COMIC BOX 1995年9月号

1995年9月1日発行 フュージョンプロダクト 本体728円+税 雑誌03959−9


160ページ中、半分の80ページもの大特集を組んだ、雑誌コミックボックスです。スタッフへのインタビューが特に充実しています。表紙は近藤喜文さんの直筆です。「雫と聖司。あの後二人は離れ離れになったけど、一人はこの街で、一人はイタリアで、しっかりと自分を見つめながら生きていくことだろう。」

 

「この夏、ジブリ(熱風)がまた新しい地平に吹いた。ベテランアニメーター近藤喜文が初監督を務めるスタジオジブリ最新作「耳をすませば」。現代社会のこの国に生きる若者たちを描き、ありふれた日常の中にドラマを作り上げる。爽やかに、健やかに、そして力強く。ジブリの持つ確かな表現力で。この特集では、この作品が”今”果たしている役割と、ジブリの現在と未来を探っていきたい。」

特集耳をすませば WHISPER OF THE HEART

キャラクター紹介

【「聖蹟桜ヶ丘の様な、普通の街で生きる普通の人々」をコンセプトに、宮崎プロデューサー、近藤監督、高坂作画監督が共同で作り上げたキャラクターたち。月島雫をめぐる人々をここで紹介しよう】ということで、主要な登場人物が絵とともに紹介されています。ここには、雫の父が「靖也」、母が「朝子」であることが書かれています。

名場面集【雫の住む街】

【「耳をすませば」は、日常のありふれた景色の中に輝くものがあることを教えてくれる。雫や彼女の周りの人々を包む世界を見ていこう。】ということで、ストーリーの沿って様々な場面が載せられています。

鼎談 近藤喜文+白井佳夫+鈴木敏夫
「トトロの出ない『となりのトトロ』をやりたかったんです。」

【「耳をすませば」をシナリオの段階から注目し、ジブリの今後に期待を寄せる映画評論家・白井佳夫氏の発案により、近藤喜文監督、鈴木敏夫プロデューサーとの鼎談が実現した。話は作品論からジブリの映画作りに対する姿勢、日本映画界の現状へと広がっていった。三氏の熱い思いをここに。】

「耳をすませば」の出発点
 近藤喜文:「コナン」とか「赤毛のアン」の頃に少年と少女の出会いの話をやりたいと思った
 鈴木敏夫:子どもたちはこれからどういう時代を生きねばならないのか無関心でいられない
 白井佳夫:この映画は正に耳をすませて目をすませてじっと見る必要がある

今の日本を描くということ
 近藤喜文:団地やコンビニが出てきたりするのが子供の世代にとっての原風景
 白井佳夫:雫の通う学校の門。あれは校門圧死事件の時の門と同じ造りですね。

「結婚しよう」のリアリティ
 鈴木敏夫:映画のコピー「好きな人ができました」は娘からお父さんへ言って欲しい台詞だろうなと思った

日本映画がなくしたもの
 鈴木敏夫:日本映画は駄目だという時に、映画館問題というものはもの凄く大きい
 白井佳夫:ジブリがこの作品の次にどこに行くんだろうって、手に汗握りながら思いますよ。

スタッフインタビュー
監督 近藤喜文

「苛烈な恋愛ものをやろうと思ったわけではなくて、基本的に少年と少女のさわやかな出会いをやりたかったんです。だから「ラブストーリー」といわれると戸惑いがあって「こういうのを」ラブストーリーというのか?」なんて思ってるわけなんです。」
「今っていうのをものすごく意識していたか言うと必ずしもそうでもなくて、今の子供達っていった時に、どういう風に見るかって問題だと思うんです。理想化してて描いている部分もあると思います。だけど、全くそういう子がいないかっていうと、そうじゃない。ダメなものをダメに描いてダメって言う事は、不毛だと思うんですよ。本当はこんな風にもなれるし、こういう風にやっている人もいるんだっていう事を見せた方がいいですよね。」
「かなり現実的でありながら、どこかロマンチックにする仕掛けみたいなものが、非常に良く出来ていて、飛躍的でまったくウソだという風にならないですね。最後まで十分引っ張ってうけるという風な構造を持っていると思うんです。」

