「はぁ、はぁ、はぁ」
 俺はだるい身体に鞭打って、あの丘に向かっていた。
「はぁ、はぁ、今日はなにかあるんだろ、真琴? 」
今日になって、真琴の夢を続けてみるなんて、絶対おかしい。
そう思って、俺は肉まんを買い、丘に向かった。
もしかしたら、なんて期待しながら・・・。


Kanon 「未来へ・・・」 第三話ーA


「はぁ、はぁ、はぁ」
 俺の目の前には、以前とまったく変わらない、丘の姿があった。
「何処だ! 真琴! 居るんだろ? 出てきて、俺の前に来てくれ! 頼む! 」
力の限り叫んだ。
俺には奇跡を祈ることと、そうすることしか出来なかったから。
「真琴! 頼むよ、俺にまた、いたずらをしてくれ! なあ、もう怒らないから、働けなんて言わないから! 」
泣きながら叫ぶ。
苦しい、身体が重い。
口が重い。
それでも俺は叫ぶ。
「真琴! 神様、居るんなら真琴を、真琴を俺に! 」
そう叫んで、俺は気を失った。



「うっ」
不意に冷たいものが俺の額に乗った。
「あっ、気が付いたのね」
「香里・・・」
俺は香里に膝枕をされ、ぬれたハンカチを額に乗せられていたみたいだ。
「なんで、ここに・・・」
「あなたの調子が悪そうだったから、送っていこうとしたら、全然違う方向に行くから、つけてきたのよ」
「そうか・・・」
その時、香里が俺と同じ顔をしたのを見逃さなかった。
「なあ、香里」
「なに?」
「聞いてたんだろ、さっきの」
ちょっとためらってから、香里が言う。
「ええ、ごめんなさい」
「いいんだ。聞いてくれるか、病人の昔話を」
「いいわよ」
そして俺はぽつり、ぽつりと真琴のことを話す。

「昔、俺がこの町に居た事は話したよな?」
「ええ、名雪から聞いてるわ」
「そうか。その時に、俺はこの丘で狐が罠に掛かって、怪我してるのを見つけたんだ。それで俺は怪我が治るまでと、狐を家に連れて帰った。秋子さんたちには内緒でな、でもばれてたらしい。名雪は気付かなかったみたいだけど」
「あのこらしいわね」
そう良いながら、香里は笑う。
「最初の頃は一緒に遊んでたんだけどな、俺が沢渡真琴と言う人に出会うまでは・・・」
「沢渡真琴?」
不思議そうに首をひねる。
「そう、沢渡真琴だ。その人は年上で、優しかった。初恋だった。でも・・・」
「でも?」
「信号を渡ってた俺に居眠り運転の車が突っ込んできて、俺をかばって死んでしまった・・・」
「えっ!? でも、真琴さんを探してたんじゃ・・・」
そう言って、香里はまた首をひねる。
「まあ、まて。それで俺は家で、狐を抱きながら、泣いた。それから、俺はこの丘に放した」
俺は一息ついて、真琴との出会い、そして別れまでを語った。

「まあ、信じられないかも知れないけどな」
「信じるわ。さっきのあなたを見れば、本気だってことぐらい分るわよ」
 どうもずいぶん恥ずかしいところを見られたようだな。
「それより、まだ立てないの? そろそろ、足がしびれてきたんだけど・・・」
そういや、膝枕してもらってたんだ。
忘れてた。
「いや、もう立てるようにはなったんだが、あまりにも気持ち良くてな」
「・・・」
うわっ、怖い。
すごい目で睨まれてしまった。
しぶしぶ、香里の前に座る。
「ちょっと、立つのはきつそうだ」
「そう。じゃあ、今度は私の昔話をしてあげる」


「私にはね、妹が居るの。ううん、居たのが正しいかな? 」
「居た? 」
「そう、去年の2月死んじゃったんだ」
 そう言えば、何日か香里が休んだことがあったな。
「私は栞、あっ、妹の名前ね」
「栞? もしかして去年学校の中庭に立ってた娘か?」
「あら、知ってたんだ」
そうか、あの娘死んでしまったんだ・・・。
「あの娘、昔から病気に掛かってたの。でも、私は栞のことが大好きだった。学校にあまり通えない栞に勉強教えてた。あの娘、すごい頑張って勉強してた。一度疑問に思って聞いてみたの、なんでそんなに一生懸命勉強するの? って。そしたら、夢なんだって。私と同じ学校に通って、私とお弁当食べて、一緒にに帰るのが。たった、それぽっちの夢」
「・・・」
俺は無言で聞く。
「そして、試験を合格して、やっと待ちに待った入学式の日。栞が倒れたの」
香里は辛そうに言葉をきる。
「それで今度の誕生日までは生きられないって、医者に宣告されちゃってね。私は悲しくってしょうが無かった。それで悲しみを押さえるために私どうしたと思う? 」
少し考えたが分らないので、聞いてみる。
「・・・、ちょっと、分らないな」
「妹をもともと居ないんだと思うことにしたの。そしたら悲しまなくって済む。そう思って・・・」
「そうか・・・」
「で、そのまま栞、死んじゃった。本当にあっけなく。でも綺麗な顔してた」
「香里・・・」
香里は泣いていた。
泣きながら話を続けた。
「それから思ったの。やっぱり悲しいや。居ないなんて思いこんでも無駄だった。だったら、あんな態度取らなければ良かったって。だからね私、みんなに優しくなろうって決めたの。そうすることで、悲しみから逃げようとしたの」
「香里、おまえ・・・」
「でも、栞のことは、誰にも言えなかった。はじめてよ栞のことを、他人に話すのは」
俺達は、手を取り合って涙した。
悲しみを全部流すように。
「香里、頑張ろうな」
「そうね、それに早くしっかりしないと、真琴さんや、栞に笑われちゃうもんね」
「ああ、そうだな」
「それにしても肉まん冷えちゃったわね」
「食べるか、香里? 」
「そうね、貰うわ」
さめている肉まんを二人で食べた。
しょっぱかった。
でも、おいしかった・・・。

 俺達は歩いていく。
これからも生きていく。
長い人生の中で、大切な出会いがあった。
大切な別れがあった。
それが自分の中で、どうするか?
どう考えるか?
どう、扱うか?
そこで止まってしまうのか?
それでも歩き続けるのか?
それを今、知った。
真琴、お前は香里と会うために、夢で教えてくれたんだな。
ありがとう、真琴。
俺はもう立ち止まらない。
俺達は歩いていく。
二人で・・・。

  未来へ・・・



  あとがき
 終わった・・・。
疲れた・・・。
この話書いていて、辛かった。
それから、すいません、栞ファンのかたがた、栞を殺してしまいました。
でも、この話は私にとって、主人公and香里救済SSとして書かせていただいたものなので、
仕方が無かったんです。
私も栞好きなので、書いていてかなり厳しかったんです。
だから、剃刀入りのメールとかやめてください。
それでは、また。
 BASARA

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