祐一君のきわめて平穏な一日



この街に越してきて、早くも数ヶ月が経っていた・・・

最初は戸惑う事も多かった生活だったが、最近はそういう事もない。

慣れると言うのは恐ろしい事だ・・・

そして今日も・・・いつも通りの朝を迎える・・・・・・


”朝だよ〜 祐一に謎ジャム食べさせて学校に行くよ〜 ちなみに私は食べないよ〜 生け贄は祐一だけで十分だよ〜 ”


目覚し時計から聞こえてくる、眠くなるような声。

だが、内容が内容なだけにムカついて一発で起きる。

「・・・・・あ〜、朝っぱらから気分が悪い・・・」

事実だ。朝一から”生け贄 ”などと言われ、気分良く目覚める事が出来る奴など居ないだろう。

ちなみにこの目覚し時計は俺が置いたものじゃない。

俺は普通に”ジリリリリリリリン♪ ”と鳴るタイプのものをセットして寝ているのだが、朝になると何故かこれに変わっているのだ。

部屋の鍵を掛けて、入り口の前に本棚でバリケードを築いて眠ったとしても、だ。

翌朝になると必ず枕元に置いてある。

最初はその事にずいぶんと戸惑った俺だったが、最近は慣れた。

それはさて置き・・・いつもどおり名雪(この目覚し時計の声を吹き込んだ人物だ)を起こさないとな。

俺はさっと服を着て、名雪の部屋に向かった。


名雪。俺のいとこで幼なじみだ。

名雪はいつも通り、俺が部屋に入ってきた事に気づかず熟睡していた。

「お〜い、名雪〜? 早く起きないと遅刻するぞ〜?」

とりあえず名雪の肩を揺すりながら声をかける。

「くー・・・・くー・・・・」

全く起きる気配が無いのもいつも通り。

・・・とりあえず口を左右に引っ張ってみる。

「・・・くー・・・・・くー・・・・・」

効果無し。次は2〜3発、軽く往復ビンタだ。

”バシバシバシッ! ”

「くーくーくー・・・・・」

”ドカゲシゴキャッ!! ”

「はうはうはうっ!!!」

・・・グーでカウンターを食らった・・・

ホントにこいつ、寝てるのか?

・・・・・起きないって事は寝てるんだろうな・・・

俺は仕方無しに次の作戦へと移った。

窓を全開にして、名雪の布団を剥ぎ取ったのだ。

外は一面の銀世界。いくら名雪と言えど、この寒さで目が覚めないはずはないだろう。

「・・・・・・ぅぅ・・」

お、身を縮めて寒そうにしてる・・・・

よし、今だ!

「名雪〜、起きろ〜」

ここぞとばかりに声をかける。

すると名雪は・・・

「うみゅ・・・」

のそのそと起きて、窓に向かい・・・

”ガラララララララッ・・・ガチャッ ”

窓を閉め、鍵をかけ・・・

”ドカァッ!! ”

「はぅ!?」

裏拳一発で俺を弾き飛ばして布団を奪うと

「・・・くー・・・・くー・・・」

再び夢の中へと旅立っていった・・・

ちなみに俺は、三途の川であゆあゆと再会していた。

「UGUU・・・一人は寂しいよ・・・祐一君もこっちにおいでよぉ〜」

・・・こいつ・・・悪霊化してやがる・・・



「おはようございます、秋子さん。」

なんとか生還した俺は、台所で料理をしている秋子さんに挨拶をした。

「おはようございます、祐一さん。」

穏やかに微笑みながら、挨拶を返してくれる秋子さん。

秋子さん・・・この家の主にして、名雪の母親。俺の叔母さんに当たる人だ。

「・・・・・おばさん?」

「いえ、お姉様です・・・」

見かけは温和な人だが、怒らせるととことん恐い。

どれくらい恐いかと言うと・・・



「あ、祐一さん?名雪はまだ起きませんか?」

「ええ、今日はいつもより寝起きが悪くて・・・」

「そう・・ですか・・・・ちょっと起こしてきますね。」

そう言って2階に上がっていく秋子さん。そして数分後・・・

「お待たせしました。さ、朝ご飯にしましょう。」

「・・・・・・・」

2階から、穏やかな微笑みを浮かべた秋子さんと・・・顔を真っ青にした名雪が降りてくる。

「・・・おい名雪・・・大丈夫か?」

「”ビクッ!! ”・・・・・う・・・あ・・・・うぅ・・・・・・・・・・」

壊れた人形みたいに虚ろな瞳をしながら、首を前後にカクカク揺らす名雪。

全然大丈夫そうには見えない。

「・・・今日は一体、どんな起こされ方だったんだ?」

心配になった俺は、小声で名雪に問い掛けた。だが、答えたのは・・・

「・・・・・・・知りたいですか?」

秋子さんだった。顔は微笑んでいるが・・・目は全然笑ってない。

しかも手には・・・怪しげなビンが握られている・・・・・・

”名雪・・・アレを食わされたな・・・ ”

俺は慌てて首を横に振った・・・



と、まぁこれくらい恐いわけだ。

・・・え?これじゃ分からないって?

