(うーん・・・)
眠気眼に差し込む光を手で遮って眺める・・・
(ん?)
そこはいつもの部屋とは違っていた。
(ああ、そうか・・・)
そう頷いて、側に寝ている耕治の鼻をつまむ。
「うぅーん。」
寝返りを打って再び寝てしまう耕治をいとおしそうに眺めている。
(幸せって、こんな感じなのかなぁ?)
まんざらでもない・・・。
留美はそう思って、重い瞼のブラインドを下げると、耕治に寄り添う。
ぽかぽかと日が照る中、パジャマ姿の2人はそのまま夢を見ていた・・・
8月27日。
2人にとって、これ以上に無いほど晴れ渡った空が広がっていた。
耕治はその時、夢を見ていた。
留美と一緒になったり、離れ離れになったり・・・
不安でどうしようもなくなり、夢の中でもがいている自分を感じた。
半年後・・・
ある晴れた日・・・
「だぁー!」
「きゃー!」
雄叫びとも絶叫とも聞こえんばかりのさけびをあげて、2人は素早く着替えると、キャロットに向ってダッシュする。
「急いで・・・留美さん!また、涼子さんに・・・!」
そう言いかけて、耕治は立ち止まる。
「ど、どうしたの?急がないとお兄ちゃんにも大目玉だよ!」
留美はそう言った後に耕治の視線を追うと・・・
「あら2人とも、どうしたの?今日はお休みだから、ゆっくりお店でご飯でも?」
と涼子が優しく笑う。
オーバーオールを着てコンビニの袋を下げているので、散歩でもしてきたのだろう。
「え?・・・」
(散歩?・・・お仕事は?)
2人は顔を見合わせた。
「全く、耕治君ったら人騒がせなんだから・・・」
「留美さんも乗ってたじゃないですか。」
そう言われると、グッと止まってしまう。
「だいたい、どうしてバイトの日と間違えちゃったの?」
留美はいぶかしげな様子で耕治につめよると、耕治はしばらく目を泳がせていたが、やがてある所に目を止める。
「ああ、オレ同じ色でチェックしてたんだ・・・」
耕治は独り言を言うように呟くと、カレンダーの赤丸を青で塗り直す。
「何の印?」
身を乗り出す留美。
「ああ、赤はバイトですよ。で、青は・・・」
そう言いかけて、耕治は、
「さて、もう目が覚めたし、朝ご飯でも作りましょうか!」
と逃げてしまう。
「まって!留美に教えてよー!」
「・・・・・・このお皿無効に持っていって下さい。」
「ねぇー。」
「・・・・・・」
「お・ね・が・い。」
そう食い下がって、やっと口を開いたと思ったら、
「秘密です。」
とつっけんどんな答えをする。
「お・し・え・て。」
色気で仕掛けでも、
「駄目です。」
あっさり返されるし、朝食の最中に、
「このコーヒーおいしいね。」
と言っても、
「インスタントです・・・ちなみにお世辞を言っても駄目ですよ。」
とあくまで耕治は教えない構えである。
憮然としていた留美だが、段々どうでも良くなったようで、いつもの会話に切り替わる。夕方になるまで耕治と一緒にいたが、つかさに会うといって留美は帰っていった。
(やっと帰ったよ・・・)
耕治がため息をついて留美の後ろ姿が小さくなって行くのを確認すると、急いで部屋に戻り、電話をする。
「あ、もしもし、オレです。・・・はい・・・じゃあ、7時にはそちらに向います。・・・はい。じゃあ・・・」
(ふぅ・・・)
耕治は急いでジャケットを羽織ると、アパートを出て行った。
「あ、来たな!」
裕介は耕治を確認すると、手を振る。
「どうも、じゃあ今日もお願いします。」
2人は裕介の車に乗り込んだ。
「最近、留美とはどうだい?」
「えっ!」
耕治は思わず、ぎょっとした声をあげてしまう。
裕介はぎこちなく笑うと、
「すまない。一応、兄としては心配だからね・・・」
そういって視線を再び前に戻す。
耕治は困ったように、
「いや、留美さん活発だから・・・どうも気後れしちゃって・・・」
耕治はため息交じりの声で話す。
「進展が無いわけだ。」
「・・・ハイ。」
