Kanon Short Story
かおりんの恋は止まらない♪ 最終話(前編)
今日の朝ほど本当に恥ずかしい朝は無かった、いろんな意味で・・・。
かち。
「おはよう祐一、もう朝よ・・・早く起きて、ねえ祐一・・・」
がばっ!
かち。
「じ、自分の声で起こされるなんて・・・恥ずかしくいて死にそうよ!」
「何で止めたんだよ、香里?」
「ゆ、祐一!? 起きてたの?」
「せっかく最後まで聞きたかったのに、香里が止めちゃうし・・・」
「祐一はいいかもしれないけど・・・でも私はもの凄く恥ずかしかったわよ!」
「それもそうか・・・じゃあこうしよう♪」
「何?」
ぐいっ。
ちゅ。
「おはよう香里♪」
「も、もうっ・・・おはよう祐一」
祐一ったら・・いきなりキスしないでよね、まあ嫌じゃないけど。
その後お互い背中を向けて服を着替えると、隣で喧しくなっている目覚まし時計を止める為に
二人で名雪の部屋のドアをノックした。
「名雪入るぞ・・・」
祐一は手慣れた様子で部屋の中に入ると、次々に目覚まし時計を止めていく。
しかし本当に何個有るのかしら?
漸く全部止めた祐一が名雪の肩を掴んで揺さぶる。
「おい、名雪! 朝だぞ!」
「くー」
「名雪! 早く起きろ、遅刻するぞ!」
「うにゅ」
本当に起きないわね・・・祐一の苦労がやっと解ったわ。
「な、名雪!?」
「う〜祐一・・・朝はおはようのキスだよ、ん〜」
「ちょ、ちょっと名雪、何やってんのよ!?」
この私の目の前で祐一に抱きついて、あまつさえキスをねだるなんて・・・制裁決定。
がすっ。
私は手加減無しで名雪の頭をげんこつで殴った。
「いきましょう、祐一」
「あ、ああ・・・」
頭を押さえて床をごろごろしている名雪を見下ろしてから、私は祐一の手を引いて下に降りていった。
リビングに来ると秋子さんが朝食の用意をしていた。
「おはようございます祐一さん、香里さん」
「おはようございます、秋子さん」
「おはようございます」
秋子さんは挨拶を交わした後、ニッコリと微笑んだ。
「何事も程々にしてくださいね」
そう言って秋子さんは踵をかえしてキッチンの方にハミングしながら行ってしまった。
真っ赤になりながら横目で祐一を見ると、腰の辺りでやっぱり拳を握って親指を立てていた。
もちろん秋子さんも後ろ手にピースサインをしていた。
はぁ〜・・・まあいいわ。
私たちが席に着いたら頭を押さえた名雪と涙目のあゆちゃんとびくびくしている真琴ちゃんがやってきた。
「う〜酷いよ香里・・・」
「おはよう名雪、目が覚めたでしょう?」
「たんこぶできたよ〜、う〜」
「あなたが変なことしなければ良かったのよ」
「う〜」
「香里さん!」
「おはようあゆちゃん」
「うん、おはよう・・・ってそうじゃないよ、ボクのたい焼きは?」
「えっ・・・あ〜あれね、祐一が川澄さんに全部上げちゃったからもう無いわよ」
「うぐぅ、酷いよ祐一くん!」
「あれ? あのたい焼きあゆのだったのか?」
「そうだよ! それなのに・・・うぐぅ」
「あゆ・・・過去を振り返ってばかりじゃダメだぞ? もっと前向きに生きような!」
「誤魔化さないでよ、祐一くん!」
「あ〜悪かった・・・じゃあこれ食うか?」
そう言って祐一は食いかけのトーストをあゆちゃんに渡そうとした。
「そんなのいらないよ・・・って、うぐぅ?」
「どうした、いらないのか?」
「ゆ、祐一? そ、それって・・・」
名雪ががくがく震えている、ふふっ。
「あうー祐一がおかしいよー!」
真琴ちゃんもびくびくしているわね くすっ。
「うぐぅ、祐一くんが壊れちゃったよう〜」
ふふっ、困っているわね・・・食べれば祐一と間接キスが出来るのに・・・ね。
私は祐一の持っているトーストがオレンジ色したジャムを塗られているのじっとを見つめる。
そう・・・あれは秋子さんの自信作よ。
「ほらっ遠慮しないでがぶっといけよ、あゆ」
「う、うぐぅ・・・食べたいのは食べたいけど・・・」
「しょうがないな・・・よし、俺が食わせてやるよ」
「うぐぅ!?」
祐一はあゆちゃんの首根っこを押さえると、トーストをその可愛らしい口の中に押し込んだ。
ぱた。
あらあら、あゆちゃん硬直したかと思ったら、そのまま床の上で何とも言えない表情で気絶しちゃった。
でも幸せでしょ? 祐一と間接キスしたんだから。
座り直して食卓に視線を戻すとさっきまで居た名雪と真琴ちゃんの姿がいなくなっていた。
二人とも賢い選択だわ、今日は生き延びたわね。
「はい、香里さん」
と、秋子さんが私の前にある皿に置いた物は香ばしいトーストでオレンジ色したジャムがたっぷりと塗られていた。
「遠慮しないでどうぞ♪」
しばし見つめているとそのジャムに意識が吸われていくような感じがしちゃう・・・。
ごく。
私は覚悟を決めてそのトーストをおそるおそる手に取るとやっくりと口元に運んだ。
「おい香里、無理しなくても俺が・・・」