・・・”アレ ”の正体・・・・・聞かない方が良いと思うぞ?

聞いたら多分、生まれてきた事を後悔する事になるだろうから・・・・・・



これがいつも通りの朝の風景だ。

そして今日も、俺と名雪は学校へと向かう・・・


「・・・祐一・・・どうして起こしてくれなかったの?」

登校途中、上目遣いで俺を見ながら名雪がぼそっと呟く。

どうやらさっき、秋子さんに起こされる事になったのが俺のせいだと思っているらしい。

「何度起こしても、お前が起きなかっただけだよ。」

「それでも祐一が起こしてくれてれば・・・・・」

「俺はお前の裏拳を受けて、三途の川を渡りかけたんだぞ?」

「アレを食べさせられるよりは良いよ・・・」

・・・それを言われると何も言い返せない。

「あ、俺今日日直だから先に行くよ!」

名雪に返事をする間を与えず、ダッシュする。。

「あ、祐一! 今日のアレ、どんな味がしたか聞いてってよ〜! 一緒に不幸な気分になろうよ〜!」

”フザケンナ・・・ ”

俺は後ろで騒いでいる名雪を無視して、学校目指して走る。だが・・・

「あ、祐一さん〜っ」

不意に声をかけられ、立ち止まる。

俺に声をかけたのは・・・見知った二人組みだった。

「よ、お二人さん。」

「祐一さん。おはようございます。」

「祐一・・・おはよう。」

二人の名前は・・・佐祐理さんと舞だ。二人は俺の一個上で、先輩に当たる。

「佐祐理は祐一さんの事、後輩だなんて思ってませんよ〜」

「祐一、後輩と違う。」

そ。二人は先輩と言うより、仲の良い

「祐一さんは佐祐理の下僕ですよ〜☆」

「祐一、斬って良いか?」

俺の・・・

「祐一さん〜、佐祐理の鞄、持ってください〜☆」

「祐一、腕を出せ。」

友達・・・

「祐一さん〜、佐祐理、喉が乾きました〜☆」

「祐一、足でも良い。」

・・・・・なんかじゃ決してない。

佐祐理さんは穏やかな顔をしながらとんでもない事を言うし、舞はやたらと俺を斬りたがる。

世の中には、”佐祐理さんの奴隷になりたい〜 ”とか、”舞になら斬られても良い・・・ ”ってアブノーマルな奴も居るかもしれないが、俺はノーマルだ。

「・・・・・朝っぱらから嫌な人たちに会っちまったぜ・・・」

「あはは〜、そんな事言ってると薄皮剥いでそこに唐辛子を擦り付けますよ〜☆」

「祐一、耳でも良い。」

にこやか&無表情で言う二人。

「俺ってもしかして・・・かなり不幸なのかもしれない・・・」

「あはは〜、こんな美人の下僕なんだからもっと喜べこのアホが〜☆」

「祐一、やっぱり腕が良い。」

・・・・・絶対に不幸だ・・・



学校・・・・・・・・・・・・・

それは俺にとって唯一の安らぎの場所・・・・・・


「・・・・くー・・・・・くー・・・・・・」

「どーせ私は影が薄いわよ・・・」

「俺なんて影すらないんだぜ・・・?」

・・・・たとえ周りが五月蝿くても、少なくとも命の危険はない・・・

「・・・・・うぅ〜・・・・腕に鱗が・・・・リザードマンに・・・・」

「どーせ私は脇役よ・・・」

「CGがあるだけマシだ・・・」

・・・・・・でも気が滅入る事は確かだ・・・・あんまり安らげないかもしれない・・・・・・



昼休み・・・・・・・・・

本来なら昼ご飯を食べる時間・・・・・・

だが俺は、昼ご飯も食べずに中庭へと向かう・・・・・


「あ、祐一さん・・・今日も来てくれたんですね・・・」

中庭で俺を待っていた一人の少女。・・・・・・・・・栞。

この学校の生徒でありながら、病気の為休んでいる・・・発酵の少女。

「発酵の字が違います。それを言うなら、薄幸の美少女です。」

自分で”美少女 ”と言う辺りが腐ってると思う。

「そんな事考える人、嫌いです。」

うるさい黙れ。

「それはともかく・・・」

”こほんっ ”と小さく咳をしてから、栞が続ける。

「祐一さん・・・どうしていつも、私に会いに来てくれるんですか?」

「・・・来ないとお前が呪いをかけるからだろうが・・・」

・・・以前、栞に呪いをかけられて命を落としかけた事がある・・・・

「祐一さん・・・・・やっぱり私の事が好きなんですね・・・」

「人の話を聞け。」

「私も祐一さんの事・・・・・好きです(ぽっ)」

「好きな相手に呪いをかけるな・・・」

