「はあ、はあ、はあ」
いつもの帰り道。
家までの道が遠いと、はじめて感じた。
体調はどんどん悪くなる一方だ。
「はあ、はあ、はあ」
足がふらふらする。
Kanon 「未来へ・・・」 第三話−B
カチャ
「ただいま・・・」
ようやく家に着き、玄関をくぐる。
「お帰りなさい、祐一さん。あら、すごく顔色が悪いわね」
出迎えてくれた、秋子さんはそう言って、掌をおでこに当てた。
「凄い熱ね、部屋で寝てなさい。後でかぜ薬を持っていくから」
そう言われ、俺は階段を昇っていく。
部屋に着き、ベットに倒れこんだ。
どれぐらい、時間が経っただろう?
気が付いたら、太陽は沈み、暗くなっていた。
身体を動かそうとしたが、いうことを聞かず、なんとか顔だけ動かし、時間を見る。
9時半。
ふと見ると、額に濡れたタオルが置いてあった。
そしてはじめて、名雪がベットの横で、うとうとしていることに気が付く。
「名雪、名雪」
「う〜ん、あっ、祐一! 大丈夫? 」
俺が呼びかけると、名雪は目を覚まし、俺の安否をきづかう。
「身体が動かない」
「えっ!? 本当!? 」
半べそをかきながら、名雪は俺の顔を見る。
「明日になれば、直ってるから、名雪は部屋で寝てろ」
「ううん、ここに居るよ。だって、祐一苦しそうだもん」
そう言いながら、額に置かれたタオルを取り、新しく絞ったタオルと交換する。
「俺は良いから、早く寝ないと、明日起きれないぞ」
「大丈夫。ちゃんと起きるから」
それが信用できない。
「なあ、名雪」
「なあに? 」
「なんで、そんなに俺のことを気にするんだ? 」
昔から、名雪はなにかと俺のことを気にしていた。
それは変わることがなく、真琴が消えたときもそうだった。
一生懸命、俺を元気づけ、俺の止まっていた勉強も着きっきりで見てくれた。
何故だろう?
なんとなく解ってはいる。
だけど、聞けなかった。
だが、今こそ聞いて見たかった。
「それはね、祐一のことが、昔から大好きだからだよ」
悲しみが含まれているような、それでいて嬉しそうな顔で、そう言った。
「ありがとう、名雪。俺も名雪が好きだよ。でも、今はまだ、そんな気持ちにはなれない」
「うん、解ってるよ。祐一のことはなんでも。だからずっと待っているんだよ。祐一がいつか私の気持ちに答えてくれる日まで。それまで、私はずっとそばにいるの。祐一を助けてあげたいの」
涙が出てくる。
名雪の愛に。
名雪の悲しみに。
名雪の強さに。
名雪の弱さに。
そして、俺の情けなさにも・・・。
俺は何処へ向かうのか、まだ解らない。
だけれど、歩いていく。
俺は一人ではないから。
真琴が、秋子さんが、香里が、そして・・・名雪がいるから。
だからもう立ち止まらない。
歩き続ける。
いつまでも、見えないゴールを目指し。
未来という名の、ゴールへと。
名雪と共に、歩いていく。
未来へ・・・