作画監督 高坂希太朗

「早く、安く」のはずが、コンテを見て「話が違うぞ」と思いました。「雫が一番難しいですね。未だに描けないですね。比較的、夕子は誰が描いても似るんですけど、雫は何か、一種独特で。」「結構、見た後、元気が出るって言うんですか。普通は、身近な存在を見て、慰められて元気が出るみたいな作品が多いじゃないですか。この作品の雫は、すごく強い子ですよね、逆に自分とはぜんぜん違うタイプなんだけれども。彼女をみていると元気がでますね。」

原画 小西健一「演奏シーンを自由にやらせてもらった」・吉田健一「足を踏み出すところで3,4回直された」・笹木信作「フラれる杉村に尊厳を保たせようと」・遠藤正明「その時の空間の中に自分がいなきゃダメ」・賀川愛「もともに原画書いたの3年ぶりなんです」・百瀬義行「自然に描くというのが難しいです」

美術黒田聡+美術ボードピックアップ

「リアルさよりも綺麗さを感じてくれればいいと思います」「普段の風景の汚れた部分」「昼間そ空が難しい」「ぽんぽこのラストシーンとオーバーラップする最初のシーン」

「バロンのくれた物語」美術 井上直久+アートギャラリー「イバラード」

イバラードについて「現実の凄い所、素晴らしい所を抽出して描いているだけなんです」
「前半は、主に普通のマンションの中で、現実の色を少し整えたという印象だったんです。ところが中盤の地球屋あたりから色が深くて、しかも冴えてくるんですよね。あれは日常生活が美しいというメッセージだと思います」「イバラードっていうのは別に現実感のない世界のことではなくて、なんでもない、ちゃんと見る気になれば、見ることのできるせかいなんです。そういう現実の美しさというのものを指摘している映画だと思うんです。」

撮影 奥居敦&CG制作菅野嘉則+映像技術あれこれ

朝日の昇るラストシーンですがね。ジブリにあるカラーコピーでOHPの素材が作れるんですが、それを利用しました。後ろから光を当てることで背景自体も光り輝く。背景に描いているものをそのまま生かして光らせることができるんです」「井上直久さんが美術を担当された飛ぶシーンのデジタル合成ですね。今回の作業はすでに撮影が終わってフィルムになっているものを、コンピューターのデータにして、合成して、もう一度フィルムに戻すというものです。」

色指定 小野暁子&大城美奈子+ジブリ色へのこだわり

「色自体が決まらなかったですね。なかなか、雫のイメージっていうのが一杯わいてきてかえって混乱してるっていうこともありましたからね。」

音楽 野見祐二

「今の日本人にとってのカントリー・ロードを作ろうと思いました。」「近藤監督とは、非常にウマが合いました。純情派ですからね。近藤監督は。僕もまぁ、清純はだと思ってますんで(笑)。ですから、この映画自体が清純なものになるように、宮崎さんは近藤監督に託したんだと思うし、うまくハマったという感じはしますね。

キャストインタビュー
月島雫 (本名陽子)

「雫はほとんど地です。もう生活そのものです。雫は私の全てって感じです。明るくて、素直で、ああ、何か恥ずかしい(笑)なんだろう、その素直ってのは、思ったことが全部顔に出ちゃうって、隠しても無駄って所ですね。そういうところと、男の子との接し方がすごく似てますね。異性っていうんじゃなくて、ホント友達っていう感じなんです」
「杉村が告白する時に『行け!!行け!!押せ杉村っ』とか、そういうコメントが(絵コンテに)書いてあるんですよ。本当に楽しくって。」
「『最後の坂は何でそこにあったのか。たまたまじゃないんだよ。その坂道っていうのは、雫にとっても聖司君にとっても、初めて一緒に苦労して上ったという意味で重大な坂なんだよ』って。そういうことだったのかって二人でその時初めて気が付きました。この映画って本当にすごいって思ったんです。」
「主題歌は懐かしいなって本当に思いました」

バロン (露口茂)

「宮崎さんから依頼されたんですが、何しろアニメで、しかもネコの声をやるだけなんて初めてですし、こういうのはむしろ専門の方がいらっしゃるでしょうと、まずはお断りしたんですよ・・・宮崎さんと話しているうちにその魅力に引かれ、、、やはりこの宮崎さんとの貴重な出会いを大切にしたいなと思い、引き受けることにしました。」
「なかなか自分で納得がいかないものですから、何度も自分からお願いして取り直させてもらったんです。何しろ猫である上に、全体のドラマの中でも核というか重要な役ですからね。台詞はほんの何行かですけどすごく重い。」

