耳をすませば イメージアルバム

1995年2月25日発売 徳間ジャパンコミュニケーションズ 2913円(税抜) TKCA-70597


「耳をすませば」イメージアルバム・ライナーノート

このアルバムは宮崎駿さんから絵コンテとともに渡された、言葉によるイメージスケッチに沿って作りましたので、ここでもそれを引用しながらお話します。このイメージスケッチは詩のような言葉で書いてあり、そのまま曲に使ったものもあります。

1.丘の町
見慣れた平凡な風景が、ある時ふいに美しく見えるときってあるますよね。この物語は、身の回りや自分の中に、光り輝く何かを見付けるお話です。
心の動きだけが、その辺に転がっている、だが隠れている何かに光をあてることが出来る、ということです。

2.コンクリート・ロード
この丘の町は経済成長期の開発がもたらしたものです。町の開発、生活の改革、そういった物質的近代化がすぐに古びてしまう、ということを音で表してみようと思いました。

3.コンビニエンス・ストア
「ふりかえるとそこだけ輝く光のゾーンが遠ざかっていく。ほら、角をまがったっとたん、あそこがまたなつかしくなる」
僕らにとっても主人公雫にとっても、コンビニエンス・ストアは素敵とも思えない光景です。かつて僕が飯田橋で深夜のコンビニに入ったら、その煌々とした光の中で、レジの店員がロック・ギターの練習を思いっきりやっているのに出くわしました。このアルバイターの幻想を曲にしました。

4.半分だけの窓
雫の部屋の小さな窓から見える夏の日の午後の空、といったイメージです。雫の心にヴァイオリンの音が反響したかどうかわかりませんが、僕にはそれが聞こえました。

5.怪猫ムーン
「丘じゅうの猫と犬をバカにしていて 人間なんかぜ〜んぶシカトして あっちこっちでいろんな名前で呼ばれていて
とってもさみしそうなのに とっても元気な へんな猫」
「ピーターと狼」の猫(クラリネット)よりずっと太ってるようなので、バスクラリネットにその役を任命しました。

6.地球屋にて
「この店の中にあるもの達は その昔職人達が心をこめて作ったものばかりなんだよ(中略)
ゆっくりゆっくり言葉をかけながらなおしていくと、少しずつみんなが話してくれるようになる・・・職人達が、どんな想いで木を削り、ニスを選んだかを・・・」
西司郎たち楽器仲間の集いの一コマです。西のヴィオラ・ダ・ガンバをはじめ、ここでの楽器はすべてヨーロッパの18世紀以前のものです。軋むような木の楽音に昔の職人の心が聞こえるでしょうか。

7.バロンのうた
猫の置物のバロンは雫を導いて物語の世界へ誘います。その力強い呼びかけには、彼の人生の光とそして影をも反映しているようですが、やはり彼は魔法で作られた案内人なのだ、と思って作曲しました。

8.ヴァイオリンをつくる少年
「だれもいないアトリエの片隅で、少年は自分の夢を削りだしている。(中略)
生まれた日から十数年に たくわえてきた経験のすべてと
覚醒した感覚の研ぎ澄まされた一点を 丸のみの刃先にそえて
ヴァイオリンを 未来を 音楽を かぎりない遠くを 削りだしている少年」
少年の修行は厳しいものでしょうが、僕はヴァイオリンの甘美さ(音も形も)と、少年の夢というところを描いてみたかったのです。

9.夜明け
早起き(僕の場合は夜更かし)は三文の得です。空や町が光を帯びてくる時を知っている人ならわかるでしょう。心さえ開けば、そして寝坊さえしなければ、自然が毎日美しい時間をプレゼントしてくれるのに気がつくわけです。

10.カントリー・ロード
ジョン・デンバーの名曲ですが、今の時代の故郷って何か?コンビニや造成地や構想アパートしか無いような故郷とは?という問いがこの歌の採用に込められているような気がします。耳をすませば、東京育ちの僕にはこんなカントリー・ロードが聞こえてきた、ということです。

野見祐二


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