耕治は流れて行く景色を見ながら、留美との間に流れて行った時間を重ねて考えてみた。
・・・・・・
耕治と留美の仲を知らない者はいないだろう。
お陰で耕治は進学を辞めて、バイトを続けることにし、1号店にもヘルプに行くくらいになってしまっている。今では留美が2号店にレギュラーで入っているのだが、ちょっと前までは皆に、
「留美さんがいるから」
と茶化されていた。これはこれで恥ずかしいけど、嬉しい。
(それでもなぁ・・・)
それからの2人といったら、泊りに来る回数が増えただけで、キスさえままならない。
結局、裕介の結婚式の帰りに1回きりである。
(パジャマとか着るし、隣で寝るしなぁ・・・でも、その先はなぁ・・・あああ・・・)
耕治は頭を抱える。
裕介はそれを見て笑うと、
「まぁ、気長に頑張れ。男として応援するよ。」
とだけ言った。
夜遅く帰るとけたたましい騒音が聞こえてくる。
耕治が帰ってくる前に留美が来て、耕治の不在のために葵の部屋に遊びに行ったのだろう・・・奇声がアパート中をこだましている。
(今日は、こんな感じだとこっちには来ないな。)
ため息を吐いて、着替えてシャワーを浴びる。
「ふぅー。」
(???あれ。)
何だか奇声が大きく聞こえる。
(それに、何だか近いような・・・)
はっとして電気を消そうとする前に、扉が開く。
「さぁー、本番が始めるわよぉー。」
「イエーイ!葵さんってば素敵―!」
葵と留美、それとうつろな目を据わらせた涼子が勝手に上がり込んでくる。
(ははは・・・)
嬉しさ半分、耕治は脱力感を覚えていた。
耕治はカレンダーに残った青い丸印をちらっと見ると、
「さぁ、葵さん、オレも入れてくださいよー!」
と宴会に身を投じていった。
朝・・・
「うーん・・・」
目覚めると、体が重い。
(そうか・・・葵さんと飲んで・・・)
昨夜の事が思い出される。頭はさえはじめいるのに身体は正反対である。
耕治はなかなか開かない目をこすると、
(何時だろう?)
そう思って時計を見ようと目を開けると、
「う・・・ん」
と隣から甘く切ない声が耳に残る。
相変わらず留美がすごい寝相で耕治に絡み付いている。
(あ、・・・留美さん)
慣れてしまったとは言え、やはり目にも意識にも毒である。
耕治はぱっちりと開いた瞳をぎょろつかせながら、留美の寝顔の先にある胸の谷間に目を届かせようとする・・・
(ブラが少しだけずれている!)
あとちょっと・・・というところで、
「うーん・・・むにゃむにゃ・・・」
と寝返りを打ってしまう留美。
(こんなに側にいるのに・・・)
手が出せない自分がもどかしい。
(いっそのこと・・・)
とは思ったが、後の凄惨な状況を考えるととても実行には移せない・・・。
結局、天井をみつめ、
「はぁー・・・」
酒気を帯びたため息が、宙を舞った。
「うーん、おはよう!」
元気いっぱいに耕治に抱き着き、
「留美、今日はお昼からだから、耕治君を送ってあげるー!」
といっててきぱきと動き出す。
こういう宴会の後、葵さんは後を引くのに、留美は元気いっぱいになのを見ていると、案外「宴会大魔王」の正体は留美かもしれない。
耕治は後ろから押されるようにシャワーを浴びさせられ、パンを突っ込まれると、
「留美がきちんとお掃除しといてあげるねー。」
といって追い立てられる。
バタンっ!
「あのー・・・一応、ここ、俺の部屋なんですけど・・・」
と呟いた。
「・・・馬鹿・・・」
留美は掃除、洗濯をし、昨夜の残骸をポリ袋に入れて、片づけられた部屋にへたりと座り込んだ。
(わざわざ、葵さんには昨夜のうちに帰ってもらったのに・・・)
耕治の顔を思い出して、もう一度、
「バカ・・・」
と呟いた。
ため息を吐くと、春一番がその息をかき消す。
(もう、半年も経つんだ・・・)
半年経っているのに、キスすらままならない。
(私、魅力ないのかなぁ?)
