろな柳也の瞳はただ虚空を見上げるように何の反応も示さなかった。

 「起きるのじゃ・・・柳也殿・・・んくっ・・・」

 「あの・・・」

 悲しみに暮れる神奈はその声と気配にゆっくりと顔を上げ振り向くと、泣き疲れた表情で

 そこにいる観鈴を見つめた。

 「そなたは・・・誰じゃ?」

 「わたし? わたしは観鈴、神尾観鈴」

 「そうか・・・余は神奈じゃ・・・」

 そう答えた神奈を見ていた観鈴は、もう一人の自分とやっと会えたと確信した。

 ぺたんと腰を下ろした観鈴はポケットからハンカチを取り出して神奈の顔を優しく拭った。

 「わたし、ずっと夢見てたの、女の子が一人で泣いている夢を・・・」

 慈愛に満ちた微笑みで話しかける美鈴の言うことを神奈は黙って聞いていた。

 「だからね、会いに行かなくっちゃって思ったの・・・あなたに」

 「不思議じゃ・・・観鈴殿と初めて会った気がせぬ・・・」

 観鈴の笑顔を見ていると心の悲しみが少しずつ晴れてきた感じが神奈の中に生まれ始めていた。

 「そうだね、わたしもそう思った、にははーっ」

 腕を伸ばしてそっと神奈の小さい体を抱きしめると観鈴はその耳元で囁いた。

 「もう、一人じゃないから・・・わたしの記憶を受け取って・・・」

 観鈴の言葉に続いて、抱き合った二人を包むように淡い温かい光が辺りを照らした。






 The 1000th Summer Story



 Re−Birth



 Presented by じろ〜






 第一話「出会い」






 「そうか、観鈴殿には迷惑を掛けた・・・許してくれ」

 「ううん、平気だよ・・・だって幸せだったもん、にははっ」

 観鈴の記憶を貰い大まかな事情を理解した神奈は、そうまでして自分に会いに来てくれた事に感謝をして

 素直に頭を下げた。

 実際、目の前にあった柳也の体がすっと消えてしまった事で観鈴の言う事が嘘ではないと神奈にも

 多少解らぬ事も有ったが少しは理解できたのである。

 「でもこれからどうしたらいいのか解らない・・・」

 「それは余も解らぬ、う〜む・・・」

 何というか、雲の上で二人の少女が腕を組んで難しい顔をで見つめ合っている姿はどこか可笑しかった。

 「にははーっ、観鈴ちん馬鹿だから・・・ごめんね」

 「謝ることは無いぞ、観鈴殿のお陰で余も悪夢から覚めたのだからな」

 「うん、ありがとう」

 「そうじゃ、くよくよしても仕方ないであろう」

 以前のように自信に満ちあふれた笑顔で応える神奈の姿に逆に励まされてしまう観鈴だった。

 ばさ。

 そんな二人の前に一羽のカラスが羽を鳴らして舞い降りた。

 「そら?」

 「知っておるのか、観鈴殿?」

 「うん、わたしの友達で『そら』って言うの・・・でもどうして?」

 カラスはじっと観鈴を見つめると大きなくちばしを大きく開けて・・・怒鳴った。

 『この・・・大馬鹿かがっ!!』

 「へっ?」

 「な、なんじゃこの鳥は!?」

 するとカラスの姿が揺らめいてすぐに一人の男が二人の前に立っていた。

 「往人さん!?」

 驚いている観鈴に往人は険しい顔で近づくといきなり拳を彼女の頭に振り下ろした。

 ごつん。

 「いたた〜っ、もうどうしてなぐるかなぁ・・・」

 「このばかちんがっ!」

 がつん。

 「いたた〜っ、なんで二回もなぐるのかなぁ・・・」

 「お仕置きに決まっているだろう、ばかちん」

 「わ、わたし観鈴ちん・・・」

 「ばかちんで充分だ」

 「ひ、ひどい、往人さん」

 「おまえ、なんで俺が怒っているか解っているのか?」

 「が、がお・・・」

 ごちん。

 「なんでなぐるのかなぁ・・・」

 「晴子との約束だからな、それを言ったら殴ってくれって」

 「往人さん嫌い」

 殴られた所を押さえて涙目で抗議する観鈴を、往人は少し和らげた表情で見つめた。

 「まったく・・・人の話をちゃんと聞けっての」

 「えっ?」

 「俺はがんばれとは言ったけど死んで良いとは言ってないぞ?」

 「え、ええっ?」

 「お前が勝手なことするから危うく間に合わなくなる所だったぞ?」

 そう言って往人は観鈴の体を引き寄せてぎゅっと抱きしめた。

 「ゆ、往人さん!?」

 「あんまり心配させるなよ、観鈴」

 「う、うん・・・にははっ」

 観鈴の見せたいつもの笑顔に釣られて往人も安心したようにため息を付いた。






 「ん、んんっ」

 「あ、ごめんね神奈さん」

 そのわざとらしい咳に慌てて離れた美鈴は真っ赤になって俯いてしまった。

 「邪魔をしてすまぬが、その・・・」

 「あ、う、うん」

 「おい、そこのガキんちょ」

 「がきんちょは余のことか?」

 「他に誰が居る? 解らなければ貧しい胸の奴って言ってやろうか?」

 「お、大きなお世話じゃ!」

 両手でささやかな胸を隠すようにして身をよじりながらも視線は往人を睨み付けたままだった。

 「せめて観鈴ぐらいにならないとその気にもならん」

 「もうっ、往人さんのえっち」

