Original Works 『Kanon』



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 Kanon Short Story






 春。

 桜の舞い散る中、双子の女の子たちは待ちきれない様に家の中に向かってあたしを呼ぶ。

 「ママ、早く早く〜」

 「祐理、浮かれて大きな声出さないでよ、恥ずかしいわね」

 「ふ〜ん、鏡の前で一時間も自分の姿をチェックしてた人に言われたくないな〜」

 「何ですって?」

 「事実でしょう?」

 ……ふぅ。

 たぶん顔を付き合わせて睨み合う二人の争いが、これ以上大きくなる前に出ていかないとだめね。

 「朝から元気なのは良いけど、誰に似たのかしら?」

 最後にさっと口紅をひいて鏡の前から立ち上がると、部屋を出る前に写真に向かって微笑みかける。

 「それじゃ行って来ます」

 写真の中で笑っている祐一の頭を指でつついてから、上着を身に着けて騒いでいる娘たちの元に向かった。

 「まったく、祐香は性格ママそっくりじゃない」

 「どこが?」

 「全部♪」

 「あたしはあそこまで酷くないわよ」

 「その酷すぎる性格はママ譲りね、わたしはパパにで良かった〜」

 「ああっ、自分だけそう言うなんて卑怯だわ!」

 「あなたたち、言い残す事が有るなら今の内よ?」

 「「ママ!?」」

 手に持っているジャムの瓶を弄びながらニコニコしているあたしを見て、娘たちは逃げ腰になる。

 「え、あー、ママ最高! さすがあたしのママ!」

 「う、うん、ママって綺麗だし優しいから大好き!」

 「ありがとう、とっても嬉しいわ」

 その言葉に娘たちはほっとした顔になるが、あたしは笑顔を絶やさないで言葉を続ける。

 「所で、あたしの性格のどの辺が酷いのかはっきり言ってくれる、祐香、祐理?」

 「「あ、あははは……はっ」」

 「これ、あなた達と同じ年代物なんだけど、食べてみたいのね」

 「「え、遠慮します!」」

 「どっちから食べる?」

 あたしが一歩前に出ると、二人はお互いの顔を見つめて頷くと、身を翻して走り出した。

 「「いってきまーす!」」

 逃げ足は相変わらず早いわね、なんだか祐一にそっくりだわ。

 息もぴったりだし、さすが双子よね……普段は口げんかしているのに、こういう時だけは協力し合うんだから。

 「ふふふっ、相変わらず元気ですね」

 「あ、おはようございます、秋子さん」

 「おはよう香里さん、今日は入学式ですね」

 「そうなんですけど、あの子たちはいつもと変わらないです」

 「元気なのは良い事ですよ、子供はそうじゃないとね」

 「はい……あ、そろそろ行きます、親が遅刻したらシャレになりませんから」

 「いってらっしゃい、今日の午後には皆さん来られるそうよ」

 「すいません、お料理をお任せしちゃって」

 「気にしないで、楽しいのは大好きだから……腕によりを掛けて待っていますよ」

 「ありがとうございます」







 かおりんの夢は止まらない♪ 最終話






 Presented by じろ〜






 「はぁはぁはぁ、祐香がいらない事言うから……」

 「はぁはぁはぁ、祐理だって言ってたくせに……」

 「「はぁ〜」」

 「家に帰ったら絶対食べさせられるわよ、さっきのあれ?」

 「そうね〜、上手くはぐらかしても秋子さんの奴かもしれないし」

 「「はぁ〜」」

 「何してるの二人とも、そんなに大きなため息ついて?」

 「「あ、おはようあゆちゃん」」

 「あのね、ここは学校なんだからあゆちゃんは無いでしょう?」

 「だって、あゆちゃんだし♪」

 「そうね、あゆちゃんだし♪」

 「これでも先生なんだから、学校では月宮先生って呼んでね」

 「「え〜」」

 「なにが『え〜』なの?」

 「どう見ても大人っぽくないし〜」

 「そうそう、だって先生と言うより生徒だし〜」

 「うぐぅ」

 「あっ、ごめんあゆちゃん、つい本音が……」

 「うん、悪気はないの、ただ正直に……」

 「………………」

 「「あゆちゃん?」」

 「後は任せるね、香里さん」

 「おはようあゆさん、後はあたしに任せてね」

 「「ママ?」」