手を伸ばして私の分を食べようとした祐一を制して、私はニッコリ笑うとトーストに一口食べる。
かぷ。
「本当に・・・美味しいわね」
「ああ、そうだな」
その時は確かに秋子さんのジャムが美味しく感じられた・・・でも、ほんの一瞬だけどね。
二人で学校に向かう途中、私に家の方から栞が小走りにやってきた。
「おはようございます祐一さん・・・とお姉ちゃん」
「おはよう栞」
「おはよう栞・・・何、その目は?」
栞は私の顔をじーっと睨んでいる・・・ちょっと怖いわ、まあ気持ちはわかるんだけどね。
三人で歩き出すと隣にいる栞が私の袖をつんつんと引っ張る。
「なあに、栞?」
「お姉ちゃん、昨日は何もなかったでしょうね?」
「何が?」
「何がって・・・その、つまり・・・あの・・・」
栞が何を聞きたいのか解っているけど私はにこっと笑って栞の顔を見つめる。
すると栞の目が潤みだして、口がへの字になってきたわ。
「そんな風に聞くお姉ちゃんなんてだいっ嫌いですぅー!」
と、いつものセリフを残して学校に向かって全速力で走っていった。
「香里、あれじゃ栞が可哀想じゃないのか?」
「あら、じゃあホントのこと言っても良かったの?」
「うっ、それは・・・」
「あんまり気にしなくても大丈夫よ、あの娘」
そんな風に答えた私の顔を祐一はじっと見つめて呟く。
「香里、なんだか性格変わってないか?」
「そう? ・・・そうかもしれないわね、だって・・・」
「だって?」
それは祐一の所為なんだけど、私は何も言わず微笑んで祐一を見つめる。
「ふふっ、行きましょう祐一♪」
「お、おい香里」
私は先に歩き出して祐一の手を引っ張ると、少し早足で学校に向かった。
教室に入り自分の席に近づくと、名雪が机にもたれ掛かって唸っていた。
「う〜」
そんな名雪を見た私と祐一は、二人肩を竦めて苦笑いするしかなかった。
「おはよう美坂、相沢」
「おはよう北川君」
「おう北川」
「なあ・・・どうして水瀬は唸っているんだ?」
「ああっいいのよ、そのままにしておいて上げて」
「何だよそれ? 訳がわからん」
苦笑いしている祐一を横目で見てから、首を捻って考え込む北川君に事情を説明して上げる。
「あのね、私と祐一が付き合う事になったからそれで拗ねてるのよ」
北川君が突然固まって微動だにしない・・・どうして?
「北川、あのな・・・」
「うそだーっ!!」
だだだだだだーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!
「北川君?」
何か叫んで外に走って行っちゃったわ・・・。
「ねえ祐一、北川君どうしたのかしら?」
「香里、おまえって意外に残酷だな」
「失礼な言い方ね祐一、私が何かしたの?」
「自覚が無い分更に極悪だな・・・」
「なんなのよ?」
祐一は授業の準備をしてそれ以上何も言ってくれないから、私も追求するのは諦めた。
結局授業が始まっても北川君は教室を飛び出したまま帰って来なかった・・・変な北川君。
午前中の授業も終わりお昼になったので、祐一とまだいじけている名雪を連れて食堂に向かう。
「う〜」
「名雪、今日は私の分のイチゴムースを上げるから元気出して」
「そうだ名雪、俺の分も上げるからな?」
「う〜」
三人共Aランチを頼んで私と祐一のイチゴムースを名雪に上げた。
唸りながらも三つのイチゴムースは名雪のお腹の中に全部消えちゃった。
「けっぷ」
「いい食べっぷりだったわ、名雪」
「そうだな、俺も感心しちゃったぞ」
「う〜、こんなに悲しいのにお腹は空くんだよ〜」
「早く元気出してね、親友としては出来る限り協力して上げるから」
「本当に〜?」
縋るような目で私を見つめる名雪が何を言いたいのか解ったから言われる前に言う。
「祐一はダメよ?」
「う〜、まだ何も言ってないよ、香里〜」
ほっぺたを膨らませてじ〜と私を睨む名雪の頭をそっと撫でて上げる。
「祐一に関しては譲れないのよ」
「ちょっとだけでいいから〜・・・だめ?」
「だ〜め、諦めなさい」
「う〜香里〜」
「ごめんな名雪、でも俺には名雪が大事ないとこだってのは変わらないから」
「祐一・・・」
祐一の真剣な眼差しに名雪は俯いて黙り込んでしまう・・・そうだわ!
「ねえ名雪、北川君なんてどう?」
「嫌だよ〜そんなのっ! 祐一が良いんだよ〜」
「北川、今度美味い物奢ってやるからな・・・」
あらっ? 何でさめざめ泣いているの、祐一?
でもちょっとは元気になった名雪と祐一と三人で教室に戻った。
後編に続く。
すいません、長くなってしまいました。
書きたいこと書いてたらいつの間にかこんな事に・・・うぐぅ。
でも北川の気持ちに気が付かない香里って・・・残酷(笑)
さあ、祐一を好きな彼女たちが決めた在る事とは一体なんなのか?
ちょっぴりシリアスで進むかおりんです。
さあ、後編はもっとシリアスに! 目指せCDドラマ化(嘘)