 「く、言いたい放題言いおって・・・」

 すました顔で近づくと、まだ何か言おうとする神奈の頭に往人は観鈴と同じように拳を振り下ろした。

 がつん。

 「な、何をする!?」

 「お前はやっぱり観鈴と同じ奴だよ・・・自分勝手で強情な所なんてそっくりだ」

 「わたしそんなんじゃない・・・」

 後ろで小さな声で抗議している観鈴を無視して、往人は神奈と睨み合って言葉を告げる。

 「残された者の気持ちを考えた事無いだろう、だからあんなことが出来るんだ」

 「そ、それは・・・お前には関係ないであろう!」

 がつん。

 「ううーっ、め、目から火が出たぞ!」

 「口答えするな、黙って聞いてろっ」

 さすがにもう叩かれたくないのか、神奈は睨んだまま口をつぐんで往人の話を黙って聞くことにした。

 「いいか、お前のために千年の間も想いと力を費やした人たちが居るんだ」

 「それって・・・」

 「観鈴も黙ってないともう一発お見舞いするぞ?」

 こくこく。

 口癖を言いそうになって手のひらで口を押さえると勢いよく頭を何回も縦に振って頷いた。

 「お陰でいろいろ大変だったが漸く何とかなりそうだ」

 今度は優しく神奈の頭にぽんと手を置いて何回も撫でると面食らったようにぽけっとして

 往人の顔を見上げていたが急に顔を赤くして俯いた。

 「待たせたな・・・」

 「お前は何者だ?」

 「俺か・・・俺は国崎往人、お前に会うために旅をしてきた人形使いだ・・・」

 「でも今はわたしんちの居候だよね、にははっ」

 がつん。

 「なんでなぐるのかな・・・」

 「余計なこと言わなくていい!」

 「う〜」






 まだぶつぶつ言っている観鈴にあとでジュースを奢ってやると言って納得させると

 往人は神奈の細い肩を掴んで真剣な表情で見つめた。

 「さてと神奈、今一番誰に会いたい?」

 「なぜそのような事を聞くのだ?」

 「いいから言ってみろ、お前が一番会いたいのは誰だ?」

 かつて柳也に問いただされた時と同じ状況に神奈の口が静かに開いた。

 「柳也殿と・・・裏葉に会いたいぞ」

 「もう一度聞くぞ神奈、誰に会いたい?」

 顔を上げ大きく口を開けると、神奈は力一杯叫んだ。



 「柳也殿と裏葉に会いたいぞ!」



 叶わぬと願いとは解っていても、神奈は心の中に浮かんだ二人の顔を思い浮かべていた。

 あの日、空から二人を見下ろしながら別れた事は今でも忘れることは無かった。

 だから自然に神奈は今一番側にいて欲しい人の名を叫んだ。

 「そこまで言われたら黙っているわけにはいかんな・・・」

 「本当は嬉しいのでございましょう、柳也さま?」

 「裏葉、人の心を読むんじゃないとあれほど言ったのに・・・」

 「読まずとも柳也さまのお顔を見れば一目瞭然です」

 「ぐっ、この女狐が・・・」

 「ああ、妻に対してそのお言葉はあんまりでございます、よよよ」

 「目が笑っているぞ、裏葉?」

 「さあ、私には解りませぬが気のせいでございましょう」

 「まったく口の減らぬ奴・・・おとなしいのはあの時だけか?」

 「知りませぬ」

 「お、顔が赤くなったぞ?」

 「解りませぬ」

 「くっくっくっ」

 「柳也さま!」

 「なああんたら・・・夫婦げんかは犬も食わないって言葉知ってるか?」

 ため息を付きつつも話に割って入る往人に二人は恥ずかしいのか柳也まで赤くなって

 夫婦共々静かになった。

 「ほらっ、お前が会いたかったんだろう?」

 とんっ、と呆けている顔の神奈の背中を押して二人の前に押し出すと、後は黙って見守っていた。

 「漸く会えたな、神奈」

 「お久しぶりでございます、神奈さま」

 「柳也殿! 裏葉!」

 両手を広げて二人に抱きつくと神奈はまた泣き出してしまったが、それは嬉しくて泣いているので

 見ている往人と観鈴にも温かい気持ちが伝わってきた。

 「良かったね、往人さん」

 「ああ、これで俺の旅も終わるかな・・・」

 「そうだね」

 その言葉に不安な気持ちになったのか寂しそうに笑う観鈴の手を往人はぎゅっと握ってその耳元で小さく呟く。

 「安心しろ、ずっとおまえの側にいてやるからな」

 「あ・・・うん、にははーっ」

 ぶい!

 ピースサインと嬉しそうににはは笑いする観鈴の手をもう一度しっかりと握り直すと往人は笑った。






 「さあ、晴子が待っているから帰ろう」






 次回、第二話「海」




 にははーっ、じろ〜ちんです。

 第一話どうにか書けました・・・裏葉萌えとしては彼女を活躍させたいけどね。

 ヒロインは神奈と観鈴ですから・・・残念。

 ちょっぴりシリアスな展開のあとはほのぼの一直線目指すぞ!

 じろ〜ちんふぁいと!

 ではでは。


☆感想はこちらまで☆

お名前:

メールアドレス:

ホームページ:(お持ちであれば)

感想対象SS:(変更せず送信して下さい)

メッセージ:



 じろ〜さんのホームページはこちらへ

 第零話に戻る    第二話に進む

 戻る