 あゆさんの声にびっくりして、後ろに立っていたあたしを見た娘たちは固まって口をパクパクしていた。

 全くこの子たちは、小さい頃はあたしそっくりで良い子だったのに、最近誰かの性格に似てきてるのよね。

 「あ、あの、これは、そのあれよっ」

 「う、うん、そうなの、あれなのっ」

 「あれ?」

 「「うん、あれなの!!」」

 「あれね……はい、お望みのアレよ」

 ぽいっ。

 「「むぐぅ!?」」

 叫んで大きな口が開いた瞬間、鈍く光るオレンジ色のキャンディーを二人の口の中に放り込んだ。

 瞬間、膝を地面に付きそうになった体をお互いに支えてなんとか踏みとどまった。

 「「ママ、酷い〜」」

 「自業自得でしょ、さあ入学式に遅れるわよ」

 「「は、は〜い」」






 「もう15歳か……大きくなったわね」

 入学式で並んでいる生徒の中にいる二人の姿を見て、この高校に通っていた時の姿が重なる。

 特に祐香は外見ならほとんどそっくり、まるでそこにあたしがいるみたい。

 祐理はストレートの長い髪をポニーテールしているから……そうね、祐一にしておこうかな。

 あたしと祐一が出会った様に、あの子たちにも素敵な出会いがきっと有るといいわね。

 もっともここにいない誰かさんは『二人は嫁にやらん』って言ってたけど。

 バラバラバラバラバラッ。

 うん? 何の音かしら……。

 がっしゃーん。

 ごろごろごろごろ〜っ。

 「な、何よ!?」

 それは講堂の窓を壊して飛び込んできたと思ったら、あたしの目の前まで転がってきて止まった。

 「うにゅ〜」

 「だーっ、名雪重いぞ!」

 「う〜、女の子にそんな事言うなんて極悪だよ〜」

 「誰が女の子だ、誰がっ!」

 「わたし」

 「寝ぼけてないで早くどけって」

 「解ったよ〜」

 「名雪、なんでそこで胸に顔をすり寄せる?」

 「間違っちゃったよ〜」

 一瞬、呆気に取られたけど気を取り直すと、祐一の胸にごろごろすり付いている名雪の首根っこを掴んで持ち上げる。

 「あら名雪、久しぶりね」

 「か、か、香里、久しぶり〜」

 「あたしの目の前で祐一とらぶらぶするなんて、強くなったわねぇ……」

 「あははっ、ありがとう」

 「誰が誉めたのかしら?」

 冷や汗をだらだらかいている名雪を睨んでいると、何でもない様に立ち上がったあたしの夫、祐一は誇りを払った。

 「ただいま香里、入学式には間に合ったぞ♪」

 「どこが?」

 「なんか冷めた反応だな、熱いキッスのお出迎えは?」

 「熱い拳?」

 「いえ、済みませんでした」

 「そう、所でどうでも良い事なんだけど、どうして窓から飛び込んでくるの?」

 「それは名雪がなかなか起きなくて、結局出張先を出たのがかなり時間を過ぎてたんだ」

 「つまり諸悪の根元はこのドラ猫って事で理解して欲しいのね」

 「ゆ、祐一〜、わたしを生け贄にするなんて酷いよ〜」

 「すまん名雪、俺の円満な生活のためだ」

 「二人とも、後でたっぷりお仕置きしてあげるから、楽しみにしててね」

 と、ここまで来て漸くあたしは周りを見る余裕ができたんだけど……。

 娘二人は真っ赤な顔して俯いちゃってるし、あゆさんは背中向けちゃってるし、学生たちは肩を震わせて

 笑うの我慢してるし、おまけに壇上の校長先生は頭から湯気が出そうだったわ。

 その結果、あたしたち三人は入学式に追い出された初の父兄として、有り難くない日になってしまった。






 「悪かったな、一人にして……」

 「仕事だから仕方ないわよ」

 「でも、一区切り付いたから、暫くは家でごろごろ出来そうだ」

 「そう……」

 校庭にある桜の木の下で、あたしと祐一は久しぶりに二人っきりで話していた。

 名雪は用事があるからと言って先に帰っちゃったけど、あれは気を遣ったのか逃げたのか……。

 おそらくは両方でしょうけど、まあ後の集まりでお仕置きはさせて貰うから見逃してあげた。

 「あの時は雪でしかも夜だったなぁ……」

 「えっ?」

 祐一が優しい目であたしを見つめながら呟いた。

 「あの時、ここで香里が俺に自分の胸の内を話してくれた事、ちゃんと覚えているぜ」

 「初めてだったわ、人前で泣いたのも、しかも男の人の腕の中なんて」

 「俺は嬉しかったなぁ、泣き顔で俺を見つめた時、香里の本心が伝わってきたから……」

