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The1000thSummerStory 『Re-Birth2』

神奈さまに乾杯



第一話 「まなびや」



学校まで近づいてくると人影も多くなってくる。
その中を観鈴と神奈は仲良く手を繋いで歩く。

「観鈴、上機嫌だな」
「うん、神奈ちゃんは?」
「うむ、わくわくじゃ」
「にははっ」
「ぶいっ」

姉妹であり、親友であり、そしてもう一人の自分が楽しいとお互いに感じると、
自然に笑みが浮かんでくる。
その二人を出迎えるように同じく微笑む美少女が一人、こちらを見つめている。

「あ、遠野さん、おはよう」
「おはよう美凪」
「……おっはー」

静かな物腰ながら想像もできないギャグを使う美凪も二人の親友でもある。
何となくその容姿の母の面影を見いだす神奈は、裏葉と同じぐらい美凪の事が気に入っている。

「……観鈴ちゃん」
「うん?」
「……わたしのことはなぎーと呼んで」
「えっ」
「……なぎー」
「え、えっと、美凪ちゃんじゃだめ?」
「……ちぇー」
「が、がお……」
「……それは次回に」
「う、うん」
「……神奈ちゃん」
「なんじゃ美凪?」
「……進呈」

すっと差し出される封筒は、いつものお米券である。

「……お勉強がんばりま賞」
「う、うむ……」
「に、にはは……」
「……分からない事、教えてあげます」
「うむ、よろしくたのむ」
「……はい」

裏葉と違い美凪に母の姿を感じる気持ちが神奈を素直にさせているらしい。
なんとなく頭を撫でてしまう美凪にされるままの神奈だった。
そこに元気一杯に走ってくるもう一人の親友が、三人を追い越してから止まった。

「おはようみんなーっ!」
「おはよう佳乃ちゃん」
「おはよう佳乃」
「……おっはー」
「ん〜、神奈ちゃんの制服姿、可愛い〜」
「む、むぅ……」
「ん〜すりすり……」
「く、苦しいぞ佳乃」
「え〜、もっとしたいしたい〜」
「……わたしも」
「じゃあ観鈴ちんも♪」
「こ、こらっ、よさぬかっ……」
「「「(……)可愛い〜」」」
「うが〜っ」

朝から揉みくちゃにされる神奈は嫌がっていたけども、満更でもないのか顔が笑顔で真っ赤になっていた。
こう言う経験も初めてで新鮮だった神奈は最後方は抵抗するのを諦めたのか、三人の
なすがままにされていた。
……しかし、これが前兆の出来事と神奈は気が付かない。

「神尾神奈じゃ、よろしくたのむ」
「名前の通り神尾観鈴の姉妹だそうだ、みんな仲良くな」

緊張のためか神奈の簡潔な自己紹介の後、先生が後を引く次ぐ。
席は先生の配慮かはたまた晴子の暗躍か、観鈴の隣になっていた。
そして一時間目が終わった後、それは起きた。

「どうかな、初授業は?」
「うむ、わからん」
「にはは……」
「……ファイトです」
「うむ、逃げるのは嫌じゃ」
「一緒にがんばろうね」
「うむ、がんばって裏葉を見返さぬとな」
「……その調子です」
「あの……」
「なんじゃ?」

その声に振り向いた神奈は、自分を見つめる大勢の女子たちに驚き目を丸くした。
観鈴も口を開け、美凪はただ黙って静観していた。

「「「…………」」」
「余に話があるのではないのか?」
「「「…………」」」
「無言ではわからんぞ」
「「「か………」」」
「か?」
「「「かわいい〜」」」
「な、なんじゃっ!?」

女子たちに揉みくちゃにされる神奈を唖然と見ていた観鈴に、委員長の川口茂美が
肩を叩く。

「川口さん」
「病気、良くなったのね」
「うん、ありがとう」
「ううん、こっちこそごめんね、お見舞い行けなくて」
「うん、気にしてないから」
「それじゃ質問していいかなぁ?」
「なに?」
「あの娘は妹なの?」
「え、えっと、その……お姉ちゃんかなぁ」
「はい?」
「う、うん、お姉ちゃんだよ」
「そうなの、てっきり妹さんかと思ったけど……小さくて可愛いしお人形さんみたいね」
「にはは〜」
「……神尾さん、変わったわね」
「え?」
「うん、なんかこう空気が違うって言うか、以前みたいに張りつめてないって言うのかなぁ」
「……正解」
「遠野さん?」
「……らぶらぶ」
「美凪ちゃん!?」
「え、それってもしかして!?」
「……ぽっ」
「ふ〜ん、なるほどね〜」
「に、にははっ……」
「……わたしは愛人」
「「へっ!?」」
「……冗談です」
「なるほどなるほど、いろいろあったようだから後で聞かせて貰おうかな?」
「にははっ……」

観鈴は会話しながら、内心嬉しかった。
以前ならこんな風に話したかった事が、今できていたからである。
これも往人さんのお陰だねと、心の中で感謝していた。
だからかもしれない、すっかり神奈の事を忘れていた。

「うが〜、放さぬか〜!!」
「「「超可愛い〜」」」
「こらっ、変な所さわるでないっ」
「「「あ〜ん、持って帰りたい〜」」」
「余は人形ではないぞ〜っ!」
「「「え〜」」」
「観鈴〜、美凪〜」
「が、がお……」
「……ぱちぱちぱち、人気者で賞」
「お米券よりも助けるのが先じゃっ!」
「……がっくし」
「あ、美凪ちゃん……」
「あははっ、確かに萌える物があるわね」
「うが〜っ!!」

結局、休み時間ごとに入れ替わり立ち替わり抱きしめられ弄ばれる神奈だった。
そしてお昼休み、四人でお弁当を広げる。
裏葉のお弁当をリスのように頬ばる神奈は、むくれているらしいのか、ひたすら食べていた。
観鈴も同じお弁当を食べながら苦笑いをして、なんとか神奈のご機嫌を取ろうとしたが、
ことごとく失敗に終わり静かに食べる事にした。

「え〜、あの騒ぎやっぱりそうだったんだ〜」
「うん、もう神奈ちゃん大人気だったよ」
「……よし」
「何がよしなのじゃ……」
「あれ〜、どうしたの神奈ちゃん?」
「佳乃も同じことして貰うがよい、余の気持ちが分かるぞ」
「あははっ、遠慮するね」
「むぅ……それにしても観鈴、恨むぞ」
「え〜、何でわたしだけ!?」
「姉妹のくせに見捨ておって、今日の往人は余の独占じゃ!」
「あー、それずるいよ〜」
「薄情者の言葉を、余は知らぬ」
「が、がおっ」
「……観鈴ちん、がんばっ」
「ありがとう、美凪ちゃん」
「むっ……あ」
「……神奈ちゃん、なでなで」
「うわ〜、遠野さんすごい〜」
「……ぶい」
「神奈ちゃんて美凪ちゃんにそうされるの嬉しい?」
「み、観鈴、なにを言うのじゃっ!?」
「……よしよし」
「あぅ……」
「だってね、とても幸せそうな顔してるよ」
「うっ」

すっかり母親気分なのか、朝と同じくすんなり行う美凪に
頭を撫でられて、頬を染めておとなしくなる神奈だった。
まあ、家に帰ればちょっと怖い母親もいるから尚更なのかもしれない。

「くしゅっ」
「どうした裏葉、風邪か?」
「いえ……」
「夏とはいえ、朝方まで裸だった……」
「柳也さま!」

晴子が仕事で居ない神尾家で、留守番の立前で二回目の新婚ごっこをしている二人だった。



つづく。


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