スタッフインタビュー
制作担当 高橋 望

アニメの音質の悪さをデジタル化によって解決しようとしました
「宮崎さんとしては、今回ドルビーデジタルシステムを入れるだけじゃなく、音響全体のレベルアップをしてゆきたいという思いを持っていましたね。・・・とにかく宮崎さんの意志に沿った形で、音響を作りあげようと。かくして日本初、フル国産のドルビーデジタルによる音作りがスタートしました。」

監督助手 伊藤祐之

近藤さんと”おじさん対若者”みたいな感じでもめたりもしました
「内容面で僕が抱いた疑問などに対して、監督なんですから頭ごなしにしてもいいはずなのに、耳を傾けてくれるんです。そして、宮崎さんがどんな気持ちで絵コンテを切ったのかを”おじさん”というより、監督としての解釈で、僕に話してくれるんです」
「例えば宮崎さんの雫像は「悩んでも溜め息をつくことはあっても、すぐに現実に立ち向かえる」強い子なんですが、近藤さんの場合、特に意識したのかは分かりませんが「一生懸命なにかに向かっていても、悩みがあるとつい手を止めて、遠くを見つめて溜め息をついてしまう」といったところの等身大の女の子として雫が捉えられていたようです。」

監督助手 大塚雅彦

最終段階にきて粘る近藤さんはやけに生き生きしていました。
「最後の日の出シーンは、素材的に完璧な段階まできて、最終的な撮影の微調整で近藤監督に粘られまして、そういうときの監督はやけに生き生きしているんですが、その粘りが、最終的に実ったシーンだと思います」

制作部座談会 川端俊之+田中千義+西桐共昭

スタッフは「質は追及してくれ、でも早く上げてくれ」と言うしかないんですよ
「自分の仕事によって、質を落としめたくないという気持ちを抱えてる。それが集まって作品全体の質を維持しているってことはあるでしょうね。もっとも変なことをすると上から雷がおちることがありますから(笑)」

制作担当 奥田誠治

昼は自分の仕事を終えて、深夜のジブリに足しげく通いました
日本テレビの奥田さんは、長年ジブリ作品とかかわり、今回も製作担当を務める。ジブリの成功を現場で支えた最大の功労者の一人、と鈴木プロデューサーも信頼を寄せる

批評
井上ひさし:月島雫はなぜ「開発」と書いたのか〜現実を受けとめる力強さ〜
佐藤忠男:美術映画という呼び名にふさわしいアニメーション
おかだえみこ:私達、胸のすくアクションファンタジーが見たいんです。
廣木降一:懐かしいリアルな風景で「故郷」東京を描くという挑戦
佐藤健志:中途半端な夢の果て〜「少女マンガアニメ」の破綻〜
中島紳介:当たり前の描写のこだわりに作り手の明確な意思を感じた
大月隆寛:今・ここから生きる人々への抑圧となるオヤジの浪漫主義的自閉
外山草:奇蹟と隙間が随所に素敵に描かれている「嬉しく」なる映画
切通理作:万に一つもない偶然よりも、最初から冒険物語を見せてほしかった
藤田昌裕:「耳をすませば」と「東京姉妹」−東京にロマンは存在するのか
大西赤人:雫のほうにドンと威勢良く愛の言葉を叫んで欲しかった

特別寄稿
高畑勲

この映画を見て印象深かった3つのこと
「その一つはマチの魅力のことです。私達はムーンという太めのネコに導かれて、主人公雫とともにワクワクしながら高台のマチの秘密を発見します」
「2つめは、あのキザは地球屋主人、西老人に託された宮崎駿のメッセージです。きみたちは、殩然たる宝石へとみずから研ぎだすべき貴重な輝きを秘めた荒削りの原石なんだよ。」
「三つ目は、宮崎駿自身にとってはいざしらず、近藤監督指揮のもとにこういう「宮崎アニメ」がちゃんと出来上がったことへの感慨です。」

ストーリー&キャストリスト


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(C) Ryoukan