 「ひょっとして泣き落とされちゃった?」

 「さあ、でもその後で栞に見せた笑顔が凄く可愛かったからな、それで決まった」

 「ば、ばかっ」

 面と向かって言われたから恥ずかしくって顔を背けようとしたら、祐一があたしの腕を掴んで引き寄せる。

 「ゆ、祐一、ここ学校……」

 「ごめん、我慢できなかった」

 「もうっ……でもあたしも嫌じゃないわ」

 「素直じゃ無いなぁ〜」

 「素直よ、抵抗してないでしょ?」

 腕の中で見上げながら微笑むあたしの唇に、祐一は激しいキスをしてくる。

 あたしの腕も自然に祐一の首に回ると、目を閉じて久しぶりにするキスを楽しむ。

 そんなあたしたちを、式が終わった講堂から出てきた人全員が見ていた事に気が付かなかった。

 中でもあゆさんと祐香と祐理の会話は、あたしたちの事を説明する様な感じらしいけど。

 「もうあの二人は……」

 「場所ぐらい弁えてよ、恥ずかしいわね!」

 「ほんと、全然遠慮がないから困っちゃうよね〜」

 「冷静に関心しないでよ、祐理!」

 「だってしょうがないよ、祐香?」

 「どうして祐理ちゃん?」

 「万年新婚カップルだからね〜、パパとママは♪」

 「納得できちゃうから不思議だよね」

 「あゆちゃん、止めようと思わないんですか?」

 「うん、ジャム食べたくないから♪」

 「あの二人、変わりませんね……」

 「あ、斉藤先生」

 「月宮先生、そろそろ教室に行かないと生徒が待っていますよ」

 「ああ、祐香ちゃんも祐理ちゃんも行こう!」

 クラスメイトだった斉藤君に促されて、三人は教室の方に行ってしまったけど、あたしたちはキスしてたので

 そんな会話が有ったと後で娘たちに聞かされた。

 「初恋は実らないって話は聞きますが、彼らは違ったようですね」

 「うちの両親の事、知っているんですか?」

 「ええ、もちろん、クラスメイトでしたからね」

 「パパとママってそうなんだ」

 「相沢君は女の子にもててましたからね」

 「そうね、わたしも祐一くんが大好きかな♪」

 「あゆちゃん、娘の前で堂々と言いますね」

 「あゆちゃん、パパは渡さないよ」

 「でも、祐一くんがキスした相手、一杯いるよ……あっ」

 「「なんですってーっ!?」」

 「こ、怖いよ、優香ちゃん、祐理ちゃん」

 「祐理」

 「祐香」

 「「うん!」」

 だだだだだだだーっ。

 「あー、ちょっと二人とも〜、教室に行かないとダメだよ!」

 「「代返して、あゆちゃん」」

 「うぐぅ、ボク教師なのに……」

 「元気出してください、月宮先生」

 「うぐぅ」



 「「パパー、何人の女とキスしたのーっ!?」」



 近寄ってきながら叫んでいる娘たちの声に、あたしと祐一は笑って見つめ返していた。

 祐一と出会って恋して愛して、そして生まれたあたしと祐一の夢の結晶たち。

 夢は止まることなく思いと一緒に受け継がれていく、愛しい子供たちに。






 だから、あたしの夢は止まらない。






 完





 成長した双子の姿は、在りし日の香里と祐一みたいな感じでした。

 あゆあゆが先生になっているのは驚きですが、容姿はあまり変化がないようです(笑)

 そして漸く最後に斉藤の出番です、彼はここにしか出る予定が有りませんでした。

 案外美味しいかもしれないですね、斉藤君♪

 ここでのみんなのその後ですが、それぞれがんばっているようです。

 あゆは話の中でお解りの高校の先生です、栞は小学校の先生にしかなれませんでした、舞と佐祐理さんは倉田家が

 出資した病院で看護婦、真琴は保母になり、そこで出会った子供の父親と恋愛中、美汐は昇進してこの街初の

 警察署長で未だ独身です、そして名雪は第一線を引いた秋子さんの変わりに祐一と同じ職場です。

 しかし、祐一の職業は未だに企業秘密なのが何とも怪しいです(笑)

 長い間お付き合いありがとうございました、これにて物語は一区切りとなります。

 これからも彼女たちの日常は、続いていくでしょう……あなたの心の中で、ずっと。

 それでは、またいつかどこかで!

 

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