「でも私は・・・後1ヶ月しか生きられないんです・・・」

「3ヶ月前にも同じ台詞を聞いた・・・」

・・・その言葉に騙されて、この寒い中わざわざ中庭に来るようになったんだよな・・・

で、いつの間にか俺の髪の毛と血液を採取されてて・・・俺に呪いをかける材料として活躍中らしい。

「ああ、やっぱりヒロインと言えば薄幸! 薄幸と言えばヒロイン! 私がこのゲームのヒロインなのですね〜!」

・・・完全に自分の世界に入っている栞。

医者の話だと、彼女の病名は”悲劇のヒロイン症候群 ”らしい。

不治の病。しかも末期症状で手後れらしい。

「これで眼鏡をかけて、ポニーテールにして、”お兄ちゃん(はぁと) ”って言えば完璧です〜! 世の中の男の人はみんな私の と・り・こ♪」

・・・その病が死病でない事が悔やまれる・・・心から・・・・



放課後・・・・・・・・・・・・

俺はまっすぐ地獄・・もとい家には帰らず、なるべく長時間商店街をうろついてから帰る・・・

「UGUUUUUUUU!! 祐一君!!!」

・・・しまった・・・ここには悪霊が出没するんだった・・・

「UGUUUUUUUU!! ボクは悪霊なんかじゃないよっ!!」

じゃあ一体なんだ?

「生霊だよ。」

・・・その生霊が俺に何のようだ?

「祐一君をこっちの世界に連れて行こうと思って・・・」

それを悪霊と言うんだよ・・・

「酷いよ・・・祐一君・・・・ボクは祐一君と一緒に居たいだけなのに、くけけけけ。」

”くけけけけ ”はやめろ・・・タイヤキやるからどっか行け。

”ぽいっ ”

「タイヤキ・・・・・U・・・・UGUUUUUUUUUUU!!!!!」

悪霊・・・正式名称はあゆあゆと言うが、そんな事はどうでも良い。

俺は悪霊がタイヤキを食い荒らしている隙にその場から逃げ出した。



夕刻・・・・・・・・・・・・・・・

温もりを求めて、家路に就く・・・・・・

”今日のおかずは何かな? ”などと言う事を考えながら・・・・・・


「真琴です。」

「今日は晩御飯いらないです・・・」

この家に温もりなどと言う単語は存在しない・・・・・



夜・・・・・・・・・・・・・・・

出来れば明日が来ない事を祈りながら、眠りに就く・・・

だが結局は・・・・・・


翌朝


”朝だよ〜 今日こそ祐一に謎ジャム食べさせるよ〜 ちなみに私は絶対に食べないよ〜 生け贄は祐一だけで十分だよ〜 ”

”UGUU・・・朝だよ・・・そのまま眠ってればボクの所に来れるよ・・・UGU・・・UGUUUUUU!!! ”

”朝だ。何処でもいいから斬らせろ ”

”寝坊して昼休みに中庭に来れない人は嫌いです ”

”あうぅ・・・出番これだけ? ”

いつのまにか目覚し時計が5個に増えていた・・・・・




祐一君のきわめて平穏な一日 おしまい


あとがき


ど〜も〜♪
初めましての方は初めまして。
綾辻と申します。
それではさようなら(逃げるな(笑))
いやはや・・・何を思ったかこんな物を書いてしまいました・・・
とりあえず、良い子ちゃん揃いのKanonのキャラ達を壊してみたかったんですけど・・・・
やりすぎましたかね(^^;)?
よろしければ感想とか下さい(笑)
って言うかその前にこれは吉良さんに受け取ってもらえるのか!?(爆)
それでは、また機会がございましたらお会いしましょう(^^)
・・・Kanonファンに刺されてなければ(爆)


綾辻プー助さん、素晴らしいSSの投稿ありがとうございます!

・・・えーっと、これはKanosoの二次小説でしょうか(爆)

ってのは、わかる人にしかわからないですね、まー、大爆笑させて頂きました。

以前に頂いた同級生2SSの後に読んだ人はぶったまげたでしょうねえ・・・Kanonファンの皆様、どうか思い切り笑って許してあげてくださいね(笑)

このSSの筆者、綾辻さんは桜咲く街のHP主催者で、Piaキャロ2、Kanon、FFZのSSの他、CGも書いておられる多芸な御方です。

まだこのHPを知らない方は是非、上記のリンクより御覧になってください!

また、このSSの感想を綾辻さんに伝えましょう!

☆感想はこちらまで☆

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