そう思って鏡を覗く。
留美なりの努力で、耕治の家に押しかけて、泊まったまでは良かったのだが、耕治はそんな留美の勇気を露とも感じていないようである。
(きっと、ただ泊りに来るだけ、と思ってるんだろうなぁ・・・)
何だか自分が遠まわしに馬鹿馬鹿しいことをしているように思えるが、
(まさか自分から「して」なんて言えないし・・・)
というわけで後にも引けない。
留美はベットに飛び込んで、大きなため息を吐く。
そろそろバイトに行く時間が来ていた・・・
カレンダーには、今日の日付に最後の青い○印が書いてあったが、留美にはそんなことを気にする余裕はなかった。
「おつかれさまー。」
9時を回ると聞こえてくる声は、疲れながらもどこか溌剌としている。
「あ、前田君。お疲れさま。」
涼子は耕治を見かけるとにっこりと微笑む。
「はい、お疲れさまです。」
「あ、そうそう。さっき店長さんが、探してたわよ。」
「はい!」
耕治はそういってロッカーに向かっていった。
ドアを開けると裕介がいつものポーズで立っている。
「やあ、前田君。今日もご苦労様。」
「店長さん、今日で最後ですよね。」
「そうだ。半年間、色々あったけどね。さとみも前田君が物覚えがいいってすっかり感心してたよ。」
「そんな・・・全部。店長さんのお陰です。」
「じゃあ、今日も行こうか?」
「あ、はい!今すぐに支度します。」
2人がついたのは既に10時を回ってしまっていた。
裕介は誰もいない1号店の事務室で耕治と向かい合うと、真剣な顔をして口を開く。
「最後に・・・店長として一番気遣うものは、人の心だ。」
「はい。」
「前田君・・・君は店の人とお客様の両方の気持ちが分かるかい?」
耕治は首をかしげると、
「頭ではわかっているんですけど・・・本当にきちんとかわっているのかはわかりません。」
とハッキリといった。
裕介は満足そうに頷くと、
「そう。メンバーの皆と、お客様の両方の気持ちを完全に知ることは出来ない。僕だって、もう3年経つけど、まだ全然だし、オーナーも同じさ。けどね・・・」
「はい。」
「理解しようとする気持ちが一番大切なんじゃないかな?」
「理解しようとする気持ち・・・」
「そうだ。完全に理解するより、遥かに大事なことだ・・・。前田君、君は自分の好きな人の気持ちが理解できるかい?」
少し間をあけて耕治はかぶりを振る。
「いいえ。」
「では、理解しようとしたかい?その人が何を考えて、どういうことを心の底で感じているのかを・・・」
耕治は留美のことを思い出した。
(留美さん・・・いつも、どういう気持ちで泊りに来てくれたり、側にいてくれるんだろう?)
「わからなかったら、話せばいい。そうやって段々、わかるような気持ちになるんだよ。」
そう言うと、裕介の表情はいつもの優しい顔に戻る。
「さて、研修は全ておしまいだ。来月から、店長代理として頑張ってもらうから、そのつもりで。」
「はい。ありがとうございました。」
「・・・前田君。」
耕治は足を止めて振り返り、裕介を見る。
「留美と、仲良くな。僕の大事な妹だ。・・・頼む。」
耕治はいままでのはにかんだ表情ではなく、凛とした表情で、
「大丈夫です。任せてください。」
とだけ言った。
やはりと言うか、葵の部屋から留美がやってきた。
不思議な事に酒気を帯びていない。
「あ、留美さん、いらっしゃい。あと、ただいま。」
「うん、お、おかえり。」
「葵さんと・・・何かあったんですか?」
耕治は留美を覗き込もうとすると、
「何でもないっ!」
とぷいっと向いて先に部屋に入っていってしまった。
耕治は後からついて行くと、裕介の言葉が脳裡を過ぎる。
(理解しようとする気持ちが一番大切なんじゃないかな?)
・・・
(!)
瞬間、裕介が言いたかったことが判る。
耕治は深呼吸して、少し間を置いてから部屋に入っていった。
「留美さん・・・あの青い丸印のこと、まだ知りたいですか?」
「どうしたの?急に・・・」
いぶかしげな留美に笑いかけると、
「今日で終わったんです。研修。」
「研修?」
留美が目を丸くして聞き返す。
「はい。・・・実はオレ、2号店の店長代理になるんです。」
留美は的を得たような顔をすると、
「じゃあ、あの青い丸印は・・・」
「ええ、研修の日だったんです。・・・皆には内緒に、ってことだったんで、1号店でやってたんです。」
「そうなんだ・・・」
でも、肝心なことは何も進んでいない・・・。
留美は少し嬉しく、けれどもそれ以上に寂しくなった。
耕治はそんな留美の様子を見て、
「あと、もう1つ。もっと大事なことを言いたいんです。」
(え?)
留美の身体がビクッと反応する。
留美は恐る恐る・・・ゆっくりと耕治の方を見上げる。
耕治は留美が自分に顔を向けるまで待っていた。
そして留美を見つめ、口を開いた。
「好きです。・・・いや、それ以上に・・・言葉では表せないくらい好きです。」
「耕治君・・・」
「なのに、オレは留美さんのことをきちんと考えてなくって、留美さんを理解ししようとしなかった・・・でも、今なら判ります。留美さんの気持ち。全部じゃないけど、今も気持ちなら・・・」
留美は泣いていた。
一番聞きたかった言葉。
一番言って欲しかった人から出た言葉。
嬉しさの涙が止まらない。
留美は少し鼻声のまま、
「じゃあ、今、どうして欲しいのか、わかる?」
といって微笑む。
その顔は恥ずかしさでいっぱいであったが、耕治は何も言わなかった。ただ、
「わかります・・・」
とだけ言って静かに微笑むと、留美の頬の涙を指で掬い取るように拭い、瞳を閉じる留美にそっとキスをした。
「嬉しい・・・これで留美、耕治君と一緒になれるのね・・・」
「もう、“君”はつけないで下さい。」
「じゃあ、耕治も“さん”づけは止めて。」
耕治は留美の肢体に手を回し、抱きしめる。
「留美・・・」
「耕治・・・」
2人はゆっくりと折り重なり、喜びのため息を漏らす。
「あ・・・」
「留美・・・力を抜いて・・・」
「あ・・・こ、恐い。」
留美が少し震えると、
「大丈夫。オレに任せて・・・」
と耕治は留美の髪を優しく撫でる。
留美の瞳には、いつもより数段男らしい、力強い耕治が映る。
「うん・・・。もう平気。恐くないよ、耕治とだもん。」
そう言ってキスをする。
「愛してる・・・」
「オレも・・・愛してるよ・・・」
夜は静かに更け、2人はお互いを確認するように、何度も肌を重ねた。
翌朝・・・
「うーん。」
いつも先に起きるはずが無い留美が起きると、シャワーを浴びる。
(夢じゃ・・・ないんだ。)
留美は自分の太股に残る1本の紅い筋を見て、
「ふふふっ。」
と込み上げる笑みを受け止める。
鼻歌交じりのシャワーから出ても、耕治はまだ眠っている。
(あはっ!耕治ったら、よっぽど疲れているのね・・・)
そう思ってから、昨夜の情事を思い出し、赤面する。
別なことを考えようと外を見ると、いつぞやの晴れた日と同じ晴れ渡った空が広がる。
いつぞやの晴れた日と同じようにさわやかな風が吹き・・・
いつぞやの晴れた日と同じように耕治の側にいる自分・・・
(何も・・・変わらないんだ。)
いや、変わったのかもしれない。
留美の顔。
それは、もはや少女のそれではなく、男性を愛する女性のそれであった。
目覚めた耕治の顔。
それは、愛する人を眺める少年のそれではなく、ある種の力強さを秘めた男のそれであった。
そして、2人の視線。
それは、溢れるほどの愛おしさと求め合う強さを秘めていた。
耕治は夢の中で留美と一緒になったり、はぐれたりしている夢を見ていた。
けれど、以前のような不安はない。
いつでも、どこでも・・・
今の自分なら留美が聞こえる、留美が感じる・・・
そんな自信が感じられた。
Fin
Be happy together・・・
後書き
どうも、エロ小説デビューのKazyです。今回は最後の描写が一番てこずりました。本編を一生懸命思い出したり・・・(汗)、エロ漫画やSSを読んでみたり・・・(爆)、自分の体験を思い出してみたり・・・(核爆)。それで、Hちいくしないようにしました。感じ、出てるかなぁ?
とにかく、苦手三昧です。いずれ上手くなったら書き直します・・・ないだろうな・・・一生。
このSSは留美さんと耕治君はどうなった?ということを元に作ったのです。あずさ以外で、「Hイベントなし」というカクテルソフトで言えばヒロインと同じ地位に君臨した留美。(要求レベルもあずさを超えているし・・・)
この留美と耕治君が簡単につきあうはずわなーい、と思ったのがきっかけです。大体、どこの留美さんSSでは、この辺を全然書いてないので、「今回はいける!」ってことになったんです。そうぢゃないと、留美さんネタは、「ハジけるか、ハジけらざるか」に集約されちゃいそうだったんです・・・。留美さんは書くのが難しいキャラです。あずさのように、想像に余裕を持たせてはくれず、かなりかっちりと収まる所に収まってしまったので・・・。・・・まぁ、感想やご意見をお待ちしてます。リクも応えます・・・。
Kazy